番外編①:暇を持て余した神々のあそび
魔王が脱獄劇で大活躍していたその裏で、二つの小さな影がひっそりと町の陰に現れた。
「ふふっ……傑作ですわ。これは事前に知っていても笑わずにはいられません。"児童誘拐犯"? はい♪ 勇者を含む三名の児童を絶賛誘拐中で~す――現在も被害者の数を増やす予定です。心当たりがあるとすれば……銀髪の姫君のところでしょうか」
「はぁー……」
「珍しいですわね。バカ天使がここまで静かとは。明日は明星でも落ちるのでしょうか?」
「うるさい、悪魔。僕は……退屈なんだ。暴れたいのだ」
「やれやれ。あなたが暴れたら"人間"という概念そのものがこの世界から消え去るでしょう。神と交わした約束をお忘れですか? "やりすぎたら天界送り"ですわよ。私は一向に構いませんから、どうぞご勝手に自爆なさって?」
「ぐぬぬ……」
「でも、あまりに可哀想なので、一つゲームを提案して差し上げますわ」
「ゲーム?」
「ええ。あなたは"人間の町で人間の立場"として一日を過ごしてください。騒ぎを起こさなければあなたの勝ち。起こしたら私の勝ち」
「……僕が勝ったら?」
「何も出ません。これはただの暇つぶし。ですが、私は知っています。あなたは絶対に勝てません」
「人間ができることが僕にできないわけがないだろう! 見てなさい、悪魔。お前の"全知"は僕の"全能"の前に敗北する!」
「うふふ。楽しみですわ。……あなたが"できる"と"やりたくない"の違いを理解していれば、その全能を持って余すところないのに。うふふ」
*
「絶対、あの悪魔を見返してやる。一日なんて、瞬きする間に終わるさ!」
意気込みとともに、僕は翼を隠し、人間の町へと降り立った。
「これはツイてるぜ。綺麗な顔してやがる。どこかの坊ちゃんか? こいつは金になるぞ……!」
路地裏で、早速胡散臭い人間たちが僕に近づいて来た。
僕は無言で、そいつらを灰にした。
「……あ、間違った。普通の人間は他人を無闇に灰にしないんだった」
「えいっ」と指を弾き、灰になった人間たちは一瞬で元の姿に戻った――気絶したまま、泡を吹いて。
「……騒ぎになってないから、セーフだよな」
その瞬間――
「いや、アウトですわ」
遠く離れた屋根の上。モリアが静かにツッコミを入れていた。
こうして、ルーの"人間としての一日"が始まったのだった。
さあ、吉が出るか、凶が出るか、モリアのみぞ知る。