表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
第二章:壊せ、偽りの楽園――不夜城に咲く嫉妬と誘惑の花
55/167

第五十話:恋愛相談所は閉店しました

不夜城編、最終盤――

ギャグとエモの両極端で駆け抜けるアスモデウス&ミリアムの別れの一幕。

セーラー服にスマホ、地獄の恋愛相談所、そして友情の終着点。

これは、たしかに“ふたりだけの物語”でした。

「アスにゃんの恋愛相談所、本日をもって開店にゃん♡」

地獄の片隅に、奇妙な店がまたひとつ開店した。

店長は、色欲の悪魔アスモデウス。

唯一の店員は――

「アスモデウス様。……なんですか、この奇妙な店は」

――元・聖女、ミリアムだった。

 

* * *

 

当然だが、客は来ない。

「ねえミリリン、どうして誰も来ないの? 恋愛相談所だよ? 素敵な名前なのに!」

事務机に寝そべり、ソファのようにくつろぐアスモデウスが尋ねる。

「……場所が地獄だからではないでようか。誰も恋愛相談に来るはずがありません。それとスカート、見えてます」

「いいじゃん地獄だって! 悪魔だって恋したっていいじゃん?

ていうかさ、ミリリンが第一号のお客さんになっちゃえば解決だよ! 特別に無料で相談に乗ってあげるっ♡」

「結構です。恋などしたこともありませんし、したとしてもアスモデウス様にだけは絶対相談したくありません」

「まずは見た目から変えようよ~。ミリリン、もったいないよ!」

「……聞いてませんね。え、分かりますとも。」

――いつものように、折れるのはミリアムの方だった。

 

* * *

 

相談所の更衣室で、かつての聖女は、アスモデウスの趣味で着せ替え人形と化していた。

「アスモデウス様。このスカート、短すぎます。……下着が、見えてます」

「ダイジョーブダイジョーブ♪ 似合ってる似合ってる♡

いまの異世界じゃ、ミリリンと同い年の女の子はみんなこれ着てるよ!」

「そんなわけあるかっ。どう見ても風俗嬢みたいじゃないですか。普段着のはずがありません!」

セーラー服を着てミリアムの抗議に、アスモデウスは満面の笑顔でとあるアイテムを取り出す。

「ほんとだってば~。モリリンと◯谷に行ったとき、プリクラ撮ったJKの女の子たちみんなこんな格好だったもん! ほらこれ!」

見せられたのは――スマートフォン。

この世界には存在しないはずの品だったが、アスモデウスが持っていても、もはや驚かない。

「そうだっ! アタシとミリリンもダチじゃん! せっかくだから写真撮ろ♪ 記念記念♡」

「遠慮します。なんだか魂を吸われそうな気がして」

「大丈夫大丈夫! ミリリン可愛いし、SNSに上げたらぜったいバズるから♡」

――半ば強引に。

ミリアムは、人生で最初で最後の“写真”を撮った。

 

* * *

 

そして――時は今。

レンに敗れ、力尽きかけたミリアムのもとに。

百年を共に過ごした、ただ一人の悪魔が別れを告げに現れる。

「……アス……モデウス様……」

「ミリリン……!」

アスモデウスは、その身体をそっと抱きしめた。

あの日、契約した時から、いつかこの別れが来ることは分かっていた。

だが、いざその時を迎えると、

色欲の悪魔ですら、その悲しみを抑えることはできなかった。

「アスモデウス様が……泣いてるなんて、初めて見ました……

いつも人の話を聞かないあなたでも、悲しむのですね……知りませんでした。……ダチ失格です……」

そう言って微笑むミリアムの目尻にも、小さな雫がひとすじ流れていた。

「いやだ……行かないで……!

まだまだ、一緒にやりたいこといっぱいあるのに! 恋愛相談所だって、アタシ一人じゃまわんないよ……!」

「誰…も来…ませ…んよ、あん…な変…な店、アスモデウス様は……いつもわがままですね。……でも、もう……これで…終わりです」

彼女は、最後の力を振り絞って、懐から一枚の写真を取り出した。

「あの写真……切られなくて、よかった……

これで、私が消えても……写真の中の私は、アスモデウス様の隣に、ずっと……いられますから……」

そう言って、彼女は微笑みながら、光の粒子となって朝の空へ消えていった。

「――ああああぁぁぁぁ……!」

その写真を胸に抱きしめながら、

色欲の悪魔は、今日……一人の“ダチ”を失った。

契約者と悪魔。

それだけだったはずのふたりの間に――たしかに、友情はあった。

ふざけていたのは、涙を隠すため。

でも、最後の言葉だけは本気だった。


ミリリン、またどこかで。


読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ