第二十六話:千の命と一本の聖剣
この物語を手に取っていただき、ありがとうございます。
魔王と勇者、その運命の糸が紡ぐ真実の物語です。
どうぞ最後までお楽しみください。
一人の少女勇者が、私に――魔王である私に、剣を向けている。
それは本来、私が描いたシナリオ。
その完成形は、魔王城で劇的に"上映"されるはずだったのに。
それが、この小さなゴーストタウンで前倒しされるとは――些か、不愉快だ。
──話を三十分前に戻そう。
私は、戦術を決定していた。
今回の敵は霊体。物理が効きにくい。
レンといえど、分が悪い。
悪霊に憑かれたセリナと戦わせるとしても、
戦闘中に他の怨霊に襲われたら反撃が効かない。
何より、私の魔法が彼女を巻き添えてしまう。
だから、今回は私とセリナの一騎打ちでよい。
彼女には一時的に仮死状態になってもらい、
モリアに預けておいた。
これで安心して、戦場で動ける。
戦術は、最もリスクの少ないものを選んだ。
セリナの体力を限界まで消耗させて動けなくさせれば、
取り憑いている悪霊は肉体を見限って離れる。
その一瞬を狙い、時間停止して彼女を回収する。
あとは火力でまとけて片をつける――
それで勝てるはずだった。
ただ、その前にモリアの一言が引っかかっていた。
「……今のまおうさまに、勇者を殺せますか?」
その言葉が、胸に刺さった。
彼女は別に、私が"負ける"と言っているわけではない。
ただ問うている。
――「本当に、あなたはセリナに"殺せる一撃"を放てるのですか」と。
「あなたは残酷だけれど、心を許した者には甘い。
それがあなたの"良さ"であり、"弱点"でもありますわ。
手塩かけて育てたあの娘を、あなたは本当に"殺せますか"?」
……今日のモリアは、いつもより的確に急所を突いてくる。
何か機嫌でも悪いのか?
今、私の目の前で剣を振るう"セリナ"を見て、私は思う。
今の彼女を前にして。私は冷血な魔王にいられるか。
今私が交わした剣はいつか私へ届くだろか。
私はセリナと剣を交えながら、
襲いかかる怨霊を魔法で蹴散らす。
その合間にも思う。
「セリナ君、君は本当に体力だけは勇者級に達したようだ。
君を動けなくさせるには、まだまだ時間がかかりそうだな」
ならば、授業でもしよう。
昔、図書館でやっていたように――
彼女は反応を示さない。
ただ無表情で、機械のように剣を振る。
その姿に、ほんの少しだけ、寂しさを感じた。
やはり……私はモリアの言うとおり、甘いのかもしれない。
「私は、ほとんどの"勇者もの"を読んできた。
だが、その中で一人だけ"異質"な勇者がいた。
――異世界勇者・カズキ」
「彼は、異世界から召喚された唯一の勇者。
聖剣に選ばれる資格を持った者が一人もいなかった中で、
唯一現れた"例外"。」
「当時、聖剣に挑む権利を持つ者は、王族か貴族のみだった。
だが、誰一人として聖剣を抜けなかった。
それでも民間人――平民の中から勇者を探そうとはしなかった。
"平民が勇者になる"など、あってはならなかったのだ。
異世界人ならまだ神が選ばれしものとして彼らの体面を保つだからだ。
だからこそ、"異世界召喚"という禁忌に手を出した」
「――だけどなぜ、異世界召喚が"禁忌"なのか。
君は考えたことがあるか?」
「私は何度も"勇者カズキ"の書を読み、
ずっと不思議に思っていた。
人間に、どこにあれだけの魔力を持って、
そんな大規模な魔法を発動できたか?ここへ来てまでは。」
「異世界召喚には、膨大な魔力が必要だ。
そのために必要な"量"について、
これまで私は真剣に考えたことがなかった」
「だが――この村を見て、分かった。
なるほど"普通の人間千人分"があれば、足りる」
「すべてが繋がった。
この村は"魔族に襲われた"のではない。
――ただ、勇者召喚のために"生け贄"にされたのだ」
「魔力を吸い尽くされた人間は灰となり、
だから肉体あるアンデッドにはなれない。
そして、人間たちはこの真実を隠した。
"魔族が襲った"という嘘をでっち上げ、村に火を放った」
「そう――
"異世界勇者の誕生"は、
千人以上の無実な人間の命の上に成り立っていた」
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