#5 シスターを装備してみる
無事にパーティーを組んだパブロフは、もう一人メンバーをゲットしようと別の釣り場へと向かっていた。
道すがら、タコ焼きの屋台がパブロフの視界に飛び込んでくる。だが、屋台より気になることがパブロフにはあった。
魔術師・シスターというお笑い系メンバーが、縦一列になってパブロフを追従しているのだ。勇者の後ろに“(笑)”がついている状態だろうか。
飲食店の待ち行列? 初期のRPGか?
メンバーがひとり多いような……。
妙な気配を察知したパブロフが振り返り、ボヤく。
シスターの後ろに“メタリックな青い何か”が居る。だが、謎の物体の存在には誰も気づいていないようだ。
いまだに競泳水着姿のシスターが、列から抜けて地面を転がりだした。
三回転したところでピタリと止まると、バタフライでアスファルトを泳ぎ出す。
トチ狂ったアザラシのような泳ぎを披露しながら、シスターがパブロフの前までやって来る。
「なあ、タコ焼き買っとくれよぅ!」
シスターは、おねだりという直球をパブロフに投げつけた。
バタフライで顔面を複数回強打したせいか、ゆっくりと顔をあげたシスターの鼻から血が噴き出している。
これがパパ活ならぬ、ゆしゃ活というやつか。ゆしゃ活とは、経済的に余裕のある勇者と一緒の時間を過ごし、対価として女子が金銭を得る活動のことだったな。異世界にいたころ、そこいらで行われていた気がする。
シスターの姿を白い目で見ていたパブロフが『高級タコ焼き』のノボリに視線を移す。
タコ焼きが六個で6900円?
ソースと青のりが別売りだと? 話しにならん。
無視してパブロフが歩く。
シスターが転がりながらあとを追う。
パブロフが後ずさる。
シスターは逆回転して後退する。
「ぅよれくとっ買き焼コタ、あな!」
シスターが言葉を反転させて、さらにタコ焼きをパブロフにねだる。
パブロフは自宅の金庫に札束をため込んでいる。カネはあるが、ご馳走したくない。集られることを警戒し、現金を持ち歩かないパブロフの財布は、常にカラッポだ。
数時間の時が流れるも、パブロフとシスターの攻防は、いまだ続いていた。
シスターのズブ濡れだった髪は完全に乾き、サラサラを通り越してバサバサに変わっている。どうしてそうなったかは不明だが、シスターの髪がすべて逆立ち、お菓子のとんがりコーンのような形になっていた。
「ふたりともお店の前でやめなって。店主らしきおじさんが怒ってるよ」
直径20センチのタコ焼きを頬張る魔術師は、地面に這いつくばる“とんがりシスター”に視線を送った。
「なあ魔術師。2時間くらい静観していたオマエもおまえだ。いい加減、俺たちをとめろ」
「ねえリーダー。買ってあげなよ、クトゥルフ焼き。ちゃんと焼けてないけど」
首から上がクトゥルフになった魔術師が屋台を指さす。
クトゥルフとは、かつて地球を支配していた邪神。タコっぽいモンスターである。
魔術師の人差し指からマヨネーズが出ているが、パブロフは突っ込まない。異世界から帰還した者の大半は、マヨネーズ生成スキルを持ち合わせているからだ。
絶対タコ焼きじゃないだろ。クトゥルフ焼きとか言ったよな、魔術師。
偽タコ焼きを食らうとクトゥルフに変身するのか……。
そんな思考を巡らせていたパブロフは、魔術師から財布を奪い、偵察がてら屋台へと向かう。
禍々しいオーラを放つ暖簾をくぐる。ほんのりと死臭を漂わせる店主に声をかけた。
「高い。値引きしろ。思い切りディスれ!」
パブロフはディスカウント攻撃を繰り出した。彼は“ディスる”をはき違えている。
「お客さん。ホントにディスってもいいんですか?」
「ああ。果てしなくディスれ」
では、遠慮なく。店主は言うと、パブロフをディスる。罵詈雑言をパブロフに浴びせかけた。
パブロフに全く聞いている様子はなく、店主の額に“バツ印”を描画する。
「リーダーは値引きして欲しいと言っているみたいですよ」
プロテインの粉を振り掛け、味変をしたタコ焼きを頬張る魔術師が割って入る。
「そうなんですか? では、500円引きでどうです?」
店主が譲歩する。
「営業許可、それと俺の許しは取っているのか? 食品衛生責任者の資格は持っているのか?」
「で、では、特別に5千円引きでどうです? 有料のソースはタダってことで……」
店主の精神力が削られたようだ。奮発しまっせと言いながら、張り切って巨大なタコ焼きに青のりをテンコもる。おかげでタコ焼きがクリスマスツリーっぽくなってしまった。
「オマエはもれなく死んでいる! ツーフィンガー・F5アタックぅ!」
パブロフが店主に向かって死亡宣告をぶっ放す。サイバー攻撃名のような言葉を叫ぶと、先ほど店主の額に描いたバツ印を“1本の指”でド突いた。
「やだなあ、そんなわけないでしょ……。かなり痛いんで、連打しないでもらえます?」
頭部の振動か。恐怖がゆえか。声を震わせた店主は、窪んだヒタイを摩りながら目を泳がせる。
「いやいや。オメエから“デッド臭”がすんし」
やる気のないカンガルーのように地べたに寝そべるシスターが、アメリカの州っぽいワードを飛ばしてくる。
「そうかな。良い匂いしかしないけど?」
先ほどよりクトゥルフ感が増量した魔術師が、シスターをチラ見した。
クトゥルフ成分をたっぷり含んだ魔術師。クトゥルフなのか、クトゥル師なのかよくわからない。
「やっぱコイツ、アンデッドだろし」
おもむろに立ち上がったシスターが、店主に向けてファイティングポーズをしてみせる。
シスターいわく、アンデッド系の食屍鬼らしい。店主に化けていたようだ。
なぜ分かったんだ? 店主は言いながら、着ている服をすべて脱ぎ去った。
ゴムのような黄色い皮膚、犬のような顔と蹄を持つ怪物へと変化する。たちまち本来の姿を現した。
顔から鼻が離陸しそうなほどの異臭を放つグール。
変な病気をたくさん持っていそうでグールには触りたくないな。
武器になりそうな物(人)を探そうと、パブロフは地面に視線を移す。
そういや、シスターは異世界の住人だったな……。
受けている呪いのせいで武器が使用できないパブロフは、地面に転がるシスターを装備した。




