番外編③:見下ろす者と、見上げる者
「天使様の"人間体験"――
ついに"友達"ができた?
その関係は、今日限りか――」
冒険者ギルドらしき建物の前に、
人間たちが群がっていた。
「真・勇者マサキ王子がこの町に来てるらしいわよ!」
「えっ、マジで!?」
「しかも聖女マーリン様も一緒ですって!」
「ちょっと、前が見えないじゃない!」
「押さないでって、今ちょうどいい場面なの!」
まるで腐った死体に群がるハエのように騒がしい。
――うるさい。
僕は一刻も早く、ここを立ち去りたかった。
押し寄せる人波。熱気。騒音。汗の臭い。
どれもこれも、吐き気がするほど不快だ。
「勇者様が出たぞー!」
……その中でも、
僕の隣でやたら馴れ馴れしくしてくる"これ"――
ダスという名の人間こそ、どうにかしたい存在だった。
「真・勇者、マサキ・アルセリオン様のおなーりー!」
歓声の中、
黒髪の男を先頭に、四人の人間がギルドから姿を現す。
構成は男2名、女2名。
「グラナールの民よ! この俺、マサキ・アルセリオンこそが、正統なる真の勇者だ!
魔王を倒せるのは、我らのパーティーしかいない!」
「きゃー! マサキ様ー!」
「素敵すぎる!」
「抱いてぇ♡」
黄色い声。……メスどもが発情している。
実に耳障りだ。
「そして、勇者様の右腕にして、千里先の的すら外さぬ狙撃手――カルド・ファルケン様!」
「……どうも」
「千の呪文を操る、由緒ある魔法使いの家系にして"氷の魔女"――リリアンヌ・エルドウィン様!」
「魔女言うなっての!」
「最後に紹介するは、天より舞い降りし聖女――我らが光、マーリン様!」
「皆さまに、神のご加護がありますように」
……あれが、天使?
せいぜい第九位。雑兵の権天使にも満たない。
なるほど、僕が気づかなかったわけだ。
あれほどの低位であれば、僕が気に留める必要もない。
「すごかったなあ、あれが勇者パーティーか……俺も仲間になりてぇなあ!」
隣の"これ"――ダスが目を輝かせて感嘆している。
あの正統性を必死に叫ぶ姿、
もし道化を演じるつもりなら――笑ってやってもいいがな。
天使のこともわかったし、
僕はもこいつと一緒にいる理由がない。
「なぁルキエル、俺の師匠のとこに来てみねぇ?
鍛えてもらえれば、将来一緒に冒険者になれるかもよ!」
「行かない。それと、"ルキエル様"だ」
「ははっ、ルキエル様、これを進呈いたします。どうか、ご同行を!」
差し出されたのは、小さな鱗。
「……なんだ、これは」
「ドラゴンの鱗! すごいだろ? 俺の宝物なんだ!」
違う。これはただのオオトカゲの鱗。
何の価値もない。
だが、少しだけ気になった。
「……なぜ、僕にそこまで構う? 初対面のはずだろう」
「だって、ルキエルってさ。
いつも堂々としてるんだ。
パン屋で怒られても動じないし、
勇者様たちを見てもビクともしなかった。
――俺、そういうの、かっこいいと思ったんだよ」
……見る目だけは、認めてやってもいい。
「お供え物は受け取ろう。案内せい」
「ははっ、ルキエル様、こちらでございます!」
その日、ルキエル――
"人間としてのルキエル"は、
初めて"友達"と呼べる存在に出会った。
その関係が今日限りのものだったとしても、
彼にとってそれは、
ほんの少し――心に刺さる"何か"を残した。
──人間としての一日は、まだ終わっていない。
「天使様の初めての"友達"、
この先どうなると思いますか?
ぜひご感想をお聞かせください♪」




