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24話 あなたに、応えたい

わたくしは、可愛いお人形のお姫様。



それがわたくし。

わたくしの生きている意味。



そうであれば褒めてもらえて、そうでないと"いけません"の痛いのがとんできます。



マナーのお勉強。歴史のお勉強。算術。ダンス。美容。食事。

白い肌で、良い子で、みんなが褒める“お姫様”でいる時間。


わたくしがわたくしで在るために必要な時間。


それは……嬉しいの。

だって、そのときだけは、大人がちゃんとわたくしを見てくれるから。



お母様もお父様も、お兄様たちもお忙しい。

侍女はよく変わる。

みんな、笑って嘘をつく。


だれも、ほんとうのわたくしを見てくれない。


だから窓の外を見たの。

誰か、いないかしらって。


とても驚いたわ。


わたくし、この世に子供はわたくししかいないとおもっていたの。


だから、窓から他の子供を見つけた時、その子供が幸せそうに母親と話しているのをみて、本当に驚いたの。


昔は読めていた絵本みたいで素敵ね、って。

今は"いけません"な、大好きだった絵本みたいで。


ああ、外ってどんなところかしら。

平民ってどんな風に住んでいるのかしら。

何を食べて、どんな風に勉強するのかしら。

子供は、仲良くしてくれるかしら。


窓の外を想像して、絵本を思い出して、夢を見るのが好きだった。


けれどある日、それすら"いけません"と言われたの。

お人形さんは、白いお肌でないといけないから、お日様にあたってはいけないんですって。



仕方がないわ。


わたくしは、そうでなければいけないの。

そうでなければ、誰もわたくしを見てくれないのだから。


――わたくしって、なんなのかしら。


幸せなはずなのに。

ときどき胸がきゅっと痛む。


誰か。

わたくしを見て。

わたくしの名前を呼んで。





そんな時に現れたのが、あの人だった。


少し歳が上の、それでも同じ"子供"の女の子。

医者だなんて、何かの冗談に決まっています。


けれど……彼女は、初対面のわたくしを、呼びました。


ーーフィーリアさん、と。


姫様でもない、姫殿下でもない。


その上……


『ランチご一緒してもいいですか?』


そんな風に誘ってもらえた時には、手が震えました。


生まれて初めて、一人の人間として扱ってもらえて、わたくし震えるほど嬉しかったの。




それからの彼女ーークラリスさんと会える毎日は、とても楽しくて、楽しくて。

初めて昼食が待ち遠しかったの。

わたくし、クラリスさんとの会話を一字一句日記におさめるくらいでした。




でも実際には、クラリスさんにもきっとこの病は治せない。

そのことだけが、彼女に申し訳なくて。


そう、思っていたのに……


彼女は、誰も触れようとしなかった“食事”のことに気づきましたの。

わたくしでさえ諦めていたというのに、正面から立ち向かって。

あの恐ろしい婦人に、わたくしのために声を上げて。

お父様にも、お母様にも、怯まずに……それなのに、優しく笑って。


『フィーリア様は頑張り屋さんで優しくて、健気で、強くて気高くて、人の気持ちを察するのがとても上手で、それにとても聡明です』


『日に焼けたくらいで、価値が下がるでしょうか?』


わたくしが、一番欲しかった言葉をくれました。



ずっと真綿でしめつけられていた首に、ようやく大きく息が吸い込めたような、そんな感覚。


だから、わたくし決めましたの。


絶対に治して……

わたくしの足で、クラリスさんと踊りたい。

初めて、心から“わたし”でいられた、あの人と。


そして、わたくしのすべてで、あなたの勇気に、応えたいの。





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