第4話 支給品の防盾
### 第4話 支給品の防盾
離脱した斥候型が呼んだと思われる増援は、幸いにもすぐには現れなかった。生存者たちは、負傷者を抱えながら、少しでも安全な場所を求めて荒野を移動することにした。
「通信が回復するまで、とにかく身を隠しながら本隊との合流を目指すしかない」
ガイがそう方針を告げると、誰も異論を挟まなかった。今この場において、実質的なリーダーは彼になっていた。もっとも、その隣を歩くハヤトの存在を、もはや誰も「後方支援要員」として軽く見る者はいなくなっていたが。
移動を始めて半日ほど経った頃、生存者の一人――整備班配属予定だった女性訓練生が、疲労から足を滑らせて転倒した。とっさに手をついた拍子に、彼女が持っていた簡易防盾が地面に転がり落ちる。
「あ、ごめん、もう歩けない……足首、挫いたかも」
「大丈夫か。少し休もう」
ガイが彼女を支えながら、休憩を指示した。ハヤトは、地面に転がったままの防盾に目をやった。本来は爆風や小口径弾から身を守る程度の性能しかない、量産品の簡易装備だ。
「これ、いいですか」
ハヤトがそう尋ねると、持ち主だった女性は力なく頷いた。
「どうぞ……でも、そんな薄い盾、何の役にも立たないと思うよ」
誰も止めなかった。もう誰も、彼を止める理由を持っていなかった。この三日間、いや実際にはまだ一日と経っていなかったが、体感的にはもっと長い時間が過ぎたように感じられるほどの出来事の連続で、生存者たちのハヤトへの認識は大きく変わっていた。
ハヤトは防盾を手に取り、その場に座り込んで、じっくりと観察を始めた。積層構造、素材配合、エネルギー吸収特性――彼はこの数時間、暇さえあれば鹵獲した斥候型の残骸を観察し続けていた。おかげで装甲理論への理解は、輸送機に乗っていた頃とは比較にならないほど深まっている。
彼は防盾の縁をなぞりながら、頭の中でその構造を組み立て直していく。積層された繊維の方向、樹脂の硬化度、内部に仕込まれた衝撃分散機構――理解すればするほど、この単純な支給品にも、意外なほど緻密な設計思想が込められていることに気づいた。
`《装備超強化》`
防盾が輝き、形状はそのままに、性能だけが桁違いに跳ね上がっていく感覚があった。
ちょうどその時、警戒に当たっていた訓練生の一人が叫んだ。
「敵機、接近! 今度は二機だ!」
離脱した斥候型が、増援を連れて戻ってきたのだ。生存者たちに、再び緊張が走る。負傷者を抱えたこの状態で、また戦闘になれば――誰もが最悪の想定を頭によぎらせた。
「ハヤト、その盾でどうにかなるのか!?」
ガイが叫ぶ。ハヤトは頷きながら、負傷した女性訓練生と、周囲の仲間たちを庇うように前に進み出た。
「多分、大丈夫だと思います」
斥候型二機が、こちらの位置を完全に捕捉し、主武装を構えた。今度は貫通弾ではなく、より広範囲を焼き払う対戦車級の砲撃モードだった。
「伏せろ!」
ガイの叫びとともに、二筋の砲撃が同時に放たれた。訓練生たちは目を瞑った。爆炎が荒野を焼き、砂塵が舞い上がる。
だが煙が晴れると、そこには傷一つない防盾と、その陰で膝をつくハヤトの姿があった。
「対戦車砲……直撃したはずだよな」
ガイが震える声で呟いた。誰も答えなかった。答えられなかった、というのが正確だろう。
斥候型二機は、明らかな困惑を見せながら、次の攻撃をためらうように動きを止めていた。人類の量産型装備が、対戦車砲の直撃に耐えるなど、あってはならないことだった。
ハヤトは防盾を構えたまま、静かに、しかし確かな声で言った。
「郷田さん、みんなを連れて、あの岩陰まで下がってください。時間は稼ぎます」
その言葉には、初日の検査場で俯いていた少年とは、明らかに違う何かが宿っていた。
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*(第5話「合流と沈黙の英雄」へ続く)*
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### 第5話 合流と沈黙の英雄
防盾で二度目の砲撃を防ぎきったハヤトを見て、斥候型二機はついに接近戦を避け、遠距離からの牽制射撃に切り替えた。だが、その頃には遠方からEDF正規軍の哨戒部隊が異常な戦闘反応を感知し、救援に駆けつけていた。
上空から降下してきた対機甲兵用の攻撃ヘリが、斥候型二機を瞬く間に撃退する。ようやく訪れた本当の安全に、生存者たちはその場に座り込んだ。
「生存者、確認! 十二名、全員意識あり!」
降下してきた正規隊員が状況を無線で報告する声が、遠くから聞こえた。
本隊の救援部隊と合流した頃には、生き残った訓練生十二名のうち、目立った外傷を負っていたのは足首を挫いた女性隊員一人だけだった。斥候型三機との交戦、対戦車級砲撃二発の直撃――本来であれば、全滅していてもおかしくない状況だった。
救援に来たEDF正規隊員たちは、状況報告を聞いて絶句した。武装らしい武装も持たない訓練生だけの部隊が、正規の偵察用機甲兵三機を撃破し、しかも死者ゼロで生還したという。前線でも稀に見る戦果だった。
「誰が指揮を?」
隊長格の女性士官が、集められた訓練生たちに尋ねた。彼女は装甲を着込んだままヘリから降り立ち、鋭い眼光で一人ひとりを見回している。
全員の視線が、自然と隅で小さくなっているハヤトに集まった。ガイでさえ、迷わずそちらに視線を送った。
「あの、指揮というか……ただ、装備をちょっと調整しただけで」
ハヤトは俯きがちに、いつもの調子で答えた。士官は眉をひそめた。
彼女――氷見エリスは、EDFでも屈指の近接戦闘エースだった。まだ二十歳そこそこながら、最前線での実績は歴代最年少記録を更新している。今回はたまたま、この地域を管轄する部隊の指揮官代理として、救援任務に就いていた。
「調整、ね」
エリスは崩れ落ちた斥候型の残骸に歩み寄り、切断面を検分した。分子レベルで均一に切断された断面。彼女の見立てでは、こんな加工は最新鋭の実験兵器でも不可能なはずだった。
彼女はさらに、傷一つない簡易防盾を手に取り、その重量と質感を確かめた。見た目は量産品そのものだが、内部から発せられる微弱な余熱のようなものが、通常の個体とは明らかに異なる何かを物語っている。
「あなた、名前は」
「く、黒須ハヤトです」
「適性ランクは」
「……Dです」
その返答に、周囲の正規隊員たちがざわついた。ランクDが、対戦車砲の直撃を防ぐ装備を作り出したというのか。にわかには信じがたい話だった。
エリスは絶句する部下たちを尻目に、静かに一つの結論に達していた。この訓練生の判定は、根本から間違っている。適性検査のどこかに、致命的な見落としがあったに違いない。
「詳しい経緯は、基地に戻ってから聞かせてもらう。全員、収容ヘリに乗って」
エリスの指示で、生存者たちはようやく安全な帰路につくことができた。ヘリに乗り込む間際、エリスはもう一度、ハヤトを振り返った。
「黒須ハヤト、だったな」
「は、はい」
「今日のこと、詳しく報告書に書かせてもらう。覚悟しておけ」
その言葉に他意はなかったが、ハヤトにとっては、これから始まる大きな変化の予兆のように響いた。
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*(第6話「適性再判定」へ続く)*




