番外編⑥:俺が主人公のはずだった! 異世界転生したけど妹が強すぎて聖剣抜けず、メイドが勇者に!?
「俺こそ主人公だろ!?」
――そう信じていた転生少年・マサキが直面する、残酷な現実。
妹に負け、聖剣に選ばれず、メイドに勇者を奪われて。
勘違い全開の“俺様視点”で描く、不夜城突入前の真相と崩壊の始まり。
直江正木。これが俺の前世の名前だ。
ごく普通の高校生だった俺は、ある日トラックに轢かれそうな女の子をかばって――若くして死んだ。
そして、目を覚ますと――
「妃さま、男の子ですよ」
そう、俺は異世界に転生していたのだ!
しかも、父親は異世界転移してきた伝説の勇者・カズキ!
これはもう、間違いなくライトノベルみたいな人生が始まるって思ったさ。
チートで無双して、可愛い子にモテまくって、妹が俺にデレて、勇者として世界を救う――
……はずだった。
________________________________________
「参りました」
そう言って、俺の妹――レンは、あっさり俺に勝った。
同じ剣聖のもとで修業して、しかも妹は俺より4歳も年下なのに、だ。
なにこれ、どういうこと?
本来なら俺が天才で、妹が「お兄ちゃんすごいですぅ♡」って言う流れじゃないの??
納得いかねぇ。絶対おかしい。
俺は何度も挑んだけど、結果は同じだった。
くそっ……このままじゃ、俺の異世界ライフが詰んじまう!
________________________________________
でも、まだ手はある。
俺の母親、この世界では王妃なんだけど、俺に甘い。
試しに母の前でレンの話をちょっと出しただけで――レンは勇者のレースから外された。
よし、これで俺の勇者人生が始まる!
――と思っていた。
________________________________________
ところが。
「なぜ抜けない!? この俺以外に、誰が聖剣を抜けるっていうんだッ!!」
嘘だろ?
異世界転生した俺が、聖剣に拒絶されるなんて、そんなはずが――
……なのに、抜けない。
しかもその後、どこの誰とも知らないメイドが、聖剣をスッと抜きやがった。
なんで!?
レンもいないのに!?
なんで俺は主人公になれないんだよ……!?
これじゃまるで、“かませの悪役令息”じゃないか……。違う。違う違う違う!
俺は主人公なんだ!!
________________________________________
仕方なく、俺は幼なじみたちとパーティを組んで冒険者として旅に出た。
……うん、あるよね、そういうルート。
追放された主人公が、後から最強になって逆転するタイプの話。よし、これだ!
……なのに。
「なんだよこれ……“勇者セリナ大活躍”って……」
あのメイド、もう勇者として認知されてる。
まだ何もしてない俺よりも先に、“勇者”になってる。
間違ってる、絶対に。
俺の方が主人公なのに!
________________________________________
そのとき、冒険者ギルドで、依頼書を睨んでいた俺に声をかけてきた少女がいた。
「あなた……“勇者セリナ”に出し抜かれて悔しいのでしょう?
ふふ、知っていますわ。では、この依頼を受けてみませんか?」
ゴスロリの服を着たその少女は、まるで悪魔のように妖しく微笑んで――
「これは、選ばれたあなたにしかできない任務です」
俺は迷わず頷いた。
彼女が差し出した依頼書には、こう書かれていた。
『不夜城の探索』
これだ……!
謎の美女から高難易度の依頼を受けて、そこから物語が動き出す展開!
ついに俺の時代が、来たんだ!!
________________________________________
* * *
「……哀れな異世界転生者」
その様子を静かに眺めながら、少女――モリアは呟いた。
「せっかく新たに与えられた命を、また無駄にするなんて……
リアルと物語の境すら見失って――その傲慢と愚かさ。
……まったく、なんて醜くて、なんて素晴らしいのかしら。」
そして彼女は、懐から一枚の名刺を取り出す。
《アスにゃんの恋愛相談所♡》
「これでアスちゃんも、助かるでしょう。さて……次はレンの番ですね」
そして少女――モリアの後ろに差すのは、夜明けの光ではなく。
次なる“舞台”の幕開けだった。
勘違い系主人公・マサキの哀しき(?)過去編でした。
本編では語られなかった「なぜ彼が不夜城に入ったか」の裏が、ついに明かされます。
皮肉と哀愁と笑いが入り混じる、転生の“現実”をお楽しみいただけたでしょうか?
なお、彼はまだ「自分が主人公だ」と思っています。