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まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き
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第五十九話:ご奉公の屋敷にて――マリと“朝の毒”

セリナは諦めなかった――

拒絶されても、無視されても、それでもマリともう一度向き合いたかった。

勇者である前に、妹のように大切だった彼女に。


今回は、セリナが“奉公人”として歩み出すエピソードです。

けれどその先に待っていたのは、かつての温かい日々とは違う、知られざる「屋敷の真実」でした。

「行ってきます!」


あの日から、私はほぼ毎日、シエノ様の屋敷を訪ねるようになりました。


「レン君には『やめとけ』と止められましたが、それでも――私は諦めることができませんでした


「家事のお手伝いに参りました。セリナです」


「セリナ殿、遊びに来てくれるだけでも嬉しいのに……わざわざ働かなくても」


「いえ、お邪魔しているのに、何も返さずにはいけません。それに私、家事は得意です」


「……わかりました。では、あなたの労働には敬意を込めて、給金を支払います。受け取ってください。これは僕の最大限の譲歩です。受けないなら、働くことは認めません」


「はい!」


こうして私は、しばらくの間、シエノ様の屋敷で“ご奉公”することになった。



「マリさん、おはようございます」


「……勇者様。何度も申し上げていますが、私はあなたの知っている“マリ”ではありません」


「……はい。私の勘違いかもしれません。すみません」


――どうして、そんな簡単なことに、今まで気づけなかったんでしょう。


「はじめまして。セリナと申します。今日からお世話になりますね」


もう一度、最初から友達になればいいじゃないですか。


「っ……失礼します!」


顔を隠して走り去ったマリさんを見て、


――嘘が苦手なところは、学校の頃から変わっていませんね、マリさん。



日に日に、私はこの屋敷に馴染んでいきました。


「セリナ殿の淹れたコーヒー、美味しいですね。勇者としても一流、メイドとしても完璧とは……お見事です」


「褒めすぎです。先生がコーヒーにうるさかっただけですから」


「えっ、ユウキ殿が……?」


「いえ、もうひとりの先生です。読み書きも、ぜんぶその方に教えていただいて」


「すごい……読み書きも、ぜひ今度、おすすめの本を教えてください。僕も勉強したいです」


シエノ様は、相変わらずお優しい方です。


毎日ボランティア活動で滅多に屋敷にはいませんが、帰るときには必ず、使用人の皆さんにお土産を買ってきてくださいます。


「セリナちゃん、おはよう」


「おはようございます。シアさん」


「これはこれは、朝から励んでおられますね、セリナ様」


「おはようございます、セバスさん。“様”はやめてください。今の私は、使用人ですから」


屋敷の皆さんは、本当によくしてくれました。


でも――


「マリさん、おはようございます」


「……おはようございます」


それ以上の会話が、生まれません。


マリさんとの距離は、一向に縮まりません。


でも、私は諦めません。


きっとまた、笑ってくれる日がくるって信じていますから。


……そう、思っていました――あの朝までは。



「うっ……おえっ……!」


マリさんが突然、嘔吐しました。


「マリさん!」


私はすぐに駆け寄って、そしてすぐに、その原因がわかりました。


マリさんのご飯の中に、“あってはならないもの”が混ざっていたのです。


――虫の足でした。


あんなものが偶然入り込むはずがありません


「汚いわね」


「ゲロ吐いてる……お似合いじゃん」


「料理当番だったの、あの子でしょ? どうせ失敗したんでしょ?」


「えー、最悪……私のご飯にも入ってたらどうすんの?」


誰ひとり、マリさんを心配しようとはしませんでした


――知っているはずだったこのお屋敷は、まるで知らない世界のようでした。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます!

セリナが前向きに動き出した回でしたが、屋敷の人々が思いのほか冷たくて……読んでいて苦しかったかもしれません。


でも、マリの拒絶の裏にはちゃんと理由があって、セリナはそれを“受け入れてから”じゃないと前に進めないのだと思います。


次回、彼女たちの関係はさらに動いていきます。ぜひ、最後まで見届けてくださいね!

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