#2 焼き肉バイキングでヨロレイヒ♪
「いらっしゃいま……」
2人の姿を見たレジ付近にいる店員が、薄着で北極に来た冒険家のように一瞬で凍りついた。
食べ放題の焼肉店『焼き肉バイキングでヨロレイヒ♪』に現れたのは、身長3メートルのパブロフ。
身の丈およそ2メートルのノーデンスである。
20代前半の勇者パブロフは、ちょっとオシャレなドラム缶のような体つき。
旧神ノーデンスは、齢を感じさせないゴリマッチョだ。
でっかい乳首を露出した大男ふたりが来店すれば、店に“笑撃的な空気”が流れるのは無理もない。
パブロフが店内を見まわすと、せわしなく動いていた数名の店員が固まっていた。
食事を楽しむ利用客もしかり。店の入り口のほうを向いたままピクリとも動かない。
炭が燃えるパチパチという音だけが店内を走り回っている。
ひとりの人物がパブロフたちのもとに駆け寄ってくる。店長のようだ。
大男ふたりを2度見した彼の顔から血の気が引いてゆく。
「か、かわいらしいお子さんですね……。えっと、女子割りが使えますので、是非ご利用くださいっ!」
ピンク色のベビー服姿のパブロフを見た店長は、頭に浮かんだ言葉をそのまま適当に口に出したようだ。
「タレとお水は飲み放題です。なんと、お箸は割り放題! なんなら、そこら辺にいる客の頭をカチ割っていただいて結構です!」
そう告げると、店長は4輪駆動(4足歩行)で店の奥へと引っ込んでしまった。
店長のひとことで、眠っていた時間が目をさます。
我に返った客たちは、自身の頭部を守りつつ、焼肉を口中へと一心不乱にかき込んだ。ハムスターのように頬を膨らませた10人くらいの客が、パブロフらの様子を窺っている。
やれやれ……。
なかば呆れた様子のパブロフが頭を振る。「ばぶぅ」と言いながら、使用済みの割り箸500をバキバキにへし折り、席についた。
「パブロフよ。仲間を集めるのだ」
先に席を陣取っていたノーデンスが口を開いた。
「何度も言っているが、俺は最強だ。弱い仲間などいらない」
「確かにオマエは強い。だがな、邪神はオマエのそれを遥かに凌ぐ力がある。悪いことは言わん。仲間を募れ。ゆがんだ性格を矯正できる友人を探せ」
邪神が地球侵略を企てていることを察知したノーデンスだが、地球上で神は表立って動けない。最強と謳われた勇者パブロフに邪神封印の手伝いをさせようと、ピョコハマ市戸塚区に呼び寄せた。呪いのせいで性格がネジ曲がったパブロフを案じ、味方になり得る友人を探すよう働きかけたようだ。
「そんなことより、ドリカムランドとかいう遊園地で邪神らを監視しなくていいのか?」
ノーデンスは異世界のドリームランドで邪神を監視している。地球侵略を目論む邪神らを警戒し、ノーデンスは地球上に営業所を設置していた。ヒマを見つけては、こうしてピョコハマ市戸塚区に降臨する。
「監視はナイトゴーントに任せてある」
「働け、旧神め! 俺は働かないがな!」
異世界を救ったパブロフは、七つの国からたっぷりと報奨金+慰謝料を奪い取った。“玄孫の代まで豪遊できるだけのカネがある。
働きたくない。全世界の大富豪は死ねばいいのに”などと言い、現世に戻った彼は定職に就かず、まったりとセレブなニート生活を送っている。
「ときにパブロフよ。対邪神システムとやらの開発は進んでいるのかな?」
ふたつ折りにされたトライデントをガムテープで修復しながら、ノーデンスが顔を上げる。
「順調といえば順調だ。冒険者を探す機能は、ほぼ完成したが――」
パブロフは凄腕のプログラマーだ。かつて異世界で名を馳せていた彼だが、呪いを喰らって現世に引きずり戻された。
異世界での豊富な戦闘経験を活かし、現世でモンスターなどとバトルが楽しめる対邪神システムを開発していた。
「アンタに頼みたいことがある」
「なんだ? 言ってみるがいい」
ノーデンスは、陰毛っぽくなったヒゲを扱きながら視線をパブロフに向ける。
「邪神を安全に“お取り寄せ”する方法を知りたい」
対邪神システムの開発を進めていたパブロフ。邪神を召喚するプログラム(機能)の実装に手を焼いていた。また、召喚した邪神を弱体化させる方法を模索していたが、見事に行き詰っていた。邪神に対抗しうる唯一の種族である旧神ノーデンスに、パブロフは助力を求めたのだ。
いい方法がある。そう言ってノーデンスが、テーブルに備え付けられた“紙ナプキン”に呪文らしき文言を書いてみせる。旧神いわく、ただの紙でも神が言葉を記せば“神ナプキン”に昇華するそうだ。
そんな話しを聞いたパブロフが「そうか。それなら、多い日も安心だな」と、生理用品のキャッチコピー的なことを言いながらノーデンスをド突く。
「仲間についてだが――」
ノーデンスがドンブリに注がれたテキーラ的なものをあおった。
「使えない仲間など要らん」
異世界ではパーティーを組んでいたが、良い思い出がパブロフにはない。訝しげな表情を浮かべた彼は、語気鋭く言い放つ。
「パブロフよ。オマエの作った“冒険者を探すシステム”とやらで、テストがてら猛者を探してはどうだ。仲間の力を借りて邪神に呪いを解かせるのも手だと思うが」
「釣り堀システムのことか? 確かに強いヤツが釣れるかもしれないな。呪いを解いてもらわないと、俺は早死にしそうだ。頭のおかしいメンバーを集めて邪神をイジリに行ってみるか……」
ぷにっと微笑んだパブロフは、バケツ一杯の焼肉のタレを飲み干した。
数秒後、鼻から全部出てきた……。




