#3 競泳水着の美女を釣る
ピョコハマ市の秘境『神ヶ下渓谷公園』内に、ボッチ御用達の釣り堀がある。スキル不足・なんか無理! などと言われ、パーティーからおっぽり出された者たちが仲間を探すスポット。
異世界とリンクしているため、あらゆる職種の人間を釣ることができる。
渓流に沿って続く未舗装の坂道を下っていくと、釣り堀は姿を現す――。
皇帝ペンギンが土下座をして謝りそうな、夏の暑い日。
赤いマフラーを巻いた勇者『早目野パブロフ』が、ほぼ全裸で現れた。
数多くのパーティーから加入を拒否された彼は、メンバーを獲得しようと自身で開発したこの釣り堀にやってきたのだった。
やる気全開の毛根を鎮めてくれる毛穴回復士が欲しいところだが……。
レンタルした釣り道具をひっさげたパブロフが、ぶつぶつ言いながら聖職者などが釣れるエリアへと入って行く。
聖水で満たされた池の前で仁王立ちするパブロフ。
太陽が繰り出すどぎつい光に思わず掌で目を覆う。
そわりと吹いた心地よい風に体を撫でられたパブロフは、ニヒリと笑みを浮かべる。
公園からぶっこ抜いてきたベンチを無造作におろした。
十字架を握りしめ、丈夫そうなベンチに勢いよく腰をおろす。
ベンチが悲鳴をあげながらグシャリと潰れ、パブロフは尻もちをついた。
そんな彼の趣は、胡坐をかいて土俵を眺める力士のよう。
どすこい体勢で糸に十字架をくくり付け、祈りとともに池へと投げ込んだ。
「半裸でドMな美形の修道女を頼む!」
ドラム型のリールのハンドルをゆっくりと回し、エサをたぐり寄せる。
投げては引き戻すという行為を反復すること30分。グイと竿が反応した。
「フィッシュ!」
獲物が掛かったときにあげる言葉を、パブロフが興奮気味に叫ぶ。
目当てのシスターでもヒットしたのだろう。
竿を持つ手に力がはいる。竿といっても、彼の股間にある小振りのサオだが。
20分ほど格闘した甲斐あって、黒い競泳水着姿のシスターを釣りあげた。
160センチほどのシスターの体から雫がしたたり落ちる様を、パブロフはイヤラシイ目つきで観察する。
「オメエが落としたのは、デラックスな修道女デスカ? 金の修道女デスカ? 銀の修道女デツカ?」
びっくりするほど流麗な棒読みで、シスターが問いかけてくる。
水着の胸元に印刷された“修道服”という銀色の文字、名前らしき単語をパブロフが三度見する。
胸元に記されたシスターの名は、かすれて良く見えないが、源氏名だ。
冒険者たちの間では、“本名を明かさないという暗黙ルール”があるためだ。
「だあ、ちくしょう! 一服できねえし!」
胸の谷間から取り出したズブ濡れ状態のタバコの箱を、シスターはグシャリと握りつぶす。
パブロフは異世界で変態・地雷系・中二病など、アタマのおかしい女子に遭遇している。美女が毒を吐いても、彼が臆することはない。
シスターの艶めく黒髪と砂時計のようにクビレた腰を眺めながら、どうやって調教してやろうかと思案する。
「なあ、ずんぐりムッツリなミートボール。タバコかタバスコ持ってねえ? ニコチンが切れてイライラが襲ってくっし!」
「ニートのマッチョさんと言い直せ。ふたつ合わせて“ニートボール”か、”ニート・ミーツ・ガール”でもいいが……。それはそうと、喫煙なんて体に悪いことを俺がするように見えるか? 歩きタバスコをするとでも思っているのか?」
「タバコないならいいや。アッシは帰っから」
頭上で手をヒラヒラと動かすヤンキー座りのシスターが、眼前に聳え立つパブロフを仰ぎ見る。
「ちょっと待て。邪神を封印しに行かないか? ストレス解消にもってこいだと俺は思うが」
スパルタ教育でもすればマトモになるか。そう考えたパブロフは、池にもどろうとするシスターを引きとめる。
「はぁ? いやだし。ヤニ持ってないんしょ?」
邪神よりシスターの封印が先か……。
考えることをやめたパブロフは、シスターの背中を蹴りとばし、ポッチャリと池にリリースした。
「パーマに失敗してハゲろ! おまえの毛根しね!」
水面から顔を出したシスターは、わりとボーボーなパブロフの頭部に向かって高尚な悪態をついた。
「俺の毛根はカンストしている。毛髪にいたってはアンデッドでな。つまり、ミラクルが起きない限りハゲないということだ。それはそうと、オマエの乳はけしからん。全国の貧乳女子に謝れ。乳道女め!」
「はぁ? あんだよ、乳道女って。人を入道雲とか道場破りみたいに言うなだし!」
「冗談だ。手を出せ、引き上げてやる」
「幼稚園児の落書きみてぇな顔だけあって、人も悪いな……。闇のニオイしかしねえけど、いいとこあんじゃん……」
やさぐれたシスターは乙女チックな表情をみせる。
シスターの面様とアニメ声に萌えたのか、顔をほころばせたパブロフは、救いの手を差しのべた。
「股間がチャックのスク水に着替えて出直せ」
手を差し出すシスターの顔面をトンと蹴り、池に沈めるクズ勇者。
「もう1回パーマに失敗しろ。ゲジゲジ三角まゆげ! クズ! 糸クズ! 頭ばーか!」
平家ガニの甲羅を思わせる表情で、池の奥底へとシスターが消えてゆく。
パブロフはシスターを引き上げては落とすという行為を何度も繰り返す。
シスターは、20回目からプリプリの臀部だけを水面に表出させる。顔を出すのが億劫になったのだろう。
25回目にして、ようやくシスターが顔を出した。
「おケツを出した子、1等賞! 頭ばーか!」
ひとこと残し、すぐにシスターは引っ込んでしまう。
30回目には、浴槽で放屁をしたようなデカイ泡だけが浮かび上がった。それきり、シスターが顔を見せることはなかった。




