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傍に漂う可能性に、

「別世界というのはあるし、転生というのも可能である。ならば足りないのは発想と技術なのだろう」

作者: つるおん
掲載日:2026/05/04




「おっ、来たのね」


 女性はそう言った。


「やっと、なのかな。あんたの星では」


 言葉が口を出ないのは、緊張からか、動揺からか。単に喉が渇いているからかもしれないな。

 彼女は宇宙人ではないのだろうし、俺がタイムリープしたというわけでもないのか。


「そんなにジロジロと見ないで頂きたいな。私も乙女なわけだから」

「あ...すまん」


 掠れつつ、放つ。


「うん、それで、なにか訊きたいことはある?」


 あなたの身長、それは一体おいくつですか。

 高身長の女性は確かにかっこいいが、それには度というものがある。戦国の世を描いた漫画で、それはもう像のように巨大な女性が登場したが、武士としての誇りとともに、女としての恥じらいを感じているようだった。


「起きましたか」


 もう一人、眼鏡を垂れ目の男がやってきて、なるほど、と。


「そうよ! 全く。私が特別デカいってわけじゃないんだからね」


 照れつつも指を向ける彼女だが、いくら何でも、可愛らしいとは思えそうにない。


「ここでは、ワタシでさえも、平均以下なんですよ。センチで言いますと、270くらいです。ワタシはね」

「それで私は250!」


 俺は寝ているし、垂れ目の男と情緒のおかしい女は座っているが、違う。

 指の太さが違う。呼吸の量が違う。毛穴の一つ一つがよく観察出来て...気味が悪い。


「250か、大きくなったね」

「はぁ!? 私はまだまだ小さいし!」

「今年で19だろう? 学校の背の順が後ろだって、喜んでいたじゃないか」

「ちっがーう! あれは嘘! 間違い! 若気の至りってやつ! 身長なんて小さい方がいいに決まってんでしょ!」


 そうして俺を睨む。

 国が違えば、もちろん基準も異なるわけだけど、ここまでとは。


「その...」

「大変失礼しました」


 男が制止し、女は不満な顔を作って見せる。


「少しお話をしましょうか」

「ぜひ...お願いしたい」


 女はそっぽを向いて、だが、携帯を見るでもなく、眠るでもなく、あくまで意識はこちらに向けている。


「ここはね、君たちの言うところの、異世界なんだよ。別世界、そうさ、別世界」

「別世界...死んだってことでしょうか」

「そうだねぇ。死んだというよりかは、転移の方が近いのかもしれないね。だけど、君たちは、何をもって死とするか、少々複雑だから、転生と言っておこうか」

「転生。んじゃ、俺は前の世界、地球で死んで、そんでここに生まれ変わった、と?」

「いいや、違うんだよ。君は死んでなんかいないさ。一度も。でも、そうだね、地球での君はきっと今頃抜け殻のようになっているはずだから、そういう考えでは死んだのかもしれないね」

「そう...なんだな」


 地球に置いてきた...という表現が正しいかは分からないが、心残りのようなものは、ない、わけじゃない。


「ええ。本当は、貴方も大きくなれたのですよ。私くらい」

「ったく」


 女が舌を打ち、男は宥めるように目を細め笑う。


「ワタシどもは、貴方の脳みそを現像したのみですからね。体や毛というのは付属品です。おもちゃの塗装のようなものですよ」

「脳みそ? 意識だけがこっちに来たってことか?」

「厳密には異なりますね。脳みそが、構成されたのです。この世界で。たった先ほど。そして貴方は目を覚まされた。成功です。お祝いが遅れてしまいましたね。おめでとうございます」

「喜ばしいことなのか?」

「それはどうでしょう。貴方次第としか、ワタシには言えませんね」


 男はカカカと緩やかに微笑む。


「んじゃ、なんでこんなことしたんだ」


 今の話を聞いて、俺の心、いや、脳なのか、には怒りの感情が湧いてくる。


「それはワタシどもには分かりません。ただ、貴方の方から飛び込んできたのですから」

「はぁ?」

「例えば、そうですね。網を仕掛けていたのです。そこに、川を遡って、貴方がやってきた。それだけでです」

「俺が悪いってか?」

「悪いなんてことはありませんよ」

「目的はなんだ。網ってことは、食おうってか?」

「ほほっ、例が悪かったですね。好奇心ですよ。好奇心。ああ、決してワタシ一人の、ではないので、ご安心を」

「誰が安心できるかっての」

「ワタシも可能ならそうしてあげたいのですが...」


 男は顔をしかめ、手元のデバイス(これまた、やはり大きい)をのぞき込む。


「地球には、用意がないようですから」

「用意?」

「ええ。ワタシどもには用意がありますから、いつでも受信可能ですし、構成可能なわけです」

「...脳みそをか?」

「全く、その通りですね」

「異世界人の脳みそを複製して、呼び出して、どうするって? 監禁でもして、実験漬けの日々か? えぇ?」

「......落ち着いてくださいね。来たのは貴方です。貴方が、送信をした。たまたまワタシが受信をした。それからはオートマチック。貴方の脳みそがこちらで生成され、ともにオリジナルは朽ち果てた」

「...そりゃ俺が悪いんか? そりゃないだろうよ」

「そうですね。ですのでこれは貴重なサンプルになりそうです」

「戻れねぇのか、地球には」

「ですので、あちらに用意があれば...」

「あーー! パパはいつも説明が抽象的すぎんのよ!」


 女がズタズタと歩いてきて、机にバンと手をつく。


「いい? 脳みそってのは復元可能なわけ。化学組成とその配置さえ分かれば量産できる、でしょ? ネジも本も、同じこと。座標(2,2,6)にはグリア細胞、座標(4,9,-2)はシナプス間隙。そんな風にちょーーーー細かく設計図を作れば、あとは素材なんてどうにでもなる。パパが言ってた送信ってのはこのこと。あんたが、あんたの脳みその座標データを、狂いなく、ちょーーぜつ細分化して送ってきたわけ」

「...そんなことしてないが」

「現にあんたがあんたとしてここに居るのが証拠でしょ」

「仮にデータを得たとして、俺の脳はなにで出来ている?」

「そりゃもう、過去の人の脳みそ一択でしょ。あんた、冴えないわね」

「過去の人...」

「そう! あんたみたいにこっちに来た人もいれば、また同じようにどっかに行く人もいる。その人の脳のデータは、また別の世界で息を吹き返すけど、器はもう必要ない。物質ごとに分解して、こうして、貯蔵する」


 彼女のポンポンと叩くタンクには、茶色のゲル状。よく見ると細い管が俺のおでこのあたりに突き刺さっている、ように思える。


「回ってるわけ」

「回る...。脳の成分の配置、それをどこか別の世界に送って、その世界で複製してもらう。元の脳みそは形だけのゴミになって意識や個性は伴わない」

「そ、消されるの。ルール」

「だから、要らなくなった脳は分解して、貯める。そして、どこからかデータが送られてくれば、その人の脳を、人格を作る」

「いいね、やるじゃん、あんた」

「......なんでそんなことするんだ」

「あんたの星でも同じでしょ。好奇心、一択」





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