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まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き
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第六十二話:妹分へ、ごめん――再び家族になる日

あのとき私は、妹分を見捨てた。自分の弱さと怖さに負けて……。でも、今度こそ――

頬を叩かれ、鋭い音が響く。


「今朝はよくも吐いたね。誰が掃除したと思ってるの??」


今日もまた――“躾”と称した暴力が、静かに始まった。


「やめなさい。顔は目立つでしょう? もっと見えにくい場所にしなさい。あくまで“家事で負った怪我”に見せかけるのよ」


そう。怪我が目立てば、公爵家の“体裁”に関わる。


いじめの事実など、表沙汰にはできないのだ。


私は、ただ耐えることしかできなかった。我慢すればいつか終わる。


痛みに慣れたわけじゃない。ただ、それでも――こうしていれば、彼のそばにいられると思った。


たとえシエノ様が、いずれ別の誰かと結ばれたとしても――


私は、それでも彼に仕えることができれば、それだけでいいと、そう思っていた。


やがて、手を振るう者たちが飽きたように去っていく。


「いい? 告げ口なんてしないでね。この屋敷にあんたの味方なんていないのよ。誰に言っても、皆で“妄言”だと突っぱねてあげるから」


……分かっている。


誰がやったかを証明することなんてできない。


なにより、“大旦那様”と執事セバスが後ろに控えている限り、


シエノ様が私を庇えば、私の立場がさらに危うくなることも。


彼は、私を辞めさせようとしてくれたこともあった。


でも、私は首を横に振った。


彼と離れたら――もう二度と、会えない気がしたから。


「そういえば、今この屋敷には、もう一人“勇者様”が来ているんじゃなかったっけ?」


……セリナ。


その名前を聞いた瞬間、朦朧としていた意識が一気に覚醒する。


「大丈夫。あの時、あなたを捨てた娘が、今さら助けに来るわけないでしょう? ねえ、“マリさん”」


そう。私は――


あの時、セリナを裏切った。


誰よりも助けが必要だった妹分を、私は、見捨てた。


「それに、せっかく“メイドから勇者に”のし上がったのに、使用人に暴力なんてふるったらどうなるかしら? 公爵様にとっても、都合がいいでしょうね」


そう言って、彼女は笑った。


私は、それ以上、何も言えなかった。


苦い涙が、口の中に滲んだ。



「マリさん、どこに行っていたんですか? 探しましたよ」


部屋に戻ると、そこにはセリナがいた。


変わらない、優しい笑顔で――


「……勇者様を煩わせるようなことではありません。私のような、ただの使用人には」


「私も使用人です。それに、マリさんの“友達”ですから。マリさんを、助けたいんです」


「――助けたい、ですって?」


やめてよ。


「そんなの、頼んでない!」


やめてよ、セリナ。そんなふうに、優しくしないで。


「私は……私は、あなたを裏切ったのよ!


 我が身かわいさに、あなたを見捨てた。


 あんな、最低な女なのよ……!」


あなたが優しいほど、


私がどれだけ醜いか、思い知らされる。


「もう放っておいて……あなたは勇者。私はただのメイド。


 これで、全部――収まってるじゃない……」


……どうして。


どうして、私はこんなにひどい言葉を投げつけてるの。


セリナは、何も悪くないのに。


そんな私を、セリナは――そっと抱きしめてくれた。


ちいさな腕で、ぎゅっと。


それは、あの頃の温もりと同じだった。セリナの体温だ。


「セリナはセリナです。たとえ勇者になっても、天使になっても……マリさんの“妹分”です。


 お姉ちゃんがどんなに拗ねても、この絆は切れません。だって、私たちは――家族ですから」


……セリナ。


……セリナ!


「セリナ……!」


もう、我慢できなかった。


私は声を上げて泣いた。


「ごめん……ごめんよ。あなたを一人にして……!」


「はい。許します」


「知らないふりをして、ごめんよ……!」


「はい。許します」


「……あなたの“お姉ちゃん”をやめようとしたこと、ほんとうにごめん……!」


「それは――仲直りできるまで、許しません!」


その言葉に、私はとうとう崩れ落ちた。


セリナの胸で、思いきり泣いた。


ありがとう。


私なんかを――それでも、家族だと言ってくれて。


私も、もう一度……歩き出さなきゃいけない。


セリナのためにも。


そして、私自身のためにも。



ついに、マリとセリナが涙の再会を果たします。赦しと絆の物語は、ここからまた新たな一歩を踏み出します。

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