いざゆかん
目を覚ますと宿舎のベッドで、昨日の出来事が夢でないことを再確認した。
今日は確か、魔石を購入するために冒険者ギルドで依頼を受けてみよう的な話だったはずだ。そうだよな。
『はい、想定の時間よりも遅い起床です。リスケを行使いたします』
すいません。
日は完全に昇っていて、寝すぎは明らかだ。ギルドにも迷惑をかけるので、慌ててシーツなど簡易的に清掃を行い部屋を出て、1階の受付に向かった。
「おはようございます。よく眠れたようですね」
ギルドはもう既に営業を開始していて、みな依頼を受け既に出払っており人は少なかった。
「はは、お陰様で……」
ねぼすけだと思われるのは少し恥ずかしい。
「今日は依頼を受けていかれますか?」
受付嬢さんは後ろの棚から書類を持ってきた。開かれた書類の中から、3枚目の前に出してくれた。
「初任務ということなのでおすすめの任務を選んでみました。宜しかったら選んでみてください」
1.薬草取り
草原で薬草を取ってきてもらいたい。
条件 薬草×10本
報酬 800G
2.花壇の花植え
市街、噴水前に花を植えて欲しい
条件 花壇7つに苗を植える
報酬 300G
3.森の泉で水汲み
森の外縁にある泉で水を汲んできて欲しい
条件 水を運べるだけ汲む
報酬 100G×タルの個数
阿頼耶識さん、やっば薬草ですか?
というか、金額の相場が分からないから割にあってるのか分からないな。
『はい、この場合は薬草が最適です。なお、だいたい200~300Gあれば1晩宿に泊まれます』
うーん、その例え分かりにくいな。よく異世界ものでこれ聞いてパッと日本円と換算する人いるけど、宿の相場なんて日本でも地域によりけりだからな。
『おっしゃる通りですね。それを考慮して伝え直すと、100Gがだいたい千円と同じと考えると分かりやすいかと思われます』
じゃあ宿には3000円くらいで1晩泊まれるのか。割と物価安いんだな。
それを踏まえて依頼を見ようか。やっぱり薬草の単価がいい気がするんだけど、何か見落としてることあったりするのかな。
『よい視点です。薬草採取は草原で行うので魔物や盗賊に遭遇する恐れがあるのです』
なるほど、花壇は市街だから無難にお金が稼げるけど割に合わないかもってことなのか。じゃあ泉での水汲みは、森での作業だし運べる数にも限界があるから割に合わないってこと?
『概ね正しいです。ただし、泉での水汲みは基本的にパーティを組んで一度に大量に運ぶことで、効率をあげるというテクニックが使われてますね』
そっか、10人で馬車とか持っていけばまぁまぁな額稼げるのか。冒険者って結構割のいい職業なんじゃない?
『優秀な冒険者は高給を得られますが、ランクの低い冒険者は危険な肉体労働を低賃金で行っているので、差が大きい職業だと言えます』
あぁ、たしかに。そう美味い話はあるわけないな。じゃあ花壇のクエストを取るべきか。とりあえずお金が欲しいわけだし、無駄にリスクをとる必要がないもんな。
『いえ、私は薬草採取を推奨します』
え、魔物に襲われたりするんじゃない?
『草原は視界が確保できるかつ、私の能力なら敵を事前察知して避けながらの採取が可能です』
おぉ、索敵もできちゃうのか。能力の幅が広いな、頼りになるよ。
『光栄でございます』
「すいません、じゃあ薬草採取の依頼を受けようと思います」
皮でできた不思議な材質の依頼書を指さして受付嬢さんに伝えた。
「かしこまりました、カードをお借りしますね」
そういうと受付嬢さんはカードを手に取り、黒っぽい台の上に載せた。それを白紙の紙に押し当てると、レシートみたいに俺が依頼を受けたという情報が紙に印字された。
「はい、受付完了しました。それでは命を大事に、気をつけてくださいね」
あかるく手を振りながら見送ってくれる受付嬢さん。好きになりそうだ。
そこから、草原に行く前に少し準備をしようと思ったが、阿頼耶識さんが何もいらないと言うので手ぶらで街を出た。
軽く2、3キロくらい離れるとくるぶし丈くらいの草が生い茂る自然の草原にはいる。
『マーカーを表示するので、そちらへ進んでください』
阿頼耶識さんがそういうと、下矢印が遠くに見えた。そこへ向かえということらしい。
10分後、少し変わったしそのような植物が群生してる場所に着いた。
これが薬草なのか?
『はい、それを新芽は傷つけないように下の大きな葉だけちぎって採取してください』
こんな感じか。スーパーのしその袋みたいに何枚も重ねて紐で束ねた。10もあればいいということらしかったが、呑喰用と、試したいことがあるらしいのでそのためのもう10枚。合計25枚採取した。
『それでは薬草を摂取してください』
え、このまま食べるのか?
『はい、呑喰には副次的にこの世のあらゆるものを消化することができるという能力が備わっています』
ならいいが、食感があんまり良くない。シソを生で刻まずに食べたらこんな感じなんだろうか。パサパサする。
俺はしばらく口の中で薬草と格闘していた。味はほんとにシソに近いというか、少しだけメンソール感というか、スッキリする感覚がある。
『おめでとうございます。スキル【自己治癒力上昇】を獲得しました』
おぉ、どんな能力?
『スキルを表示します』
スキル【自己治癒力上昇】
軽度から中度の怪我までなら、およそ半日から一日で治る。
『深めの傷や、やけどなど治癒に1週間ないしは1ヶ月程度かかるものでも、1日ほどで治癒が可能で跡も残りません』
そう聞くとだいぶ優秀なスキルだな。物は試しだ。
俺はそこら辺の葉っぱを手で握って素早く引き、人差し指を切った。
赤い1文字ができ、血がぷくっと出てきたとおもったら、徐々にその傷口は薄くなり瞬く間に消えた。
完全治癒。傷跡も残らないし、すごいなこのスキル。
『ですが、先日手にいれた【形状変化】を応用すれば、』
はっ、ある程度の重症でも傷を塞いでさえしまえばあとは治癒力で治っちゃうっていうこと?
『その通りです、なお本来なら【即】を用いての、【形状変化】+【自己治癒力上昇】を提案するのですが、【形状変化】は組み合わせの幅が広いスキルなので、再取得の機会がない限りは温存して置くのが良いかと』
【即】は分離と統合。こんな使い方をするんだな。だけど一度合成に使うと消費されたスキルは無くなってしまうのか。
『はい、ですので攻撃スキルとの合成がバランスよく強化できる方向性かと』
うん、奥が深いな。頼りになるよ。組み合わせに消費するから全ての組み合わせを試すにはその分だけ同じスキル取得が必要なのか。
『複製のスキルをえれば解消できる問題ですが、時間がかかることになるでしょう』
そんな気はする。結構万能スキルっぽいもんな。
『前方魔物が出現しています』
阿頼耶識はマーカーで遠くの点を指している。遠すぎて俺にはなんの生き物なのかも判別できない。
『! ゴブリンソルジャーです。身をかがめて視線を向けないでください』
こんなに緊迫した阿頼耶識さんは初めてだ。その方向をちらりとみると、異様な雰囲気の筋骨隆々の緑色の人型が確認できた。と思ったらこちらへ向かって走ってきた。
『気付かれました。迅速に逃げてください。方向はマッピングします』
ブンっとウィンドウとマーカーが表示される。俺はその通りに必死に走る。やけに蛇行するように変なルートだった。
その方向には、銀色の西洋の甲冑に身を包む何者かがたっていた。
『その者に、そのままソルジャーを擦り付けて退散してください』
え、そんなこの人に迷惑かけていいのか。
そういつつもルートを進むと結果としてソルジャーは向きを変え、銀騎士に突撃していった。
銀騎士に飛びかかったその時、ギラリと鈍い光が見えたと思ったら、ソルジャーは肩からずるりと一刀両断され、横たわった。
銀騎士はじっとこちらを見つめるものの、何も言わずゆっくりと異なる方向へと歩き出した。
よかった。擦り付けられた報復で向かってこられたら間違いなく敵わない。あれはその類の強者だ。
銀騎士。
今後どう脅威として現れるか分からない、覚えておこう。今回助けてくれたが、どうも不吉な感覚が消えない。
その後は無事脅威に遭遇することはなく、日が沈み始める頃には街へ戻ることができた。
「はい、こちらが依頼報酬の1200Gになります」
受付嬢さんが、にこやかにお金の入った袋を手渡した。
「あの、報酬800Gじゃなかったですか?」
400Gも多いとさすがに、なにか悪いことした気になるし、今後も関わるだろうからここはちゃんと訂正しときたい。
「あ、いえ。薬草の状態がとてもいいので、報酬に追加で400G追加させていただきました」
「そういうことなんですね。てっきり間違いかと」
違いますよと、笑って手を振る受付嬢さん。
「こちらギルドとしましても低ランク冒険者の採取品の品質が問題視されてまして、あなたみたいに丁寧に採取してくれる人ほんとに助かるんです」
ギルドも商売だからな。より品質のいい材料を、品質のいい商品にして売りたいんだろう。
「それじゃ今後もよろしくお願いしますね」
にこやかに見送ってくれる受付嬢さん。愛想がよすぎる。
てことで、阿頼耶識さん。
『はい、おすすめの宿ですか?』
さすがは阿頼耶識さん。一歩も二歩も先を呼んでくれる。
『ここからまっすぐ進んで左手の月の宿は、まとめて払えば700Gで10日は泊まれます。ただし…』
安いな!そこにしよう
今日は疲れたからな、早めに宿をとってゆっくりしたい。
宿はすこし中心地から離れたところにあったが、小綺麗で特に問題なかった。10日分の宿泊予約をして部屋に荷物をおく。
2階に酒場があるという事だったので簡易的な夜ご飯を取ろうと上に上がると、鈍色の甲冑を着込んだ銀騎士がそこにはいた。
え、ちょっと阿頼耶識さんこれ大丈夫なのか? なんで事前にいわないんだよ。
『私は伝えようとしましたが遮られたのでよろしいのかと』
っそりゃ、俺が悪いか。ごめん、さっきのこと軽く謝った方がいいよな。
ひとりで座っている銀騎士の前に座った。
「さっきはありがとうございました」
銀騎士は、鎧のまま飲み物だけを飲んでいる。
「…あぁ、別に構わない」
「なにかお礼したんですけど良かったらなにか食べませんか?お代出すんで」
ここはこのくらいしといた方がいい。口ではいいっていってくれてるが実際どう思ってるかわかんないし。
「いや、構わない。私の受注した獲物がたまたまおまえを狙っていただけの事」
そういうと話終えたとでも言うように、グラスをあけ、代金を支払ってどこかへ行ってしまった。
なんか、無骨なだけで実は悪い人じゃないのか?でも昼感じた違和感みたいなのは拭えないんだよな。これ系の勘は当たるんだよ俺。
『現状客観的にみて、銀騎士からの敵意は無いと考えて良いと思います』
うん、俺もそう思うんだけどなにか引っかかるんだ。何なんだろ、まぁいずれにせよ、さっさっと異世界攻略したかったらこんなとこで上にびくついてる場合じゃないな。強くならなきゃ。
『それでは、明日以降の計画を立てますか?』
そうだな、初任務も済ませたし十日分払って今700G残ってるからな。魔石は買えそうか?
『はい、この食事を抜いても600Gは手持ちがございますので、300Gで最下級魔石なら買えます』
おぉ、じゃあ明日は魔石を買ってスキルを取得か。
俺はそんなことを考えながら、頼んだ料理を食べていた。




