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「ただいまぁ」
友達と別れて、学校から10分ぐらいの距離にある家に帰り着く。
今日の夕飯なんだろうなぁと思いながら玄関の扉を開ける。田舎だから鍵とかかかってない。
いつもならすぐお母さんが『おかえり』と顔を出すのに、今日に限って家の中はやたら静かだった。
「あれ? おかーさん?」
大きい声で呼んでみる。
するとパタパタ忙しない足音が聞こえた。
「おかえり。ごめんねぇ、結衣。恵理子、疲れちゃったからって寝てて」
台所から顔を覗かせたのは私のおばあちゃんだった。
お母さんのお母さん。普段は近所の別の場所に住んでるおばあちゃん。なんでおばあちゃんが、と考えたところで、
「……あ、……お母さん、今日検査、なんだっけ……」
「そうなのよぉ。病院が混んでたみたいでね。疲れたからって寝てるの」
居間にぺいっとランドセルを放り出して、台所に向かう。油の弾ける音が聞こえた。ちらりと音の方を見ると、唐揚げがあがってる最中だった。
「手洗っておいで。おやつも買ってきてるよ」
エプロンで手を拭きながら伝えてくるおばあちゃんに、けれど私の頭の中は、お母さんのことでいっぱいだった。
*
「お母さん、今日はなんの検査だっけ」
「今日はねぇ、……ええと、骨シンチ」
「こつしんち……?」
「骨にがんが転移してないかの検査だって」
「……ふーん……」
夜7時。よっぽど疲れてるらしいお母さんは、寝室で眠ったままだ。お父さんもまだ仕事。だからおばあちゃんとふたりだけの夕飯だ。
山盛りの唐揚げをつつきながら、こつしんち、ともう一度唱える。全然馴染みのない言葉だった。
「それで? 結果はどうだったの」
「すぐにはわかんないって」
「……そっかぁ〜……」
おばあちゃんの唐揚げ。
お母さんが作るのよりちょっと味が濃い。
「本当はねぇ、手術前に入院してまとめてするらしいんだけど」
「まとめてできないの?」
ううん、とおばあちゃんは少し考える様子を見せて、
「本土だったらまとめてできたかもしれないけど……」
「……お母さんの手術、うちの島でできないからそんな感じなの?」
「そうなのよぉ。コロナのせいもあってね、本当なら手術前にまとめて検査するみたいなんだけど」
私の住んでるところは、日本の、南のほうにある小さな離島だった。
学校もあるし病院もあるしコンビニもある。でも……でも、そうはいってもたかが離島だ。
雑誌とかは全部遅れて入荷する。マックとかもないから、月見バーガーなんて私は食べたこともない。スタバもそうだ。フラペチーノってなんだろうね?
この前もやたらヘリの音がうるさいなぁと思ったら、大怪我した人が、島の病院では診れないからとドクターヘリで運ばれて行った。
そんな不便な離島。
私のお母さんは、自治体の人間ドックでなにかが引っかかって――それで、島の病院で検査したら乳がんと言われた。
乳がんをやっつけるには、おっぱいの、がんのあるところだけ切るか、全部無くすかのどちらからしい。でもどちらをするにしても、島の病院ではできないと言われた。本土に行くしかない、と。
ちらりとカレンダーを見る。
もうあと1ヶ月しないうちに、お母さんは本土に行って乳がんの手術だ。
私は学校があるから……あとコロナの影響があるらついては行けない。お父さんもそう。仕事があるから。
だから本土にいる親戚を頼って、お母さんは手術しに行くのだ。




