第四十八話:時間を止める者たちと、動くハート♡
本話は魔王 vs アスモデウス、時間停止世界での“裏バトル”です。
小悪魔♡なアスモデウスと、毛玉魔王の超次元ギャグ&頭脳戦をお楽しみください!
天女の間で、レンと元聖女ミリアムが剣を交えていたその裏側――
止まった時間の世界では、もうひとつの“最終決戦”が始まっていた。
*
「デビキュン♡アローっ☆」
アスモデウスの放つハート型の魔力矢が、雨のように空間を彩る。
だが――ここは魔王が停止した時間の中。
アスモデウスはこの停止世界でも動ける、数少ない存在だ。
しかし魔力矢は、彼女の手を離れた瞬間、空中で静止してしまう。
「え〜、これいつ終わるの? 普通、5秒でしょ?」
「時間が止まってるのに“5秒”の概念があるか。
そもそも私は人間じゃない。制限なんてない」
そう言って、魔王は手をかざす。
「ファイヤボール」
そう名乗った魔法から放たれたのは、火でも玉でもない――
謎の破壊光線だった。
「ちょっ!? いきなり時間戻すなんてズルいし!
今の、全然ファイヤじゃない!!」
ビームをギリギリで回避し、アスモデウスはぷりぷり怒る。
「今の絶対ファイヤボールじゃなかったよね!?
火属性ですらないし、レベルも違いすぎるし!
前から思ってたけど、魔王様って……魔法名、てきとーだよね!?」
「アホ。戦闘中に敵にわざわざ魔法の詳細を教える馬鹿がいるか。
ジャミングは戦術の基本だ」
魔王は当然のように語りながら、またも無言で魔法を連射する。
「せこっ! スカート焦げたじゃん! も〜、毛玉ボディのくせにやることも毛玉!」
「ちっ……」
舌打ちで応じる魔王。
「その毛玉みたいな姿と同じ、せこすぎる……もう怒った!」
アスモデウスは印を組み、両手を突き出す。
「エクス♡ラヴリエルッ!」
――が、無数のハートビームは発射された直後に空中で停止。
「えっ? ……また止めた?
ちょっと! 何回止めるつもり!?」
「これでモリアと時間停止の世界で、体感千年戦い続けて勝った。
経験値なら、こちらのほうが上だ」
「へえ〜? 魔王様って……物理、苦手なんじゃなかったっけ?♡」
アスモデウスは姿勢を低くし、にやりと笑う。
「なら、これで決まりっ☆」
「ラブリー♡フィニッシュ・ホールド!」
アスモデウスが魔王に向かって、全力のハート型タックルを仕掛けてくる。
小悪魔スマッシュ、その威力はあなどれない!
近接攻撃には時間停止が通用しない。
魔王はすぐさま時間を戻し、衝撃を避けるために空間魔法で転移して逃げた。
が――
「ラブリー♡カタストロフ!」
再び放たれた遠距離技に、魔王が対応しようとしたその瞬間――
「誘惑♡スピンキック♪」
アスモデウスの身体が一気に接近。旋回蹴りが魔王に迫る!
「ふーん、近接魔法も使えるのに、どうして使わないのかな? 魔王様♪」
――連続攻撃の狙いは明確だった。
幻術と性魔術を操るアスモデウスにとって、
魔法耐性の高い彼女が多少の近接魔法を受けても致命傷にはならない。
だが、物理に弱い魔王が“性技”を食らえば――先に崩れるのは、彼の方だ。
一見、魔王はかなり劣勢に見えた。
だが――その表情に焦りはなかった。
むしろ、どこか計画通りとでも言いたげな、静かな目。
「アスモデウス。君の上司として、ひとついいことを教えてやろう」
夜を明けようとする空を指差し、魔王は言った。
「夜が明ける瞬間、空で最も強く輝く星を――知っているか?」
「――“明星”だ」
次の瞬間。空から、光が降る。
それは彗星のように鋭く、星のように美しく――
アスモデウスの胸を、一直線に貫いた。
――勝負、あり。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
アスモデウスは本気出すと怖いけど、ギャグと可愛さも全開です。
魔王の「しれっと非道な戦い方」も見どころでしたね。
次回、不夜城編もいよいよ終盤です。お楽しみに!