第四十四話:聖女の葬火
『聖女の悲劇』第十三章へようこそ。
ここでは、聖女ミリアム・エクスコミュニカの壮絶な最期と、その後の運命が描かれます。
戦争の英雄から「魔女」へ――
彼女の魂は、いったいどこへ向かうのでしょうか。
『聖女の悲劇』
第十三章:魔女ミリアム・エクスコミュニカ
王歴41年。
ミリアム率いるセルペンティナの民の必死の抗戦により、王国はついに戦況を立て直し、セルペンティナへの支援を送れる余裕もできた。
このまま戦争を続けても利益はないと判断した帝国は、ついに和平交渉の席に着かざるを得なくなる。
だが、皇帝ディアボロス・ブラッドムーンは考えていた。
――もし、セルペンティナさえ早期に制圧できていれば、戦況は違っていたかもしれない。
その阻害要因はただ一人。戦場で白旗を掲げて先陣を切った、あの"女"。
ゆえに、皇帝は要求する。
城一つを引き渡す代わりに、「聖女」ミリアム・エクスコミュニカの処刑を。
「私は……魔女ではありません!」
魔女裁判の場に立たされたのは、かつて民を導いたはずの英雄だった。
今や彼女は、魔女の疑いをかけられていた。
「魔女でないなら、なぜ男のような服を着ていた?」
「戦場に出る者が、ドレスを着ていくわけがないでしょう」
「詭弁だ。女が男より強いなど、ありえない。悪魔に魂を売ったのだ、魔女め!」
王国にとって、この取引は得策ではなかった。
だが、ミリアムに嫉妬し、反感を抱いていた貴族たちは多かった。
戦争に勝利しても、称賛の声は彼女に集中し、「歴史上もっとも優れた聖女」とまで謳われる始末。
――それが気に入らなかったのだ。
「では、火で試しましょう。
彼女が魔女でないのなら、きっと炎が証明してくれるでしょう」
裁判長は、優しく、残酷に言い渡した。
処刑の日――
ミリアムは麻のドレスを身にまとい、金色の髪を風に揺らしながら、火刑台に立った。
頬の傷跡は、彼女が歩んだ戦場の証。
2年前、民衆を導いた演説台とは違う、無言の処刑台。
この日、彼女は何も語らなかった。
その姿を見守るのは、かつての戦友たち。
かつて彼女に守られた民たち。
彼女が"魔女にされてしまう"ことを惜しんだ者もいた。
彼女が"魔女だった"という裏切りに怒りを覚えた者もいた。
彼女が魔女であると信じ、恐怖に震える者もいた。
――ただ一人として、彼女の無実を信じる者はいなかった。
ミリアムは薪の上に縛られ、火は静かに放たれた。
それは彼女の命を、信仰を、心を、そして"聖女"という名を焼き尽くす、静かなる業火だった。
彼女が信じた神は、最後まで救ってはくれなかった。
火に焼かれ、苦痛に悶えながら命を終えるその瞬間まで、誰ひとり「間違っている」と叫ばなかった。
「……悪魔に……魂を売った……魔女……」
ミリアムは、燃える中でそう呟いた。
――ならば。
この魂を、悪魔にでもくれてやる。
そう心に誓って、少女は火の中で微笑んだ。
人間の聖女ミリアム・エクスコミュニカ。
彼女は、火刑台で処刑された。
*
「いいでしょう――お友達になりましょう、ミリアムちゃん♡」
神に見捨てられたその魂を、拾い上げたのは、悪魔だった。
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