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まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い
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第九十話:伝説、誤報される――海賊王ナマズ誕生

帝国海軍基地壊滅の報道が、帝都に走る。

犯人は……まさかの“あの三人”。


懸賞金一億ゴールドの新たな“海賊王”が誕生し、

少年天使は想いに気づき、

解放された人魚たちは新たな仲間に――


海賊篇、終幕。

けれど、伝説は少しだけズレて伝わる。

帝都の港は朝を迎え、セリナたちは帰り支度を整えていた。

「また船に乗るのかよ……俺、もう泳いで帰りてぇ……」

レンは船を前にして顔を曇らせる。帝国にいる間は必死で忘れようとしていた

――“あの揺れ”を思い出さずにはいられなかった。

「レン君、帰らないとマオウさんに会えませんよ? 本当にそれでいいんですか?」

「……よくねぇよ、わかったよ。乗るよ、乗ればいいんだろ……!」

「この娘はほんとわかりやすいね……そういえば、昨夜の地震、感じませんでしたか? すごく揺れて……」

「ええ、ありましたわ。――どこかのバカ天使が、地脈に聖槍をぶち込んだのかもしれませんね。ふふっ」

モリアは小さく笑いながら、ふと思い出したように言った。

その時、ショッピングモールの大型スクリーンが突然、ニュース映像に切り替わった。

スーツ姿のアナウンサーが、焦った様子で原稿を読み上げる。

「臨時ニュースです! 昨晩、凶悪な海賊たちが我ら帝国の海軍基地を襲撃。帝国海兵たちは全力で反抗しましたが、敵の前には手も足も出ず――艦隊は壊滅しました。少将カート・シュナイダーは殉職しました」

「こっわ! 海軍の本拠地にケンカ売るとか……お姉さん、ラム・ランデブーの海賊をちょっと舐めていたかも。次からはもう帝国に来ないわ」

かのテンペスト・タイラントですら成し遂げなかった壮挙。

一体どんな海賊がやらかしたのか――と思った矢先、スクリーンに懐かしい顔ぶれが映し出された。

「犯人は……シーサイレン一家! わずか三人で帝国海軍を壊滅させた、悪魔の如き一味です!」

「船長、デンジャラス・シーサイレン――その名の通り危険極まりない男。眼帯の下には“悪魔の真眼”を隠しており、それが解放されれば、視界に入った全てを破壊するとも噂されています!」

(ないない……ただの寝不足だ、それ)

三人は心の中で、静かにツッコミを入れた。

「次に、ラブリー・シーサイレン。悪魔の凶相をして海の女帝、彼女に目をつけられた男は魂まで吸い尽くされ、灰になってしまう――現場の生き残りの海兵たちが、そう証言しています!」

(ないない……あれはメイクが崩れていただけ)

「そして、ナマズ・シーサイレン。艦隊壊滅の首謀者にして“暴虐の魔王”。昨夜の地震は、彼の力によるものと見られています。その影響で海軍基地は海中に沈没。今やテンペスト・タイラントを超え、当代の“海賊王”として認定。――帝国は一億ゴールドの懸賞金をかけましたが、命が惜しい者は手を出さぬように、とのことです!」

「……うっそでしょ!? この数日で何があったの!?」

「俺すげぇ! この数字、何桁まであるんだ!? ひ、ふ、み……」

ナマズは自分の懸賞金の桁数を見て、目を輝かせた。

知らないうちに先祖を超え、海賊王にまでなっていたのだから当然だ。

「昨日、登録の時に君の名前を使ったからね」

魔王はとぼけた調子で言う。

シーサイレン一家を“身柄引き渡し”した際、魔王はマオウの名ではなく、ナマズの名義で手続きを済ませていた。

理由は簡単――この事態を、最初から予測していたからだ。

(熱い焼き芋は、他人に押しつけるに限る。情報は命……自分の手のうちを晒すほど、相手は対策を練りやすくなる。ボスはいくら強くても、攻略本が出たらただの作業プレイになってしまう。)

「悪魔の真眼、フフフ……ついに我々シーサイレン一家の恐ろしさが世間に知れたか。いや、これも……血の定めかもしれんな!」

「海の女帝はターゲットを逃がさない! あたいの時代が来たわ~♡ この写真、最高じゃない? 世界の童貞クンたちには刺激強すぎちゃうかも♡」

三バカは今日も元気でブレない。

「ねぇ、僕の懸賞金は?」

ルーが懸賞ポスターを見回しながら、わくわくと問いかける。

「ないよ。昨日の目撃証言は三人分だけ。シーサイレン一家=三人だと皆思っている」

「えぇぇぇ……僕も欲しかったのに……」

ルーはぷくっと膨れて地団駄を踏んでいた。

「私はルーを危険にさらしたくないな。――たとえ君が最強としでも」

「ぷっ……」

その言葉に、ルーの顔が一気に真っ赤になった。そっと、魔王の胸にもたれる。

「僕のことを心配するなんて……マスターって、ほんと傲慢。でも――それが嫌いじゃないかも」

一つの恋の種が、確かに芽を出した。

少年の姿のまま、ルーは少しだけ“大人になりたい”と思い始めていた。

「……あれは!?」

「人魚……!」

昨日、解放された人魚たちが、次々と海面に姿を見せる。

「なに?とうちゃん。あの娘たち、俺たちの海賊団に入りてぇんだってさ!」

「ほほ、もちろん歓迎だ。我々、悪名高きシーサイレン一家は来る者拒まず! 海賊王の末裔だからな!」

「え? いい男を紹介するだって?

ふふん……この『海の女帝』であるあたいの下には、いい男なんぞ掃いて捨てるほどおるわよ♡」

こうして『シーサイレン大海賊団』は結成された。

表向きは運送業を営むが、時には海賊討伐も請け負う。

『海賊王ナマズ』の威光が響くこの海域で、もはや命知らずの掠奪者など存在しない――

海賊王の財宝は今日も、波間に燦然と輝き続けている。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本話は海賊篇のラストを飾る“報道と誤解と青春”の回でした。


本人たちはただ自由のために動いていたのに、

世界はそれを“恐るべき海賊王の襲撃”として報道する――


まさに「世界は誤解でできている」典型例です。


少年ルーの初恋は、まだ言葉にならないまま。


シーサイレン一家は、一夜にして伝説の大海賊団に。


そして、物語は次なる海域へ。

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