番外編 迷子の音符を探して
ある朝、音楽の街の広場に小さな騒ぎが起こった。
街の住人たちが集まる中、誰かが大きな声で叫ぶ。
「音符が……音符が迷子になった!」
ソラは駆け寄った。
広場には、四季の精たちや音の精、そして街の住人が困った顔で集まっていた。
どうやら、街のどこかで一つの音符がはぐれてしまったらしい。
その音符は特別で、春や夏、秋や冬の季節の旋律には属さない、自由で不思議な音を持っているという。
捕まえると、街に新しい曲が生まれる。
それを聞いたソラの胸は、冒険心で高鳴った。
「僕が探そう!」
ソラは決意を胸に、街の細い路地や屋根の上、川沿いの小道まで走り回った。
普段なら、音の街は音楽で満ちているはずだが、この音符は小さすぎて、街の旋律に紛れてしまい、姿も音もつかみにくい。
だからこそ、ソラは自分の耳と心を最大限に研ぎ澄ませ、街の空気に漂うかすかな揺らぎを感じ取ろうとした。
最初に見つけたのは、春の広場の桜の木の上だった。
小さな光の粒のような音符が、花びらに乗ってひらひらと舞っている。
しかし、ソラが手を伸ばすと、音符はぴょんと跳ね、春の風に乗って遠くへ飛んでいく。
「やっぱり簡単には捕まらないか……」
ソラは笑みを浮かべながら、追いかける。
夏の通りでは、太陽のドラムのリズムに紛れ、音符が道路の熱気と光の中で揺れていた。
通りを駆ける人々の足音に混ざり、音符はまるで踊るかのように跳ね回る。
ソラは大きく息を吸い、胸の奥のリズムを耳に集中させた。
小さな心の震えが導くように、音符は自然と彼の方向へ向かってきた。
しかし、音符はただの小さな点ではなかった。
触れれば捕まえられると思ったのに、実際には捕まえようとするとすぐに跳ね、自由に飛び回る。
それは、まるで街全体に生きる意思を持つかのようだった。
「君は……本当に自由な音なんだね」
ソラは小さくつぶやき、焦る気持ちを落ち着ける。
秋の落ち葉の道を抜けると、音符は葉の間に隠れていた。
風が葉を揺らすと、音符はくるくる回り、柔らかいワルツのような音を奏でる。
ソラはその旋律に耳を傾け、心の中で一緒に動く。
触れようとするのではなく、心で呼びかけるように、音符に語りかける。
「ねえ、君はどんな音を持っているの?」
すると音符は小さく光り、かすかな響きを返してきた。
それはこれまで街で聴いたことのない、不思議な波のような音だった。
高くも低くもなく、早くも遅くもない。
どの季節の旋律にも属さないけれど、街全体に溶けると、とても心地よい調和を生む音だった。
冬の川沿いまで追いかけると、音符は氷の結晶の間をすり抜け、雪の結晶のように舞い落ちた。
ソラは息を切らせながらも、目を細めて追いかける。
そして、雪に反射する月の光を背景に、音符はふわりと彼の前に止まった。
「やっと……」
ソラは優しく手を差し伸べ、音符を受け止める。
触れた瞬間、音符は光の波に変わり、街全体に広がった。
春の花、夏の太陽、秋の風、冬の雪ーーすべての四季の音と混ざり合い、街に新しい旋律が生まれる。
今までにない、自由で軽やかで、心を躍らせる曲だった。
街の住人たちは驚き、次第に微笑む。
新しい曲は、誰かの心にそっと寄り添い、迷いも不安も、希望と喜びに変えていくようだった。
ソラは胸に手を当て、小さな笑みを浮かべる。
「君は、僕に新しい曲をくれたんだね」
音符は小さく光り、さらに輝きを増して空へ舞い上がる。
そして、街全体にその光の波が広がり、四季の旋律と一体化した。
夜になり、星が瞬き始める頃、街は新しい曲で満たされ、住人たちの心も豊かに震えていた。
ソラは広場に座り、胸の奥で残る微かな音の余韻を聴く。
迷子だった小さな音符は、街の新しい旋律として、そしてソラの心の中で、永遠に生き続けることを感じた。
「迷子でも、自由な音は新しい世界を作れるんだ……」
ソラは静かに目を閉じ、街の夜風に耳を澄ませた。
遠くの星も、川のせせらぎも、街全体が、柔らかく響く新しいメロディで光っている。
そして、迷子の音符が生み出したその曲は、四季の街に新しい希望の波を運んだのだった。




