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エピローグ

俺には解ってしまった事がある。どうやら愛情には種類があるらしい。

エピローグ 


 俺の渾身の一撃はすっぽ抜けた。

 

それはなぜか? 振りかぶり今まさに光剣を振りおろそうとした瞬間、『大成功』と書かれたカンバンを持つ二人の女の子――つまり美咲とあいつが――俺の目の前に現れたからだ。思わずペタリと地面に座り込んで放心してしまう俺。

「キャーコージサンカッコイー」

 名前は忘れたがとにかくあいつだ! 美咲はニコニコしていた。

 あまりの事に言葉を失う俺……。

「あ…これ危ないから…」なんてのたまいながら例の球体をどこかにしまい込んでいる。俺の顔の前で 手のひらを左右に何回か降った後、俺の前に膝をつき今尚方針中の俺のくちびるを奪う。柔らかい感触だった。

「うわぁあああああああああ」

 数秒間のその感触の後、何が起こったかようやく理解した俺は無様な悲鳴をあげて激しく後ずさって壁に後頭部をぶつける。

 …痛い……。

「男の気付けは…これが一番」

 ようやく我を取り戻した俺は今ここで起こっていることの理解に頭をフル回転させた。

 腕をもがれて死んだはずの美咲……。生きてる。両腕もちゃんとある。俺達の敵のはずのあいつ……。今は全く敵意を感じない。まあ元々感じなかったような気もするが……。

『大成功』? 何がだ? ……ダメだ頭が回らない。

「コージさん?」

 美咲が済まなさそうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。そうか、ようやく合点がいった。

「おっちゃん、かつがれちゃったよー。まったく参ったなー。……なんて思えるかい!」

 美咲の手を掴み強引に引っ張る。

 え? 腕が……取れた……。苦悶の表情の美咲。

「うわぁぁああああああ!」再度、絶叫。

「ジョイントで固定しているだけなので……。引っ張られると取れちゃうんです……」

と、美咲。

 ああ、そうなのか。と、いまいち理解できなかったが腕を美咲に返す俺。そして腕をはめる美咲。

「うわぁぁぁああああああ!」

 三度、絶叫。ようやく理解できた。

「コージ…面白い…」

「コ、コージさん安心してください。半日もあれば元通りになります」

 俺の反応に焦ったのか美咲がそう加える。

 そうじゃない、そうじゃないんだよ。……この絶叫の理由は!

「もう一発…気付けしとく…?」

 お前は黙ってろ!



「さて……。詳しく話してもらおうか?」

 俺が少し落ち着きを取り戻したのを見て美咲は「場所を変えましょう」と提案した。素直にそれに従う俺。いつもの1DK(バストイレ別)である。

「いや、お前らに一方的に話されてもはぐらかされる恐れがある。俺が一方的に質問をする。お前らはそれに正直に答える。ユーノウ?」

「はい」「うん」

 本来なら烈火の如く怒り彼女らを惨殺しても許されるような場面なのだが、不思議と怒りは湧いてこなかった。正確に言うとものすごく怒っているのだが安堵感の方が勝りなんとか平静を保っている状態だ。

 そう、『ゲーム』が実はマッチポンプだと知って俺は安心したのだ。今回は勝てた。だが、考えてみればこれが本当に宇宙人の侵略行為で一介の少年である俺に町のみんなの命が委ねられる、なんて状況が続くかもしれないなんて思ったら鬱になってしまう。それからの解放感と何よりも美咲が生きていたことに安堵したのだ。

 俺さえ我慢すればこの場が収まると考えるとなんとなくそれでいいや、という気持ちになれる……はずだ。

「じゃあ、一つ目だ。ミサキ、お前は死んだんじゃなかったのか?」

「私はコアさえ破壊されなければ死なないと申したはずですが……」

「いや、そうじゃなくて。お前は死んだふりをしていただけなのか?」

「違う…武器は全部本物…美咲は一時、本当に機能停止してた。コージ…あなたも当たってたら死んでたの」

 背中に悪寒が走った……。この件はここで止めた方がいいかもな……。

「これも本物…その方が…リアリティーある…でしょ?」

 と、どこからか黒い球体を取り出し、俺がそれに視線を移したのを確認するとまたどこかに仕舞い込む。

 そんなもんのために自分たちを傷つけたって言うのか? 下手をすれば死んでしまうかもしれないのに……。ダメだ…価値観が違いすぎる。

 ……質問を変えよう。

「ま、まあ、それはいいとしよう。そもそもこの自作自演はいつから始めたんだ?」

「コージさんと初めて会った時からです」

「はぁ?」

 ああ、なんか頭がクラクラしてきた……。

「本来は私が適当なところでコージさんにわざと倒させる予定だったのですが、あなたに自力で倒されたのは予定外でした」

「うん…だから難易度を上げてみようってことになったの…ヒントもちゃんと出した…」

 おいおい! 頭を抱えてこの夏起こった出来事を順に思いだしてみる。確かにこちらの都合を知らないで『ゲーム』をすることに決まったのなら日程の都合がよすぎるな……。それじゃあ、俺の決意はいったい何だったんだ……。

「するとなにか? そのヒントに気づかなかった俺がバカだって話か?」

 今思えば確かにそのようなものはあった気はするが、お前らが持ってくる非現実の前で気づけるかってーの。

「違う…ヒントに気づいてミサキを問い詰める…それがゲームクリアの第二条件…」

「ちょっと待て、第二条件なんて一言もいってなかったじゃないか!」

「それも違う…案内状にちゃんと書いてある…だから、ちゃんと見てって言ったの」

「……」

 確かに見なかった……。椿にもちゃんと見て考えろって言われたのに……。

 ああ、俺の馬鹿……。

「要するに、だ。全てを知っている美咲は俺が悩んだり苦しんだりしてるのを見て腹の中で笑ってたってわけだな?」

「それは違います!」

 美咲が泣きそうな顔で否定する。普段ならそこで止まるのだろうが、やっぱりだんだん腹が立ってきた。

「それにお前! 本物の武器を使ったって、結果的に死ななかっただけで、もし、当たってたらどうするつもりだったんだ!」

「それは…ごめんなさい…最初は当たらないように加減してたの。でも…当たらないから少しむきになった。お詫びに…私の事を好きにしていい…」

 と言い服を脱ぎ出す。それを手で制す俺。今さら色気仕掛けに乗るかって。

「私のこと…いくら怒ってもいいの。でも…ミサキは許してあげて…彼女は…彼女は…苦しんでたの…」

「コージさん…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 そうとだけ言うと美咲はうつむいて泣くような仕草をする。

 本来ならば美咲を優しく抱きしめてやる場面かもしれない。しかし、俺はそれを見て怒りでも焦りでもなく、何か彼女に失望のようなものを感じていた。

「…嘘をつくな! 演技でごまかすんじゃない!」

 そうだ、美咲は俺に嘘をついている。出会いから――その過程の出来事は別としても、これはあらかじめ予定されていた『ゲーム』だったのだ。

俺を騙していることに済まなく思うことはあっても苦しむまで思うはずはない。

「これ以上俺を騙さないでくれ! …でないと…お前を許せなくなりそうだ……」

 自分の言葉にハッとした。そう、俺は彼女たちを許そうとしている。いや、許したいと思っている。何故だ?

 気まずい沈黙……。彼女たちは何も言わない。いや、何も言えないでいる。

 そんな中、美咲の目から涙があふれ出した。そして、まるで赤子のように泣きじゃくる美咲。それは初めて見る彼女の涙だった。

「……ふぅ、解ったよ! もう許すし、今後この件について追及もしない。まったく……」

 大の字に寝転ぶ。泣きたいのはこっちだっての。だけど、これじゃあ俺の方が悪者みたいじゃないか!

 美咲の泣き顔。まるで悪戯がばれた子供の様なとても素直な泣き顔。それを見つめる俺。これじゃあ、まるで俺が子供を叱るお父さんみたいだ。これが……彼女を許したいと思った原因なのだろうか? 俺は頭を掻くと泣きじゃくる美咲をそっと抱きしめて「もう怒ってないよ」と言ってやった。


 ……この感情の名前は何というのだろう?


「俺を弄ぶ気はなかった。そう言いたいんだな? じゃあ、目的は何だったんだ?」

 言葉を選びできるだけ穏やかな声でそう尋ねた。

「コージ」

 あいつが言いかけると落ち着いたのか美咲がそれを制した。

「私に説明させてください……」

「ああ」

「私たちは母星と地球との関係を対等か最悪でも遭遇がなかった事にしようという一派に所属しています」

 頭を掻きながら彼女を手で制する。ああ、もう美咲が言いたいことが解っちまったよ。

「だから少しでも地球がすごいぞって所を見せておきたいって言いたいんだろ?」

 そうか。今更ながら思いいたる。

 こいつらは『幼い』んだ。見た目は俺と同じぐらいだが、生まれてからまだ大して時間が経っていない。こんな幼稚な計画で国家の方針に影響がでるわけがないのだが、それが解っていない。だから、こんな事をしてしまったんだ。

「うん…いい画が撮れた」

 お前は黙ってろ!

「ああ、まったく! お前は相も変わらずまったく解ってない…俺が何に対して怒っていたか解るか?」

「私たちがコージさんを酷い目に…」

 俺は言葉を続けさせなかった。

「だ・か・ら、解ってないって言っているんだ。俺はな、美咲……お前が俺に何も言わなかったことに対して怒ってるんだよ。……俺は確かに富も権力のない一介の高校生だ。お前らから見て俺は観察対象ってだけかもしれない。それでもいい。だがな、巻き込んだ以上これからはちゃんと話せ、秘密はなしだ」

 あー、本当に言葉って難しいな。頭をくしゃくしゃと掻いて少し考える。

「要するに、だ……。ちゃんと俺を頼れ、と言いたいんだ!」

 結局、上手い言葉に思い当たらずにこうぶっきらぼうに言い放った。


「はいっ」満面の笑みだった。


 この夏、美咲と出会った。彼女と色々な経験をした。終わってみれば『ゲーム』ですらヒーロごっこのようでワクワクして楽しかった……と、思う。

 残りの数か月間、また、たくさんの経験を彼女とするだろう。美咲と一緒に嬉しかったり、楽しかったり、怒ったり、悲しかったり……とにかく色々な経験を、だ。

 そして、俺は答えを出すんだ。俺の中でこの夏生まれた温かいこの感情に……。


「コージさん、さっそくで……差し出がましいのですが、お願いがあります……」

 美咲がはにかんだ表情で何か言いにくそうな感じに俺に言う。

 俺は彼女のその表情を見て解ってしまったのだ。彼女のその先の言葉は勿論だが、もっと大事な事に。そして、俺はその先は聞かず、ただ笑顔を返してやった。

 今まで、その言葉に縁がなかった俺としては正直使ってしまう事に戸惑いと言うか恥じらいの様なものがある。

 しかし、俺には解ってしまったのだ。

 どうやら、愛情というものには種類があるらしい。


 ……どうやら、この夏、家族が二人増えたらしい。



最後まで読んで下さった方ありがとうございます。本作は後半を盛り上げる為に前半を意図的に盛り上がりに欠ける内容としていました。故に前半でリタイアしてしまった方が多かったのではないかと思っております。ですから、もう一度言わせて下さい。最後まで読んでくださってありがとうございました。

本来はコージが美咲たちと過ごす一年間で話が完結するわけですが取り合えずここで一旦完結となります。

次に何を書くかは未定ですが、よろしかったら次回作もお付き合いください。

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