第三十四話:不夜城の誘惑
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幻想的な「不夜城」の世界と、そこに引き込まれる者たちの運命を描いています。
スマホでも読みやすいよう、適度な改行と空白を入れました。
それでは、妖しく輝く夜の都へとご案内しましょう──
王歴41年。
今からちょうど100年前――突如として、この"城"は現れた。
それは、夜にしか姿を現さず、そして"男"しか入れない。
その城の姿は漆黒の天蓋に包まれ、無数の灯りが宙に浮かび、まるで夜なのに昼のように明るい。
人々はその幻想的な異形の都を、こう呼んだ。
――《不夜城》。
その城内に築かれた《翡翠城》は、男たちの欲望が渦巻く楽園。
金と快楽と虚飾があふれ、一夜限りの幻が人々を惑わす。
街の中心にそびえる《紅孔雀楼》は、七層の朱塗りの楼閣。
虹色の提灯が揺れ、階ごとに異なる"悦楽"が用意されていた。
一階では琥珀色の酒を注ぐ猫妖族の女が男を誘い、
二階では炎を纏った竜人の踊り子が艶やかに舞う。
最上階、《天女の間》には、透き通る薄絹をまとった精霊姫たちが宝石の水盤で戯れていた。
「……初めてかい?」
香木の香る裏路地で、銀髪の狐耳娼婦が口元を吊り上げる。
その奥では、角を磨く鬼族の女戦士が宴に鎧を脱ぎ捨て、刺青を晒して盃を傾けていた。
どこからか人魚の歌声が響き、甘い毒のように男たちの理性を溶かしていく。
「この街では、何でも手に入る……代償さえ払えばな」
運河を走る楼船には、仙女を抱きながら金の葡萄を味わう貴族たちの姿。
闇市では魔女が偽りの愛を薬にして売り、闘技場ではヴァルキリーたちが血と汗にまみれて剣を交える。
勝者には、彼女たちとの"一夜の契約"が与えられるという。
そして、夜明け――
街は静寂に包まれ、吸血鬼の歌姫が紅い唇でささやく。
「また、今夜も……」
城は朝になると消え、男たちは二度と戻らない"客"となる。
*
「……不夜城、か」
私は古書『不夜城伝説』を読んでいた。
その幻想と恐怖の混じった記述に、妙な興味が湧いた。
「……あんたも男ね。そんなのに興味持つなんて」
隣にいたレンが、少しだけ不機嫌そうに呟いた。
彼女は最近、セリナの修行以外の時間は、なぜか私と一緒にいることが多い気がする。
「どんなところなんですか? 遊園地ですか? みんなで行きましょう!」
セリナが目を輝かせて言った。
……いや、間違ってはいない。ある意味では"男の夢のテーマパーク"だ。
「セリナには……まだ早い。いや、一生行くべきではない。穢れる」
「私は機会があれば一度行きたいものだ」
「……スケベ」
「アホ…"男しか入れない"、"帰ってこられない" もしそうなら、なんで不夜城中身はそこまで詳しく書かれている」
*
一方――
「ダメだ……入れないっす」
真・勇者マサキのパーティーは、城の結界に行く手を阻まれていた。
ある境界線を越えた瞬間、マーリンとリリアンヌの体がピタリと止まったのだ。
「なにやってんだよ! 早く来い!」
「マサキ様……これは、神が進むべきではないと仰っているのではないでしょうか」
「マサキ、状況がおかしい。一度引こう」
「うるせえ! だったら、俺ひとりで行ってやる! 俺は真・勇者だ!」
そう言い捨て、マサキは仲間を振り返りもせずに進んでいく。
「……これ、多分めちゃくちゃ強い結界張ってあるっすね。女性が入れないようにしてあるやつっす。破れないタイプっすわ」
「ですが、マサキ様が……!」
「死にたいやつは、死なせればいいっすよ。信仰系の神さまもきっと、そう言うっすね」
「神はそんなこと言いません! ……あれ、ガルド様……?」
「……俺も行く」
静かに、しかし迷いのない言葉。
ガルドも、マサキの後を追って結界の向こうへ歩き出す。
「ちょっ、ガルド、バカ! あんなやつ、放っときゃいいじゃん! 本気で死ぬ気!?」
リリアンヌは、マサキのときには見せなかった本気の慌て方で叫んだ。
「……王と約束した。それに、マサキは……親友だから」
普段はクールを貫く彼の、不器用で真っ直ぐな言葉。
だからこそ、止めることはできなかった。
「……バカ……バカ……ガルド、帰ってきてよ……!」
そして朝が来る。
城は霧のように消え、
不夜城に入った二人の男は二度と戻らない"客"となった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
妖しく美しい不夜城の世界観や、キャラクターたちの運命に思いを馳せていただけたら幸いです。
もしこの物語が気に入ったら、ぜひ感想をお聞かせください。
次の夜が訪れる時、またお会いしましょう──




