さすがは…
アザリを倒し、ギルドへ討伐完了を報告しに行く。
「聞いたか、ギデオンの野郎とうとうAランク昇格だってよ」
「ギデオンっていやあの、銀の甲冑の。たまげたな、この街にも、とうとうAランクか」
冒険者のおっちゃんらが談笑しながらギルドの入口から出てきた。
銀の甲冑って、あのやたら強かった銀騎士のことか。ギデオンなんて名前なんだ。
ギルドに入ると、ちょうど話題の銀騎士ギデオンがこちらへ向かってきていた。
そのかすんだ鈍色と、奥に光る鋭い眼光はAランクを思わせる強者の雰囲気だった。
「……こんなものじゃ、足りない」
通り過ぎる瞬間、銀騎士の独り言が聞こえた。
Aランクになってもまだ、足りないというのか。それだけの向上心があるから、Aランクになれるんだろう。
でも、なんかそれにしては鬼気迫る表情というか、目的のためには手段を選ばないって顔してたな。
『………』
どうかしたのか?
『いえ、』
そうか。
俺は受付で、アザリの換金をお願いした。
「それでは、アザリ5匹討伐で1500Gになります!」
受付嬢さんが、お金の入った袋を手渡す。
「そういえば銀騎士、じゃなくてギデオンさんだっけか。Aランクになったんだって?」
なんか気になって聞いてしまった。
「はい! この街で初のAランクなんです。冒険者を初めてたったの2年でAランク。これって他のAランクの方と比べても異例の速さなんですよ?」
受付嬢さんが、興奮した様子でまくし立てる。
「それに酒場にいるところもあんまり見ないし、無駄なお金使わないし、いっつも鎧つけてますけど、絶対素顔はイケメンだと思うんですよね」
「そうなのか…」
「あ。話すぎちゃいましたね。でもギデオンさんを真似しちゃダメですよ。あんな危険な任務ばっかり選んでたら普通の冒険者ならすぐに死んじゃいますからね。わたし、あなたにも期待してるんですから」
受付嬢さんがウインクする。
「そうなんだ、気をつける」
可愛いと思いつつ、俺はそういうとギルドを後にした。
お金も使わずに、ひたすらランクを上げて、危険な依頼をこなす。
俺みたいに阿頼耶識さんがいる訳でもないだろうに、そんな賭けみたいなことやるってどんな精神してんだ?
『何か、事情があるのでは?』
だよな。借金抱えてたりすんのかな。
って、人のこと詮索するのはよくないか。とりあえず宿に戻って、明日のプランを練ろう。
『はい、突き当たりを右です』
宿に向かった。
翌朝ギルドに向かうと、何やら様子がおかしかった。いつもの倍以上の職員がいて、みな慌ただしく働いていた。
「今日はどうしてこんなに慌ただしいんだ?」
俺は近くにいた冒険者に聞いた。
「あぁ、なんでも北の山からモンスターが溢れ出て来てるらしくてよ、この街ももしかするともしかするかもしれないぜ」
その後冒険者はどこかへ逃げるように行ってしまった。
阿頼耶識さん、これって俺も逃げた方がいいやつ?
『安全を考慮するなら逃げるべきですが、この街の人間はみな死に絶えることになるでしょう』
どうする?
見過ごして逃げるのか?
俺には既に戦える手段があるのに、無力な人々を見捨てて逃げるのか?
目の前にある命が失われるかもしれない。
やれることをやらないで何のための力なんだ?
『決意は固まりましたか?』
そうだな、この街を守るためにやれることやってみることにする。
『......レベリングにはうってつけかもしれません』
何か言ったか?
『いえ、すぐに向かいましょう』
わかった。
急いで街の外にでると、他にも大勢の冒険者が北のほうへ向かっていた。
そちらの方をみると、遠くに黒い塊のようなものが見える。
あれ、全部魔物なのか?
『えぇ、全て魔物です』
急ごうか。
近づくにつれ、その数の多さと、地鳴りのような魔物の足音に威圧感を覚える。
腹の底から震えるような感覚。
それでも、周りの冒険者も含め、誰1人逃げなかった。守るべきものがあるんだろう。
第1陣と相対した。
ゴブリン、スライム、スケルトン......。
幸いなことに、低レベルな魔物が多い。ギルドでも低ランクで討伐を受けられる魔物たちだ。
それらが、必死の形相で襲ってくる。
なにより、何かから逃げているかのように攻撃を仕掛けられない限りは、街の方へ走ってゆくのが不気味に感じた。
『前方、複数体の魔物が接近』
了解。
右手を鎌の形に、そこに硬化、そして魔力操作による切れ味上昇。
ゴブリンを切りつけると、抵抗を感じないほどに滑らかに両断できた。
『スキル【夜目】を獲得しました』
夜も見えるようになるのは便利だが、今はあまり必要ないな。
次に、スライムを突き刺す。
『ひとつ提案なのですが、腕全体を硬化せず、形質変化を残したまま、ムチのようにしならせて扱ってみてください』
あ、なるほど。
これだったら攻撃範囲広がるな。
俺は言われた通りに、肘から上をムチのようにしならせて鎌を振るった。
ゴブリン6体、スライム4体、スケルトン3体が一度に両断される。
おぉ、全然違うわ。これなら、ほかの冒険者も頑張ってるし、何とかなるんじゃないか?
周りの冒険者たちも、即席パーティを組んだりして効率よくモンスターを倒していた。
『えぇ、戦況全体でいえばポップしてくる魔物の数よりも、殲滅効率の方が高いのでこのままゆけば無事治めることができるでしょう』
それなら、安心だな。なんか嫌な予感してたから不安だったんだよな。
そういいつつ、次の第2陣を処理しようと構え始めたその時、黒い塊の奥にきらりと光るものが見えた。
「なんだあれ?」
その光は、鈍く銀色に光っていて、何処か見覚えがあるような気がした。
「おぉ、あれギデオンじゃねぇのか?」
「あ?ギデオン? ほんとだ、ギデオンだ」
周りの冒険者たちがざわめき出す、
「ギデオンがいてくれんなら話は早えぞ、挟み込めばすぐに片がつく」
「おぉ、やるぞお前ら。俺らが街の英雄だ」
「「おぉぉ」」
周りの士気が一気に上がる。
冒険者らが雄叫びをあげている中、ギデオンが何かをおもむろに拾ったのが見えた。
『前方注意してください』
ゆらっと構えて投げたそれは、恐ろしく早いスピードで飛んで、俺のすぐ隣の、先程まで声を上げていた冒険者の腕を消し飛ばした。
「ひぇ、な、なんで?」
ショックで気を失う冒険者。
銀騎士は、だらんと立ちあがってこちらを見ていると思ったら、
「オオオオオオオオオオオオオオ」
魔物よりも大きな咆哮をあげた。
その声、怪しく光る鈍色の鎧。
銀騎士ギデオンはもはや人間を辞めていた。




