第十八話:沈黙の真実、銀の嘘
「魔王は姫を攫うものだ――
だが今回の“誘拐犯”は、
とんでもない貧乏くじを引いたらしい。」
「隊長!『例の魔法使い風の怪しい男』が中央エリアに現れたとの報告です!」
「隣に少年はいたか?」
「はい、帽子を被っていますが、確かに少年のような子が一緒に……」
「それが姫様だ。今すぐ兵士を集めろ。できるだけ多くだ。やつらが町を出る前に、必ず捕まえる!」
「はっ……ですが、よろしいのでしょうか。これ以上中央に兵を送れば、城門の守備が――」
「馬鹿者! 姫様は剣の達人、あの剣聖にすら勝ったお方だぞ。今は剣を持っていないからまだいいが、我々が束になっても勝てる相手ではない。数で押さえるしかない! 城門には最低限の兵だけ残せ!」
「了解!」
こうして、町中のほぼすべての兵士が、中央区に集結した――“剣を持たない姫”を捕らえるために。
*
「ご協力をお願いしまーす! ただいま、指名手配中の『児童誘拐犯』を捜索中でーす!」
……遠くから、衛兵の声が響く。どうやら最後まで“誘拐犯事件”として通すつもりらしい。まあいい。優しき魔王様は、もう少しこの茶番に付き合ってやろう。
「動くな、誘拐犯! その子どもをすぐに解放しろ! 貴様らはすでに包囲されている!」
「誘拐犯とは物騒な。私は法律を守り、税も漏らさぬ立派な良民だ。名誉毀損で訴えるぞ、税金泥棒が」
「そこにいる少年がなによりの証拠だ! まさか、自分の子供だと言い張るつもりか?」
「我が子だと主張してもいいが、さすがに芸がないな。どうだ? この子の意見も聞いてみよう。さあ、私は君を誘拐したか?」
少年は、ゆっくりと首を横に振った。――違う、と。
「ほら見ろ。本人が否定しているではないか。ただ大人と子供が一緒に歩いていただけですぐ犯罪者とか、ロリコンとかほざく、これだから、人間は手に負えない。……で? この子の“本当の親”はどこに?」
「それは……」
「できるわけがない。か? 自分の子ではないと主張しながら、“本当の親”の姿も示せぬ。今の状況では、君たちこそが誘拐犯に見えるぞ?」
少年――いや、少女は黙って頷いた。
「話は終わりだ! 魔法使いに構うな! まずはその子どもを――!」
「……なるほど、これが“自由都市”の正体か。証拠もなく罪人扱い。悲しいことだな、なあ? 勇者セリナよ」
「はい。悲しいです、マオウさん」
「……なにっ!?」
帽子を取った“少年”の姿は――レンではない。
それは、我らが勇者セリナだった。
「騙された!? 全兵、門へ急げ!!」
*
――お前たちの敗因を五つ、教えてやろう。
①:私がセリナの随伴者だと知らなかった。そのため“この少年がセリナである”可能性を無視した。
②:私をレンの協力者だと決めつけた。だが、私とレンが常に一緒にいるとは限らない。
③:“メイド服と聖剣”でしかセリナを識別していなかった。顔すら覚えぬとは、まるで熾天使ルキエルにでもなったつもりか?
④:城門の兵を減らしたのは失策だ。いくらレンの剣を恐れていても、武器を持たぬ十四歳の少女に、町中の兵を集中させるとは――思考が恐怖に支配されている。
⑤:あくまで私を“誘拐犯”と決めつけ、堂々と時間稼ぎに付き合ったことだ。
――感謝する。とても助かった。
*
一方このころ、城門に一人のメイド少女が見合わない剣を背負って町を出ようとしている。
「あれが、噂のメイド勇者か……本当にメイド服で聖剣を背負っている。それでも勇者になったつもりか?」
「門を開けてくださ〜いな、衛兵のお・に・い・さ・ん♪」
「は? なんだ貴様……メイド勇者風情が――ひっ!?」
セリナ(?)が腰の装飾用聖剣を抜いた瞬間、場の空気が一変した。
それは、まるで真剣のような殺気。衛兵の喉元に、一瞬で突きつけられたそれを、冗談と受け取る者などいない。
「門をあ・け・ろ♪こ・ろ・す・ぞ♪」
――門は、開かれた。
潇洒に、門を駆け抜ける銀髪のメイド勇者。
「あの娘から貰った聖剣の模造品…剣として軽すぎのが難点だね、力加減を間違ったら本当に殺してしまったかも。」
もはや、彼女を止めるものは何もない。
「それでは、諸君。私は“勇者のお供”として、“魔王を倒す”という重大な使命があるゆえ、これにて失礼させていただくよ。……セリナ君。」
「はい! なんかよく分かりませんが、マオウさんの言う通りにしてれば、なんとかなる気がします!」
――かくして、魔王と勇者(仮)は、自由都市グラナールをあとにした。
一件落着(?)!
「最後までお読みいただきありがとうございました!
魔王と姫の駆け引き、どのシーンが最も印象に残りましたか?
ぜひ感想をお聞かせください♪」




