同じ記号
街中を歩くと向かいからくる人が私と同じジャンルであるかは容姿だけで判断できると思うのが東京だった。
私はマッシュヘアー、ヘッドホン、スニーカーに、冬であればニット、スラックス、アウターという格好である。
これだけで分かるのは下北沢か高円寺に居そうだということ。
杉並区、中央線、世田谷区、井の頭線に居そうだということ。
元々音楽が好きで地元にいる頃から夜行バスで12時間かけて東京まで来ていたこともあったし、その時によく来ていたのが下北沢だった。
その当時よく見ていたのはマッシュヘアーに丸眼鏡で、古着が似合いそうで、オーバーサイズを着こなして、楽器を背負っている人たちだった。
雑誌でもマッシュヘアーに丸眼鏡の人を見かけることがあったし、どちらかといえば男性雑誌をよく読んでいて、メンズファッションが好きだったこともある。
高校生までは本当に冴えなくて道を歩けば宗教勧誘に遭ったり、おじいちゃんおばあちゃんによく道を聞かれたり、職場でも宗教勧誘をされたりと、とにかく幸せじゃなさそうだったらしい。
今でも驚かれるのは下北沢で宗教勧誘されたこと。
あんなに音楽や古着で溢れてる若者の街で宗教勧誘するのは絶対に不向きなのに。
それらは母親の言うとおりに髪を切ったり服装も自由にできなかったりと、自分のしたいことをすれば否定されることが嫌で、「あんたらしくない」と個性を簡単に握りつぶすような親だった。
上京してから服装も髪色もいろんなことを好きなようにした。結果が冒頭に書いたとおり。
だから、似たような容姿を見るとシンパシーを感じるし、それと同時に、「あぁ、この人私と同じ記号を持っているな」と思う。
好きな音楽も作家も芸人も、決して全てが同じわけではないと思う。
けど、中目黒にいる人がト音記号だとしたら、下北・高円寺にいる人はヘ音記号な気がする。
もう30歳なのにまだヘ音記号でいることに焦りを感じると同時に、いや、私は好きだからやってるんだと言う気持ちと、私の個性(服装や好きなもの)を褒めてくれる人がいると、まぁいっかと思う。
自分を捻じ曲げてまでモテたいわけではないし。




