第八十三話:アポロンの矢と、偽りの海賊
帝国の裏側で動く“正体不明の海賊船”――それは軍人たちが仕組んだ、偽装工作だった。
そんな中、ルーとマオウはシーサイレン一家と共に財宝探しへ。
だがその途中、圧倒的な火力と共に“明星”が炸裂する――!
ついに明かされる、海賊王の宝と、十二枚の翼を持つ天使の本領。
ギャグと火力と陰謀が混ざる、第83話です。
ラム・ランデブーの海賊被害は、日を追うごとに深刻さを増していた。
「お金は全部あげるから、命だけは……」
「ダメだ。お前の船もいただく。お前はただのお荷物だ。あの世で、自分の運のなさを嘆け」
そう言って、海賊は商人の頭を撃ち抜いた。死体はそのまま海に投げ捨てられ、魚の餌になった。 これは、この海では珍しくもない“日常”。だが最近は、特に酷くなっている。
「少尉」
一人の海賊が、海賊船の船長にそう呼びかけた。
「“少尉”ではない。ここでは“船長”と呼べ。我々はあくまで“海賊”だぞ」
「はい、申し訳ございません。最近は王国の船がほとんど見えませんが……さすがにやりすぎでは?」
「バカもの、それがいいんだ。この海の制海権は、帝国が握るべきだ」
“少尉”と呼ばれた男は、タバコに火をつけ、ゆっくりと煙を吐いた。
「すべては“海賊”がやったこと。帝国には何の関係もない。もし捕まっても、余計なことを喋るなよ。家族はいるだろう?」
「はい。自分は海賊。死ぬまで、それは変わらない」
「いい返事だ。帝国がそこまで税金をかけて育てた甲斐がある」
少尉は、くゆらせた煙の先で満足げに笑った。
「……しかし。最近“海賊狩り”が現れているという噂が。対策は?」
「は? この船は王国のぼろい木製船に見えるが、中身は鋼鉄でできている。機動力も火力も、まだ原始人レベルの王国とは違うのよ。そんな奴ら、怖がる理由があるか? たかが民間人に怯える軍人など、どこにもいない」
「そうですね。はは……失礼しました」
そう――この海域は帝国のもの。 たとえ“海賊の真似事”をしていようと、この軍人たちの誇りは揺るがない。
「船長! 前方に高エネルギー反応、未確認の光体がこちらへ!」
「なにっ!? すぐ回避しろ! この船の速力なら避けられるはずだ!」
「無理です! 航行方向を変えても、光が追ってきます! まるで追尾性能があるみたいに……距離1000……300……ぶつかります!!」
――その瞬間。
目の前に閃光が現れ、次の瞬間――
ドンッッッ!!!!
爆発の轟音とともに、鋼鉄製の“海賊船”は、跡形もなく海の泡沫と消えた。
*
「やっぱり火力が強すぎるな……私が撃てばよかったかも」
シーサイレン一家の海賊船『ビッグ・フィッシュ号』の甲板で、私は呟いた。
ルーの聖槍ロンギヌスでは、威力が出る前に貫通してしまうことが多い。だが今回は、聖弓アポロンで真っ向から撃ち抜いた。結果――船は蒸発した。
良くないよな……船の中には奪われた財宝もあって、海賊そのものにも賞金がかかってる。
倒せば、財宝と金、そして名声までも手に入る。商人よりよほど“うま味”がある。
……なのに、なぜ今まで誰も海賊狩りをしなかったのだろうか。
「マスター! 僕、頑張った!」
そう訴えるルーの笑顔に、責める言葉など出るはずもない。
「よくやった。けど、次は私が撃つよ。少しは休め」
「いいえ、僕はまだまだ元気です! マスターの役に立ちたい!」
輝いていた。まさに明星のように。 だが……私たちは射的に来たわけではない。
*
少し時間を巻き戻す。
「海賊王の宝を……奪われた!?」
シーサイレン一家の父、デンジャラス・シーサイレンはそう叫んだ。
「俺たちは海賊王の宝を見つけた。だけど他の海賊たちに奪われちまったんだ!」
にわかには信じがたい話だ。 そもそも、今まで散々間抜けな姿を晒していた彼らが、そんな偉業を成せるようには見えない。
「これを見ても、まだ疑うか?」
そう言って彼が袋から取り出したのは――黒真珠。
しかも、マリが見せてくれたものよりもずっと大きく、深く、美しく輝いていた。
それが本物であるなら……価値は計り知れない。
「で? その宝を誰に奪われたかはわからないのか?」
「すまん。“海賊に奪われた”としか言えねえ。ただ、海賊を追いかけていけば絶対見つかる。もし見つけたら、その宝は全部あんたらにやる。俺たちはただ、恨みを晴らしたいだけなんだ」
真剣な顔をしていた。 だが、私は完全には信じていない。
この男、まだ何か隠している。 私を利用しようとしているのは、間違いない。 だがそれでいい。今回はルーが宝探しを堪能できれば、それでいい。 彼らの話は、手がかりゼロよりはマシだ。 船まであるなら、なおさら都合がいい。
こうして、私たちは二手に分かれた。
セリナたちはマリの商船を護衛し、帝国へ。 私とルーは、シーサイレン一家の船に乗り、財宝を探す旅へ。
そして今に至る。
「すごい! 花火みたいだった!!」
ルーの放ったアポロンの一撃に、末っ子ナマズは目を輝かせた。
いやいや、ルーがあれを最初から使ってたら、君たちはとっくに『あれ』になってたぞ。
それを理解した君の父と姉は、今、青ざめて腰を抜かしているんだ。
「私も久しぶりにルーにいいとこ見せたい。……ダメかな?」
「しょうがないマスターだなぁ。僕、大人だから、マスターのわがままくらい、なんてことないよ。えっへん!」
「ありがとう、ルーはいい子だね」
私は、彼の翼をそっと撫でた。
ルーはそれが一番嬉しいらしい。翼――それこそが天使の力の象徴。
普通の天使は翼が二枚。最高クラスの熾天使でも六枚。
だが、ルーはその倍――十二枚。
この世界に、彼より強い存在など、いない。
それが、私の“相棒”だ。
ご覧いただきありがとうございました!
ルーの「明星アポロン」はこれまでギャグ色強めに扱ってきましたが、今回は久々に**“世界最強クラス”の威厳と火力**を出してみました。
実はルーの十二枚の翼には、後々少し重要な意味があります(いずれ神話編で…)。
シーサイレン一家はギャグ要員のようで、実は“何か”を知っているのかも……?




