前編
ーここはいわゆる異世界 そしてここはとある森の奥にある家
この家にはかつて別の世界からやってきて魔王を倒した勇者の仲間の一人がいる
そしてその家に住んでいるのは伝説の魔法使い ラーシャだった
静かな小屋の中でラーシャはつぶやいた
「そういえば勇者君がこの世界きてすぐは色々言ってたな」
「[スイーツ]が食べたいとか言ってたっけ」
ラーシャは一瞬考え直したがまるで意味はなかった
「せっかくだしその[スイーツ]というものを作ってみようかな」
実はラーシャは[スイーツ]というものが前々から気になっていた
しかし他の仕事でしばらく手をつけられていなかったのである
ラーシャは話を聞いた時書いておいたスイーツについての紙を取り出した
「えっと材料は…牛乳…なにそれ!? 鶏の卵…なにそれ!? 小麦粉…なにそれ!?」
わからなくなったラーシャはすぐに近くにある四角い箱のようなものに魔力を込めた
「おはようございまーす ご師匠様」
箱に魔力を込めると2階の寝室で鐘が鳴り人が降りてきた
「おはようライチ 起きてすぐで悪いけど調べ物だよ」
「オッケーです なにを調べればいいですか?」
「このスイーツについてを調べてもらってもいい?」
「わかりました…では行ってきます」
ーこの世界では誰もが10歳の時それぞれの[スキル]を受け取ることができる
ラーシャが受け取ったスキルは[限界突破]というものだ
このスキルはラーシャの魔力の上限がなくなるというものだった
だがあくまで上限がなくなるだけで魔力は使いすぎたらなくなるということは
今年でスキル13年目になるラーシャは当然把握していた
そして今まさにライチがスキル[並行世界]を使おうとしている
このスキル[並行世界]は合法的に異世界に好きなだけ行くことができるというものだ
少し待ったあとライチは勇者が帰っていった世界へ転移した
「こっちの世界に来るのは久しぶりなんですよね〜」
「じゃあ一旦勇者さんのことを探してみますか〜」
ライチは思いっきり渋谷のど真ん中を歩いていった
すると街中を歩く人々の視線は一瞬でライチの方へ向けられるようになった
それはライチのその姿は日本ではあり得ないほどの美しさを宿していた
だがそれもそのはず…ライチはラーシャの弟子になる時にラーシャに条件を出された
それは可愛くあることである ラーシャは自分の弟子は可愛いことを条件にしている
そのためライチはラーシャの弟子になるためとても可愛くなったのである
そうしてライチが歩いていると目の前でラーシャが持っていた魔石が発生したが
ライチはちょっと不審に思ったが魔石をしまって歩き出した
しかしその後ライチがショーウィンドウに飾られているドレスに見惚れてしまった
するとその時ライチに上品な服をうまく着こなせている男性が話しかけてきた
「そこの君 モデルにならない?」
「えぇ!?」
ライチが突然のことに驚くと男性は名刺を取り出した
「私の名前は与坂 塚年今はモデルの採用業をしている」
「それ仕事じゃないんじゃない?」
「まぁ…. で モデルになる?」
「…どうしてもというのなら」
「わかった ついてきてくれ」
ライチと塚年が少し歩くとモデル事務所に着いた
(モデルに事務所ってあるんだ…)
「じゃあここでモデル面接を受けてくれ」
ライチはそのまま面接を受けに中へ進んでいった
「すみません 採用面接って受けられますか?」
「人手不足なのでいつでも受けられますよ」
「じゃあお願いします」
ライチは専用の面接室に入ってようやく本来の目的を思い出した
しかしもう遅かった ライチが気づいた時にはもう面接が始まっていた
「それでは面接を始めます …まずなぜモデルになろうとしたのですか?」
ライチはこの質問はチャンスだと考えた
(この質問は明らかに大切なもの つまりここで適当に答えれば帰れるのでは…!?)
「…わからないです 街を歩いていたら モデルに誘われて…」
「なるほど…採用です」
「えぇ?」
話を聞くとこの事務所の面接はもう少ししっかりしているらしいが
最初の質問にわからないと答えた人は即採用だそうだ
なんでもわからない方がこの後の成長に期待できるらしい
「ご師匠様…帰るの結構後になりそうです」
次の日になりライチは全てを話して帰ることにした
夕方まで仕事をこなしようやく勇者探しを始められた
とりあえずライチは走り回ることにした
ライチは駆け出した後すぐそこにあった喫茶店に入った
するとそこにはライチが探していた勇者なるものが座っていた
「あ ライチ…だよな?」
「はいそうです僕がライチです」
「要件はわかってる どうせラーシャがスイーツを作りたいとか言ってんだろ」
「せーいかーい」
「このメモをラーシャに渡しといてくれ」
「あ はーい…….そのソフトクリーム美味しそうですね」
「はいはいひとつあげるよ」
「…すみません ソフトクリームひとつください 料金俺持ちの持ち帰りで」
ライチはソフトクリームを受け取りラーシャのところへ帰っていった
ライチが戻ってくるともう夜中になってしまっていた
ラーシャは机に突っ伏して眠りについていた
その机の上には並行世界への転送魔法の実験結果について書いてあった
「…?魔石はおそらく転移成功…ってこれか」
ライチはラーシャに毛布をかけて机に魔石を置くと2階の寝室へ向かった
ー次の日の朝になり ラーシャは目を覚ました
「…ッ 朝か」
「なんで朝と魔王と勇者の扱いが同じなんですか ご師匠様」
「あっライチ帰ってきたのね」
ライチが鶏の卵を食べれる卵だとラーシャに説明すると
魔王城の向こう側にあるコカトリスの巣へ向かおうという話になった
「…なんで魔王城を通るのですか ご師匠様」
「近いから」
「…」
結局ライチたちは魔王城を通ることになった
すると直前でライチが昨日の疲労で筋肉痛を起こし歩けなくなった
そのためラーシャが一人で向かうことになった
ラーシャは箒に座り魔王城のところまで直線ルートで向かった
魔王城の中に入ると剣がご丁寧に置いてあったためラーシャは掴み取った
不審に思い見上げるとそこにあったのは闇属性の魔力結晶である
魔力結晶とは属性ごとの魔力を圧縮することによって結晶にしたものである
今回の場合は魔族しか使えない闇属性の魔力結晶である
「待っていたよ勇者 さあ 早速戦おうか」
「悪いけど私一人で我慢してくれる?」
「まあ お前がいるならいい…この結晶の力に勝てるかな?」
魔王が持っている剣で結晶を割った瞬間 城全体に魔力が溢れ出した
「急いでるの 邪魔しないで」
ラーシャが初級だったはずだがラーシャによって強化された炎魔法[ファイア]を発動した
ラーシャの魔力のによって威力が加算された太陽のような爆炎の塊が魔王に直撃した
「この程度か?」
「なんで効かない!?」
「闇の魔力によって今の俺は強化されているからその程度のものはきかない」
魔王はラーシャとの距離を縮めた時 ラーシャの杖を弾き飛ばした
ラーシャは仕方なく昔勇者に少し教わったぐらいの剣を構えた
「[神への願い]発動 願うものは…」
「勇者になれなくてもいいから」
「立ち向かう勇気を! ! !」
するとラーシャの周りに”初代“勇者の魂が現れた
その瞬間ラーシャは剣の振り方を思い出した
魔王が気迫で一歩後退りした時ラーシャが剣を振った
次の瞬間魔王はその場で崩れ落ちて絶命した
すぐにラーシャは魔法の杖を拾い上げた
その後ラーシャはコカトリスの卵を拾って家に帰った
…話を聞いたライチはあることに気づいた
「思い出したってことはご師匠様もともと剣士だったんですか?」
「それのためには話が長くなっちゃうんだよな……じゃあ昔のことだけど話すよ」
ー 昔 ラーシャは当時の”初代”勇者の子供だった
だがしかし ラーシャには剣より魔法の方が才能があった
そのため剣も普通の人より強かったが魔法使いになった
それから魔法使いとして生きていたが魔法使いとしての経験が剣士としても強くしていた
そのため 剣士の記憶を思い出した瞬間に初代勇者と同じ力を持っていたのである
「……それだけ」
「想像より短かったんですけど….長いんじゃなかったんですか?」
「……さて あとは何が必要なの?」
「…………..牛乳というものらしいです」
「これは多分 ドラゴンのアレだ...」
「もらってきたので大丈夫ですよ ご師匠様」
「あとは小麦粉ですね」
「勇者君が作ってたやつが残ってるんだけど…王国の方なんだよねぇ」
「じゃあ僕が行ってきますご師匠様」
「いや 今回は二人で行こうよ 食べ歩きしたいし」
「絶対そっちが理由ですよね ご師匠様 本音がダダ漏れです本当に」
すぐにライチとラーシャは箒に乗って王国まで向かった
しかし 地上から山賊の攻撃を受けてラーシャとライチは地面に落ちた
「お前ら 持ってるもん全部出せ そうすれば命だけは助けてやる」
先に反応したのはライチだった すぐに剣を取り出して構えた
しかし山賊に囲われていた状態だったためラーシャを人質に取られてしまった
「!!!…ご師匠様!!」
「…磁力……強化…消滅……拒絶..」
「ほらさっさとその剣を捨てろ!」
「…………!!」
ライチは黙ってその場に剣を投げ捨てた
するとラーシャは魔法[磁力操作]を使って空を舞っている剣の元へ飛んできた
そのまま[爆炎乱舞]と[電鳴衝撃]の魔力消費最大版を同時に山賊たちへ放った
草原は平らな焼け野原と化し 山賊達は半数は絶命し 残りは戦意を喪失していた
「あれ ご師匠様眠っちゃった…あ そこの行商の人!」
「なんだい 何か買ってくのかい」
「小麦粉あるだけください」
ライチはラーシャを抱えて家のベッドに寝かせた
しばらく待ったあとラーシャが突然飛び起きた
しかし 突然すぎて勢い余ってライチに抱きついた
「ご師匠様…男性不信だってのに 僕を信用しすぎですよ」
「僕だって一応ご師匠様より5歳年下の男の子なんですから ちょっとは遠慮してください」
「でも女装してるから別に良くない?」
「これ女装じゃないんですけど」
「「......」」
「さて スイーツを作ろっか」
「誤魔化さないでください 御師匠様」小麦粉とバターと砂糖と卵と牛乳を机の上に置いたラーシャはメモを見て調理を開始した
まずライチが小麦粉を合わせてふるったそしてそのままバターを室温に戻しておき 風魔法で滑らかになるまでよく混ぜた
そのあとラーシャが砂糖を投入し その都度よく混ぜ合わせた
そして牛乳を入れながら風の魔法でよく混ぜた
それにふるった小麦粉を入れてよく混ぜた火の魔法で温度を一定に保って 30分ほど焼いた
「そうして取り出すと...できた!」
「これは[マフィン]っていうらしいです 御師匠様」
「そうなんだ」
(ちなみに全然マフィンの材料は足りていないので読者の皆さんは参考にしないでください)
(あくまで今回成功したのはラーシャの魔法のおかげです)
「なんか今[並行世界]が発動した気が...」
「気にしたら負けです ライチ」
「そうですか......では!頂きます!」
適当にラーシャをあしらい ライチはマフィンを食べ始めた
「美味しい...」
「なんか...マフィンというもの自体食べたことなかったけど」
「''これぞマフィン''って感じがする」
「これでこんなに簡単なんだからすごいなこれ」
「アレンジもしやすそうですね 御師匠様」
「他のスイーツも食べたいなこれ」
...と言いながらラーシャがチラッとライチを見た
ライチは観念したように首を振り 残りのマフィンを食べ切ってから[並行世界]を発動した
「また仕事ですか...」
ライチが向こうへ飛んでいったことを確認すると ラーシャは机に向き直った
「さて 実験再開だ」
ーそのあとライチは日本の[インターネット]を駆使してスイーツのレシピを調べた
それは[ケーキ][アイスクリーム][クッキー]の3種類のスイーツだったー
「御師匠様」
「ど どうしたのライチ」
「実験とはいえ僕の上に魔石を送りまくるのはやめてください 痛かったです」
「...で でも」
「でもじゃないんです! やめてくださいと言っているんですよ」
「はい...」
ラーシャは逃げるようにレシピを見つめた
「早速 作ろうか」