リカバリーライフ
ああ、疲れた……。
ベッドに倒れ込みながら、思わずそんな独り言がこぼれ落ちた。すでに日付は24時を回っている。終電で帰宅し、始発に乗って数時間かけて職場まで向かう毎日。体が異様に重い。全身を襲う疲労感、全ての気力を奪っていくこの気怠さ。正直まだ風呂にも入っていなかったが、一度寝転んだら、もう二度と起き上がれる気分ではなかった。
疲れた。疲れた。疲れた。
今日も一日中、外を歩き回っていた。ふくらはぎがパンパンに張り、太ももの辺りの筋肉が頼んでもないのにピクピクと蠢く。余談だが、人間の筋肉の約60〜70%は下半身にあるのだとか。歩き回れなくなったらこの仕事は終わりだ。明日も朝は早い。眠らなくては。眠らなくては。
少しでも回復したい。
「ん?」
不意にスマホの通知が鳴った。広告だった。私が一度「疲労回復」と検索したら、頼んでもないのに「回復アイテム」の広告が津波のように押し寄せてくる。一体どういう仕組みなのだろう。この前など、友人と釣りの会話をしていたら、画面が釣り道具だらけになってしまった。きっと私の音声をこっそり収集しているに違いない。
横になったまま、私は画面を光らせた。
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Have a recovery・LIFE!
疲れたあなたに最高のリカバリー生活を。
お仕事に家事、勉強……毎日疲れ切っていませんか?
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……何だか良くわからない。普段なら気にも留めない、速攻で×ボタンを押す広告だった。しかし、ネットの広告というのはどうしてどれもこれも不快なのだろう。一体どれほどの効果があるのだろうか。宣伝として根本的に間違っている気がする。
だけどやっぱり、私は疲れていたのだろう。
藁にもすがる思いで、私は眠い目を瞬かせながら、いつの間にか「注文」のボタンを押していた……。
※※※
「おはよう!」
リカバリー目覚ましで定刻通りに起きた私は、笑顔でリビングへと降りていった。昨日通販で届いていたリカバリーフードを頬張り、リカバリー歯磨きをし、リカバリーウェアに袖を通す。たちまち疲労が回復していく。ような気がする。私は思わず笑顔をこぼした。
「行ってきます!」
家族はまだ眠っていた。夜明け前の薄暗い細道を抜け、スキップしながら駅まで向かう。リカバリー靴を履くようになって以来、足が軽い。リカバリー靴下と合わせれば効果は2倍だ。計算式は良く分からないが、きっと2倍だろう。
体が軽い。最高だ。
サブスク登録したリカバリー・アイテムのおかげで、私の生活は一変した。
最初は半信半疑だった。何がリカバリーだ。着るだけで回復するとか、どう考えてもインチキ霊感商法じゃないか。消費者庁に訴えるつもりで試着してみたら、しかしなんと、これが効果絶大だった。ような気がした。
今ではすっかりリカバリーグッズにハマっている。
これなしではもう生きられない。リカバリー腕時計を見た。いい感じだ。普通の腕時計より四十肩が軽い。このサブスクに登録してから、私は思い切ってリカバリー転職した。今ではリカバリー職場でリカバリーワークをこなし、たまにリカバリー上司にリカバられたり、リカバリー部下をリカバったりしながら、日々回復しながら仕事をリカバーしている。
不意に足元がふらついた。でも大丈夫。毎日スマホに送られてくるリカバリー・スコアは高得点だ。
このサブスクに登録してから、酒の量も減った。代わりに専用のリカバリ酒を飲むようになった。飲むだけで回復。痩せ効果、健康になるという。タバコもいつの間にか吸わなくなった。代わりにリカバリー■■■■を吸うようになった。日本ではまだ厳密にいうと違法らしいが、認可も間近だという。いずれスタンダードになり、入手困難になるだろう。
数々のリカバリーアイテムのおかげで、家族との関係も良好になった。休みの日には子供のリカバリー部活に顔を出したり、妻と3人でリカバりに出かけるようにもなった。この間など、気に食わない父兄や部活の顧問をリカバってやったら、今では近所からリカバリー・ペアレントなんて呼ばれている。
仕事帰り。リカバリー・ホームでリカバリ電車を待つ間、私は得も言われぬリカバリ感に包まれていた。素晴らしい。リカバリーさまさまだ。全くウェルビーイングでレジリエンスでウェルネスでサステナブルでウェアラブルなライフスタイルだ。もっと回復したい。私の人生、もっともっとリカバリーできる。
すると、不意にスマホが鳴った。
待ってました。新商品だ。私は思わず顔を綻ばせた。早く私を休ませてくれ。出来れば永遠に……。
私は笑顔で新商品のリカバリー墓を購入し、そのまま電車に飛び込んだ。




