俺降臨!
目が覚めると、今度は真っ白な世界ではなく、神様もいない。
辺りは広い草原地帯で、太陽が地球と同じく動いているのなら、だいたい北に山。そこから西にかけて森。東には川が流れ、南のはるか遠くに建物が見える。
とりあえず目に見える危険は無さそうに思える。
安全が確保できたので、先程の出来事を思い返してみると、だんだん腹が立ってきた。
一方的に呼びつけて、強制的に働かせられるなんて、しかも無休かつ無給。だいぶタチ悪い。
幸いあっちの世界は止まってるらしいので、さっさと終わらせて帰れば、コスパは最悪だが、いい土産話くらいにはなるんじゃないか?
「よし、俺はやるぞ、異世界RTAだ!」
声高らかに宣言したものの、草原にひとり。寂しいものだ。
「誰かいないかな……」
『阿頼耶識、起動準備』
「うわっ」
今耳元で声が聞こえた。周りには人どころか生き物がいないってのに。
『3...2...1...。起動完了。スキル名阿頼耶識、正常に起動致しました』
聞き間違いじゃなかった。しかも、この声俺の中だけでなってる気がする。イヤホンの声みたいな感覚がある。
「あら、やしき? スキルの名前か?」
神様は3つスキルを与えるって言ってたな。ナビゲータをつけるとも言ってたし。ひょっとしてこれ?
『はい、阿頼耶識とはこの世界の全ての知識にアクセスし、最上様の目的遂行をナビゲートするシステムを保有したAIのようなものです』
言葉を発しなくても聞こえるのか。思考の読み取りができるってことなのか?
『その認識で概ね間違いありませんが、正しくは最上様の副人格に近いものに当たるので、読み取りが可能という認識が正しいです』
すごいな、めちゃくちゃ詳しく教えてくれる。他のスキルも教えてくれないか?
『かしこまりました。スキル名、概要、使い方を表示いたしますね』
表示?
ブンッと、目の前にホログラムのパネルが現れた。
【スキル】阿頼耶識
世界のアーカイブに接続し、古今東西あらゆる知識を入手可能。ただし、まだ起きていないことがらや、確定していない事柄を把握することは不可能。
使い方は、ナビゲータに意図を伝えるだけで良い。
【スキル】呑喰
捕食したあらゆるもののスキルを獲得できる。
【スキル】即
分離・統合を司るスキル。自らの保有するスキル、物質など、多岐に渡るあらゆるものを分離・統合できる。ただし、意志を持つものはその者の許可がないと行使できない。
「おぉ、3つもあると把握するのが大変だなあ。阿頼耶識、呑喰と即を使ってみたいんだが、どうすればいい」
『はい、今可能なプランとしてはスライムを討伐し、呑喰を使ってみるのがよろしいと思われます。即は現状では扱うことが難しいかと』
「了解」
じゃあスライムを探しに行かないとな。
『かしこまりました、近くの地形から、スライムをマッピングします』
ブンっと、目の前に地形図と点がいくつか表示されている。
そっか、ナビゲータだもんな。この位のことは当然できるのか。すごいな。
割とすぐそこの茂みに、スライムは潜んでいた。
スライムは青色で、ネバネバと言うよりは、もちもちが近い質感の見た目をしている。
阿頼耶識、これどう倒せばいいんだ?
『はい、両足で思い切り踏みつければ、内圧により核が割れます。近くに居続けると、粘性体にかわり口周りにまとわりついて呼吸を止めてくるのでご注意を』
了解!
俺は思っきり飛んで、スタンプした。
ぬかるみを踏んだような感触の中に、脆い何かがパキッと割れた音がした。
スライムの核が壊れた。ふにゃふにゃと形を保てなくなり、液状化したスライム。
『おめでとうございます、それでは核の一部で良いので摂取してください』
え、これ食べるの?
取り出した核は、スライムの粘液でベチョベチョで食べるのには勇気がいる。
まぁでもここは我慢。思っきり飲み込んだ。
『おめでとうございます。スキル【形状変化】を取得しました』
おお、形状変化ね。どんなスキルなんだ?
【スキル】形状変化
身体を任意の形に変化可能。ただし、元の物性の変化は行われない。
物性の変化が行われないってどういうこと?
『はい、皮膚を変形させても、骨のような強度にはならず、骨を液体のように変形させることはできません』
なるほど、元の素材のスペックを無視した変化はできないということか。
俺は、手のひら全体を手刀の形にしてみようとしたが、上手くいかない。次に、指の骨だけ露出させて骨の刃を作ってみたら、それは上手くいった。
元のスペック依存なら、そこまで強度はないし武器としてはあまり使えないな。
『はい、推奨する使い方としては、仮に損傷を受けた場合の止血や、傷口を塞ぐといった、生存力を高める方向になります』
たしかにな、お腹を貫かれても形状変えたらすぐ塞げるから致命傷にならないな。
痛いのは痛いんだろうけど。
まぁ、使い道はわかったし、良しとするか。
『阿頼耶識、この後どうしたらいいと思う』
だんだん西日になってきて、このままだと野宿することになってしまう。夜野生動物が出ないとも限らないし、なんならスライムですら寝込みに気道塞がれて死ねる。
『はい、その前に最上様の行動方針は、異世界RTAで間違いないですか?』
あの時から聞かれてたのか。恥ずかしい。
『RTAを、定義します。最速で、確実にこの世界を平定するということで間違いないですか?』
おぉ、そうだ。阿頼耶識いれば断然最適に最速でRTAできるぞ。
『では、今後の行動方針として記録しておきます。続いて、次の行動としては、南の方の街へ向かうのが良いと思われます』
よし、街までナビゲートしてくれ。
『かしこまりました、最適なルートを表示いたします』




