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まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
第十章:夜明けを告げるのは誰か――第二回神魔大戦、明星は再び輝く
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第百八十七話:鏡よ鏡、姫の恋は叶う?レンのハッピーエンド、アルセリオン家の結婚式

童話では、姫はいつだって王子様と結ばれる。


けれど――

もし姫が選んだ相手が王子ではなく、

世界を騒がせた毛玉の王様だったら?


父は反対する。

家族は驚く。


それでも姫は、自分の恋を選ぶ。


これは――

勇者の物語ではない。


一人の姫が、

ただの女の子になる物語。


――鏡よ鏡、あいつが一番好きなのは誰?

俺は一人で鏡を見つめ、そこに映った自分の顔を見つめて苦笑いする。

セリナは夢を叶えて、彼女が愛した毛玉の王子様と幸せに結ばれた。

まるでシンデレラのような、憧れさせる話だった。

それに比べて――

姫のはずの俺は、父様の反対でしょんぼり親子喧嘩の末、まだ家出中だ。

泊まり先はもちろん――あいつの家。

いいじゃないか、別に人間じゃなくても。童話にもあるじゃない?

『美女と野獣』とかさ。

「あれは元々が人間で、呪いで野獣になっただけだわ。本物の愛によるキスで元に戻るもの。あの人は最初から人外だから、人間になれるわけがないわ。」

「鏡が喋ってる⁉」

思わずびっくりした。

鏡の中の俺が、俺の動きと一緒に動き出すんじゃなく、まるで意志があるかのように自分から話し出した。

「私はもう一人のあなたよ。」

「モリアだろ。いちいちオーバーな演出しないでくれ。」

「あら、つまらないわ。『白雪姫』の演出には必要だと思ったのに。」

「その流れだと、俺は白雪姫じゃなくて、白雪姫の美貌を妬む妃の方にならないか?」

「お似合いじゃない、今のあなたには。」

「ふざけんな! あんたの方が余程似合ってるわ。この嫉妬の悪魔め。」

「嫉妬なんてしないわ。だって――世界で一番美しいのも、あの人が一番愛してるのも私だから。ふふふ。」

――鏡の中で、俺の顔を使ってその笑顔はやめろ……

でも――全知のモリアなら、童話の中の魔法の鏡より、もっと色んなことを教えてくれるかもしれない。

こいつに貸しを作るのは後が怖いけど、背に腹は代えられない。

「鏡よ鏡――父様が俺とあいつの関係を認める方法はあるか?」

「知らないわ。」

「ダウト! あんた、全知の力を持ってるだろ。お願い、一生のお願いだ。教えてくれ!」

「図々しいわね。姫でそれって、呆れるわ。……仕方ない、教えて差し上げる。」

「あの人を連れて、あなたの家族全員を集めて家族会議をしなさい。それですべてがうまくいくわ。」

「それだけ⁉ 本当だろな……」

「信じなくても結構よ。私としては、競争者が一人脱落してくれるなら、それで嬉しい限りだけど。」

「はいはい、わかったよ。信じてやるから。だっ――」

前に一度、母様にも合わせたのにダメだった。今回だって……

「『家族全員』よ。この際、あなたのまだ1歳にも満たない甥は抜かしてもいいわ。だけど――兄弟全員は必ず揃えること。一人でも欠けたら、絶対にダメよ。」

え?……マジで?

でも――セリナの結婚式でツバキ姉さまやマサ兄も戻ってきたし、ちょうどいい機会かもな。

俺はすべてを――明日の家族会議に賭けることにした。

朝になって、俺はあいつを連れて、今の我が家へ案内した。

「昨日……セリナとお楽しみしたのか?」

昨日はこいつとセリナの初夜。セリナは自分から行くタイプだから、おそらくは……

「何もなかったぞ。」

「うそつけ! セリナから誘いはなかったのか⁉」

「あったけど――君が泊まっている間に、そんなことするわけないだろ。朝になったらお互い気まずいじゃないか。」

「……そうだよな。」

――そうだった!!!

俺が家出でこいつの家に泊まってたから、普通、そんな日に夫婦の営みはしないよな……

だから朝、セリナからの視線がちょっと冷たく感じたのか……ごめん!!!

本当にごめん。昨日だけでも空気を読んで、他の姉さまのところに泊まるべきだった……

後で、ちゃんとセリナに謝ろう。

________________________________________

クーデターで王宮が全壊して以来、王族一家は、ずっと学校の職員家族寮で暮らすことになった。

家族団らんは楽しいけれど、今の五人の家族を入れるには、やはり狭い。

何よりユウキは成長している。いつまでも父様と母様と同室ってわけにはいかない。

マサ兄はいずれ自分の家を持つだろうし、俺ももうすぐ嫁ぐ。

それでいくぶんマシにはなるけど――

年越しや、家族の大切な日には、全員が同じ食卓を囲めるくらいのスペースが欲しい。

甥のノアも生まれたことだし――というわけで、父様が学校の近くに新しい一戸建てを買った。

________________________________________

「あら、お帰りなさい。あなた、レンが帰ってきたわよ! いつまでそんな顔してるの。早く迎えに来なさい!」

新しい家には庭が付いているので、母様が菜園を始めた。

今まで靴より重いものを持ったことがなかった妃様が――

セリナの親友であり、今や世界一の金持ちのマリに農業を教わり、野菜を育てている。

一年前には、とても想像できなかったよね……

でも、俺はそんな母様を誇らしいと思う。

家族にいつも新鮮で健康なものを食べさせたいって、母様はやっぱり変わってないな。

「お父さんなら今、競馬? 見るのに忙しいらしい。」

「イラッ。あの不良中年、テレビを買ってからずっとこれよ。本当、仕方ないわ。ユウキ、お兄ちゃんを呼んできて。お母さん、今ちょっと手が離せなくて。」

「お兄ちゃんも、お父さんと一緒にテレビ見てるけど……」

「もう嫌だわ……うちの男たちは。ユウキ、あなたはああはならないでね。」

「俺が手伝おうか? 今までずっと家にいなかったし。」

________________________________________

王国と帝国が平和になり、帝国の技術も王国へ普及し始めた。

今まで魔法アイテムで生活していた王国にも、帝国と同じく電線が張り巡らされ、電気が使えるようになった。

王国民は最初、そんな異国のマシンに戸惑っていたけれど――

父様が王として率先して使うことで、みんなの遠慮も消えた。

今では、少なくとも王都では「家電を持っていない家は絶滅した」と言ってもいいくらいだ。

それはいいんだけど――

まさか父様とマサ兄が、テレビにあそこまで深くハマるとは思わなかった。

「行け! シンボリルドルフ! わしはお前に、今月の酒代を全部賭けているんだ!」

「いやいや、ここは普通にトウカイテイオーだろ、カズキさん。おお! 並んだ! 行け! ラストスパートだ!」

「うるさい! テレビは静かに見るものよ!」

――勝負が決まる直前に、電源が消えた。

それを消したのは、お昼寝を邪魔されたツバキ姉さまだった……

「ああああ!! わしのシンボリルドルフが……わしの酒代が……」

「わかってるか? さっきので勝ってれば、テイオーは三冠達成できたんだぞ! それを生で見られない残念さが、お前にわかるか!」

「知らないわよ。 私はノアの世話と、あのロリババア姑の相手で、昨日ほとんど寝てないのよ。私の苦労が理解できるかしら? このダメ中年オヤジとダメラノベ弟。」

――はは……

これが、帰ってきたって感じだよね。

我がアルセリオン家――

久しぶりに、全員揃った。

「ならん! ならん! 娘はやらん!」

当然、昨日まで猛反対だった父様が、頭を縦に振るわけがない。

話はまだ原点に戻ってしまった。

「では、どうすれば私たちの関係を認めてくれるんですか。お義父さん。」

「わしをお義父さんで呼ぶでない!!! 大体、前のあのおじさんの姿ですら論外だったのに、今になっては人ですらない人外。そんな奴に、お前が娘をやるっていうのか!」

「人になれば、関係を認めてくれるのか?」

毛玉はゆっくり立ち上がり、指を鳴らした。

光が彼の身を包む。徐々に二頭身のゆるふわ姿が、八頭身の美形ハンサムな王子様のような人間姿に変身した。

「まあ~」

この場の既婚者の母様や姉さまですら、思わずうなるほどの超イケメン。

でも、俺はちょっとしっくりこなかった。同じあいつなのに。この姿は彼らしさが見えない。昔のあのだらしないおっさん姿の方が、むしろ惹かれるのにね。

……俺の男の趣味が悪いからな。

「あれはお前の本当の姿じゃないだろ。呪いで化物になったならともかく、元々人ではないものに、娘は任せられん。」

「それもそうか。」

王子様の姿が消え、また毛玉の姿に戻った。

「私も偽の姿に意味がないから、この姿で会いに来たんだ。人間というのは、難しいな。」

毛玉は丸くなったが、人間については――知っているけれど、理解はしていない。

それが、彼がなぜ「自分が人間でないこと」で反対されるのか、本当に理解できていない原因だ。

でも、俺はこの姿の彼が一番好きかもしれない。

________________________________________

「へえ~あの貪狼将軍がね。まさか本体がこんな姿だったなんて。」

姉さまは現帝国の女帝。時期は違うけど、彼が『ドクター』の偽名を使って帝国で貪狼将軍として残した伝説は熟知している。そして、最近の魔族との戦争を勝利に導いた功績から、帝国ではもう伝説の人。

そんな彼の真の姿がこんな人畜無害そうな毛玉だと知ったら、きっとがっかり――

「可愛いじゃない。 私は、何か怪しい実験で若さを保ってるジジイより、こっちの方が可愛げを感じるわ。ふふ、アリストがこれを知ったら、どんな表情をするかしら? ミラージュなら? ――いや、彼女ならもう知ってるかもね。それにしても――柔らかい、ぷにぷに。レンがちょっと羨ましいわ。」

「姉さま! 姉さまには義兄様がいるでしょ! 俺の男に手を出さないでよ!」

「あらあら、レンはお姉ちゃんにも嫉妬するの? 大丈夫よ。この毛玉は私の弟になるんでしょ? だったらユウキと同じよ。でも――このふわふわがあのマッドサイエンティストのドクターだと思うと……ははは、無理、ははは、ギャップがありすぎ!」

「そんなに柔らかいのかしら? 母さんにもちょっと触らせて。うわっ、毛並みがサラサラ……手を乗せると、まるで吸い込まれるみたいにスムーズ。」

「ボクも! ボクも!」

姉さまの次に、母様とユウキまで触り始めた。そして、その柔らかさの虜になってしまう。

……それに、ちょっと不愉快を感じた。

「やめて!」

俺はみんなの手の中からこいつを取り戻した。

「彼はおもちゃじゃないよ! ベタベタ触らないで! あんたも、悪魔の王様でしょ! もっと威厳を出しなさいよ! なんで女子供にされるがままなの!」

「君の家族だからな。無礼は働きたくない。今回、私は頼む立場だ。君の家族に、君を我が家へ迎え入れてほしいと頼みに来たんだ。この程度のことで、彼らから好感を持たれるなら、むしろ儲けものだ。」

「君は、家族の反対を無視することもできたのに、そうしないのは――彼らが大事だからだろう? だから、私もそんな君から家族を奪えないんだ。君を愛しているから。」

――あんたは、いつもそうだ。

俺が欲しい時に、欲しい言葉をくれる。

何もかも見透かしているのに、気持ちには嘘をつかない。

ずるいよ。

________________________________________

「父上――いや、カズキさん。俺からもお願いします。レンたちの関係を認めてやってください。」

「マサキ! お前までそんなことを言うのか! レンはお前の妹でもあるんだぞ! そんなところに嫁がせたら、不幸になる! 聞けば、あの毛玉は昨日、勇者セリナと結婚したんだろう? それで、わしの娘に妾になれっていうのか! この娘は、今までいっぱい苦労したんだ。わしは、これ以上彼女に不幸になってほしくない。それが親心だろう!」

「それは違うわ、あなた。」

母様⁉

「私も、今のあなたと同じことを考えて、レンから剣を奪ったわ。彼女のためだと信じて――これで彼女が幸せになると。でも、それは全部、私のエゴだった。レンは傷ついた。私が彼女に酷いことをしたんだ。」

「彼女から好きなものを奪った。でも、私が今、ユウキと無事でいられるのは、私がずっと反対した彼女の剣のおかげだった。あなたがその時、彼女の痛みを知っているなら、なぜ今、それを理解できないの?」

「だがしかし……相手は人外よ! それもハーレムするクズ野郎だ! わしは……」

「カズキさん、いいじゃないか。」

今日のマサ兄は、まるで別人のように父様を『父上』ではなく名前で呼んでいる。親子じゃない、少し離れた友達のように、父様に話しかけた。

「俺たちがガキの時、世界の大人たちは古い考えで、つまらないことばかりしてた。だから、アニメも、漫画も、ライトノベルの世界が、とっても魅力的に映ったんだ。今こうして、俺たち二人がその夢の世界へ来たのに――なのに、今、俺たちがその『大人たち』になったら、どうするんだ?」

「ぐぬぬ……」

「わかるだろ? 主人公とヒロインの恋を邪魔する頑固オヤジは、嫌われるんだぜ。母上と結婚する時だって、反対されたら嫌だっただろう? 自分がされて嫌なことを、娘とその恋人にしてやるなよ。もしレンを泣かせるなら――その時は俺がそいつをぶん殴るからさ。」

『決まったぜ』の笑顔を見せて、マサ兄はこっちにグッドサインした。

ありがとう。いつもダサい兄貴だと思ってたけど――今日のあんたは輝いてるよ。

「お前も同じ意見なのか、ツバキ……」

「ええ、ドクターなら申し分ないし。何より、レンが気に入った男だもの。姉として応援しかないわ。ハーレムについても、私は別に気にするタイプじゃないし。うちのディアノにも、もう少し見習って何人か増やしてほしいわ。これで、あのクソババア姑に対抗する仲間が増えるしね。」

そう言いながらも、姉さまは拳を握りしめた。どうやらブラッドムーン家の嫁姑問題は、極めて深刻なようだ……

俺の場合、モリアがどうにも姑に似てるような……

「そうだ、ユウキだ! ユウキはお父さんの味方だよな! お姉ちゃんをどこかにやってほしくないよな!」

父様が最後にすがったのは、まさかの五歳のユウキ。どんだけ嫌なんだよ……

「ボクは――レンお姉ちゃんが幸せになってほしい。あの毛玉のお兄ちゃんと一緒にいる時だけ、レンお姉ちゃんが一番幸せそうだから。ボクはわがまま言わない。いい子だから。」

「なにぃ!?」

――五歳児に負けてるぞ、父様。

「これで五対一ね。あなたの負けよ、あなた。」

「わしは負けてない! そうだ、わしと勝負しろ! 弱い奴は、レンにふさわしくないからな!」

あ――バカ。

こいつに勝負を挑むな……!

「わかった。それでいいんだな?」

――一瞬で表情が明るくなった。『そんなことでいいのか』と言わんばかりに。

元勇者であり、父様の腕は今でも現役。クーデターの時、俺たちがいなくても、父様なら何とかできたかもしれないほど、頼もしい戦士だった。

しかし――相手が……

「どうだ? これで五十回負けだな。気に食わないなら、百戦、千戦、万戦――気が済むまで付き合ってやるぞ。」

「バカな! お前の魔法には、一秒くらいのクールダウンがあるはずだ! なのに、なぜさっき魔法が使えたんだ!」

「誰が、そんなこと言った? 1、3、5、X、9…… そのXが、必ず7だとは限らないだろう?」

――鎖に身動き一つ取れずに縛り上げられ、元勇者カズキは、自分の家の庭で、魔王によって無様な五十回負けの記録を塗り替えた。

最初から勝負にならないほど負けて、父様は負けの中で、あいつの弱点を探そうと観察した。それで、あいつが魔法を使った後、一秒くらいの硬直があると判断した。そして――突進した。

結果、それは父様を誘う罠だった。

うわ……せこい。正面でも普通に勝てるのに、慎重のためにわざと戦術を使うとか……

「この卑怯者め! 男なら、そんな遠くからじゃなくて、近くで戦いなさい!」

「魔法職が戦士職に対して、距離を保ちながら戦うのは常識だろう? そんな挑発には乗らない。それに、君が神からもらったチートスキル『スティール』 は、魔法は盗めないけど、他に変なものを盗まれたら嫌だからな。その射程範囲には近づかないよ。」

――え? なんでこいつ、父様のスキルとその効果や範囲まで知ってるんだ?

「ご親切に本にまで残してくれて、君の戦闘データを私に知らせてくれるとはな。お優しいことだ。そこに嘘が書いてあるかもしれないと疑って、君の戦いの中でこっそり試した。結果――さすが勇者、正直だね。これが君の戦術なら、私が負けていたところだよ。」

その本は、父様が書いた自分の勇者戦記――『勇者カズキのチートスキルが強すぎてヤバい件について』。

痛いタイトルだけど、こいつ、いつもそれを読んでいただけだ。

「それでどうする? 辛抱強さには自信があるんだ。仲良くしようじゃないか。」

「……参りました。」

あの人一倍粘り強い父様が折れた。えげつない……

まあ、知ってたけど。むしろ、最初から時間停止を使ってないだけ……いや、もしかしたらもう使ったかも。俺が気づいてないだけで。

「でも、まだ終わってない! 次は――素材を集めてもらうか。」

――仏の御石の鉢

――蓬莱の玉の枝

――火鼠の皮衣

――龍の首の珠

――燕の子安貝

俺……かぐや姫かよ! そんなもの、集められるわけが……

「わかった。必要な数を教えてくれ。」

「え?」

「変なことを聞いてるか? 数が変わらないと、集められないだろう?」

「一……一個ずつでいい。」

「なんだ、それなら今でもあげられるぞ。」

毛玉は懐から五枚のカードを取り出し、それを潰す。すると、本来二次元に封印されていた画像が実物に変化した。

それが、かぐや姫が課題として出した五つの秘宝だった。

「足りないなら、マムブスから寄せてもらえるが……どうする?」

「い、いや、いい……でも、まだ終わってないぞ! 近くの町に出没する人食い熊がいる! そいつを討伐しろ!」

「わかった。――これでいいか?」

瞬きする間もなく、一つの巨大な熊が、その毛玉の下敷きになっている。息がない、ただの屍のようだ。

時間停止――世界の時間が止まった間に、彼は熊狩りを完了した。

むしろ、千年前の地獄でもっとヤバいものを狩ってきた身だから、今さら熊なんて……

「もうやめなよ。 これ以上続けても、恥ずかしいのは父様の方だから。」

「……最後だ。これを完成させたら、お前たちの関係を認めてやる。」

「何を?」

「わしと約束してくれ。レンを――レンを永遠に愛し、彼女を不幸にさせないと。」

「……父様。」

父様の最後の試練は――前のどれよりも簡単で、どれよりも困難なものだった。

もう老け始めている彼の顔に、悲しみを我慢して、強い一面しか俺たちに見せない――父親の顔だった。

俺は知っている。だけど忘れていた。椿姉さまが嫁ぐために帝国へ行く時も、同じ顔をしていたことを。

「誓う。私はレンを愛し、彼女を不幸にさせない。永遠に。」

「これは――男と男の約束だ。でないと、わしがお前に勝てなくても――マサキ、ユウキ、そして我がアルセリオン家、世々代々の男たちが、お前を殺しに行く。覚悟しろ。」

「ああ、肝に銘じる。」

いつも広かった父様の背中が――今日だけ、心細く、狭く感じた。

きっと、この日が来ることは、心のどこかでわかっていた。だけど、まさかこんなにも早く来るとは、父様も思わなかったんだ。

「レン……もう、ここまで成長したんだな。わしから見れば、昨日まで木の棒を剣にして遊んでいる子供だったのに。時は――速すぎるよ。」

「周りは、お前が姫なのに剣を振るうことを忌み嫌った。わしは、父親としてお前を守れなかった。それが、心残りだったんだ。」

「だけど――こんな頼りない父さんでも、いつかお前より先に行くことになる。だから、わしはいつか、その手を他の男に渡さなければならない。例えそれが、どんなに辛くても。」

「父様!」

俺は、強く父様の懐に抱きついた。

娘は、今日で嫁ぐ。アルセリオンの苗字を捨て、彼の家族として――ただのレンになる。

だけど、父様はいつまでも、俺の父様だから。俺が小さい時からずっと、俺の剣を応援してくれた、俺の最初の理解者だから。

「ここは、いつまでも――お前の家だからな。帰りたい時は、いつでも帰ってこい。」

「はい。お嫁に出ても、俺は父様と母様のこと、忘れないから。絶対、まだ会いに来るから。」

________________________________________

その日、レン・アルセリオンは嫁ぎ、ただのレンになった。

姫なのに、豪勢な結婚式はしなかった。

このちょっと小さな一戸建てで――

アルセリオン家の家族たちと、かつての幼馴染のガルド、リリアンヌ、マーリン。

そして、毛玉家のセリナ、エンプラ、モリアたちを交えた、小さな結婚式だった。

なのに、この家はいっぱいになって、もう少しで入れないかと思った。

だけど――幸せだった。

憧れのウェディングドレスを着て。今日だけは、俺は誰よりも女の子の白雪姫だ。

父様が俺をエスコートして、家の狭いバージンロードを踏みしめて、彼の向こうへ着いた。

これで、やっと俺も……

父様は、涙が我慢できなかった。最後の最後、笑顔で送るつもりが、気づいたら親子みんな大泣き。

――本当に、いい結婚式だった。

________________________________________

一方――やはり、あの天使の姿は、ずっと見えていない。

一体、どこへ?

「では、これで決定しましょう。明けの明星を封印する――と。」

同時刻の天界で――

明けの明星ルキエルの封印が、議題として通過した。


レンの物語も、ここで一つの結末を迎えました。


勇者が花嫁になり、

姫もまた恋を選んだ日。


小さな家に集まった家族と友人たち。

豪華ではないけれど、確かに幸せな結婚式でした。


――けれど。


祝福に包まれるその時、

天界では別の決定が下されていました。


明けの明星。

ルキエル。


次に動くのは、

天使たちの物語です。


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