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まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
序章:すべての旅は、茶番から始まる――剣も魔法もまだいらない
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【リメイク】第十三話:銀色の閃光、月華、霧を裂く

勇者が“剣”を扱えぬ世界で、

本物の剣士は、どこにいるのか。


聖剣は振るえない。

戦う術も知らない。

それでも勇者は、前に進まなければならない。


――ならば、教えるしかない。


最強の勇者を育てるために、

魔王は“剣”を探す。


そして出会う。


霧の中、音もなく敵を斬り伏せる、

一人の剣士に。


その一閃は、月のように静かで、

その剣は、誰よりも鋭かった。

第13話をリメイクした、評価お願い:聖剣はメイドに抜かれ、その情報は王都から流れ、王都に一番近いグラナールまで知らされた。そして、辺境から王都へ向かっていたクリシア王妃とレン姫も、ちょうどグラナールに到着した。

「姫さま。部屋の掃除に参りました。ドアを開けてください。」

同行した世話係のメイドがいつものようにレン姫のドアをノックするが、返事が一向にない。

「姫様、失礼しますよ。」

メイドは様子がおかしいと感じ、慌ててドアを開けると――

そこには誰もいなかった。開け放たれた窓、整えられたベッド。しかしレン姫の私物はほとんどない。すべての状況から導かれる答えは一つだけ。

「大変です、王妃様! 王妃様!」

姫は脱走した。

一方この頃、魔王はセリナを育成するため町に出ていた。

昨日の武器屋のように正体を疑われないよう、セリナを宿に置いて一人で行動した。モリアに彼女が気づかれないよう見守るよう頼み、これで安心して目的に専念できる。

魔王が考え抜いた末に思い至ったのは――悪いのは、先生だ。魔法使いである魔王はセリナに教養を教えられても、戦士としての戦い方を教えるのは無理がある。

いっそ彼女を魔法使いとして育てる方向も考えた。しかし、それではダメだ。従来の聖剣を使う勇者ではない、魔法使いの勇者を倒しても、『勇者信仰』は砕けない。

彼女は、聖剣の勇者として、魔王に倒されねばならない。それ以外に意味はない――ならば、戦士の先生を探すしかない。

モリアは魔王と同じ魔法職、ルキエルは論外。人にものを教える性格ではない。地獄から強い戦士を呼ぶことも考えたが、ルキエルの立場上、モリア以外の上位悪魔を長期間人間界に留まらせるわけにはいかない。

残された選択肢は、人間の戦士だけ。

まずは冒険者ギルドへ。

「ようこそ、グラナールの冒険者ギルドへ。冒険者になりたい方ですか?」

受付嬢は熱心に、ギルドに現れた見慣れない顔の魔王を案内した。魔王が周囲を見渡すと――

剣や槍を持った戦士、弓やナイフを持つ狩人、杖や魔道具を持った魔法使い。そしてたまに見かける教会の神官たち。細かい違いはあるが、大体はこのバランスでパーティーを組んでいる。

(勇者伝説の影響か。)

代々勇者が誕生するこの王国では、勇者信仰が深く浸透している。それは魔王にとって最大の敵。だから、魔王の判断は方向として正しいだろう。

「いや、そのつもりはない。依頼だ。ギルドで一番の戦士をレンタルしたい。報酬は一日金貨一枚だ。」

ギルドで一番の戦士――その言葉一つで、ギルド内は騒ぎ始めた。男たちは皆、自信ありげな笑みを浮かべて集まってくる。

「魔法使いの兄ちゃんがギルド一の戦士を探してる? ならばこの俺だろ。『千斬りの鬼』の異名を持つ俺の剣が斬った魔物の数は、このグラナールの人口より多いんだぜ。」

「口だけのこいつの言葉に惑わされないでください、旦那。この『裂空の一閃』の異名を持つアークこそ、ギルド一の戦士です。」

「いやいや、かつて『黄昏の死神』と呼ばれたわしこそが。」

誰もが自分こそが一番の戦士だと主張している。それは一番の称号が魅力的なだけでなく、一日金貨一枚という報酬もかなり美味しいからだ。それはロード級の魔物一体を倒すのに相当する値段。こんな破格の報酬に食いつかない冒険者はいない。

「君たちは剣聖――クラウス・ファルケンに勝てそうか?」

先ほどまでの盛り上がりは、氷水をぶっかけられたかのように一瞬で冷めてしまった。

人の群れが消え、皆自分の席へ戻った。まるで何事もなかったかのように。

「一番を名乗った割にはあっけないな。名一つで怯むようでは、その程度が知れている。」

「仕方ありませんよ。剣聖に勝てる戦士は、この国ではレン姫だけでしょう?」

受付嬢は苦笑いしながら、自分のギルドの皆をフォローした。

「レン姫? そんなに強いのか。」

「はい。女性でありながら、12歳の時にはもう剣の玄人と呼ばれる域に達し、師である剣聖に勝ちました。本当に凄い方ですよ。でも今は辺境に送られてしまって、お目にかかれないのが残念です。――あ、そうだ。」

受付嬢は何かを思い出したように、一枚のチラシを奥のカウンターから持ってきた。そこには銀色のショートヘアの少年剣士が描かれている。

「『銀色の閃光』ユウキ様なら、剣聖にも勝てるかもしれませんよ? すっごく強いんです、この子。あの若さでもうオリハルコン級の冒険者ですし、それにカッコいい。私の推しです。もう少し大きくなったら、狙っちゃおうかな、なんちゃって♡」

しかし受付嬢のその目は本気だった。婚期を逃した女は恐ろしいものだと、魔王は今日身をもって体感した。

「なるほど、『銀色の閃光』ね。」

そのチラシに描かれた少年の絵を見て、魔王は薄々その正体に気づいた。

冒険者ギルドを出たところで、一人のメイドが魔王に声をかけてきた。

「すみません、冒険者の方ですか?」

なぜメイドが? セリナを連れている魔王が言うのもなんだが、王都以外でメイド一人が街中を歩いているのは相当珍しい。主人からの買い出しも普通は執事がするものだ。重い荷物はメイドが運べないから。

「このくらいの背丈の、少女――いや、少年のような者を見ませんでしたか?」

(メイドが手でなぞるその身長はセリナと同じくらい。少女と言いかけて、少年と言い直した。つまり、見た目が判別しにくいということ。例えばこのチラシに描かれた『銀色の閃光』のように……興味深い。メイド自ら探しに来るとは、その子はそれほど重要な人物なのだろう。)

「それはもしかして、このチラシの子かな?」

魔王は『銀色の閃光』の文字を自然に手で隠し、絵だけをそのメイドに見せた。すると、メイドも驚いた。

「はい! 彼女――いや、彼です。こんなに上手く描かれているなんて、絵がお上手ですね。どこで見かけましたか?」

「そうだな。さっきギルドでその子が依頼を受けて出て行くのを見たぞ。この絵もその時に描いたものだ。まだそんなに時間は経っていないから、間に合うかもしれない。」

「ありがとうございます! 助かります。」

顔色一つ変えず、魔王は嘘を並べた。しかしただのメイドにそれを見破る手段はない。彼女はそれを鵜呑みにし、軽く礼をして去っていった。

メイドを見送りながら、魔王は確信した。

この少女こそレン姫。そしてオリハルコン級冒険者『銀色の閃光』ユウキ。

必ず見つけてやる。メイドたちが見つけるよりも先に。

――と、その時。

「泥棒よ!」

(治安がいいのがこのグラナールの売りだろうに。泥棒とは穏やかじゃないな。まあ、人混みの中では犯罪が起きやすい。人間の劣根性からすれば当然の帰結だ。私とは関係のない話だけどね。)

「どけ、どけ、どけ!」

小さな影が周囲の人にぶつかりながら逃亡している。魔王も例外ではなかった。ぶつかった瞬間、魔王は気づく。

少年だ! もしかして…

本能的に逃げる少年の腕を掴んだ。

「何をするんだよ!」

「黙って顔を見せなさい。」

少年を後ろから引っ張り、確認しようとする。

キツネ色の髪、汚れた顔、貧弱な体型。何より――

(こいつは正真正銘の男だ。肩と骨盤の幅から、女とは決定的な違いがある。レン姫が実は男の可能性は? ないな。ただのコソ泥。ならば用はない。)

魔王が手を離そうと思ったその時、視界が揺れた。気づけば、誰かに腕を掴まれ、顔を地面に押しつけられていた。

(……まさか。ひったくりを装った私への襲撃?! やられた。ここは一旦時間を止めて体勢を立て直す――)

「この悪い泥棒が! ようやく捕まえたぞ!」

無垢な銀色のショートヘア。少年にも少女にも見える華奢な体。そしてあのチラシに描かれた者と同じ顔。なるほど、本命もちゃんといるんだな。

先ほどの少年はこの混乱に乗じて逃げたらしい。魔王にとってそれはどうでもいいこと。今一番重要なのは――

この『銀色の閃光』が、噂通りの強さを持っているということだ。

「あれ?」

次の瞬間、押さえられていたはずの魔王が消えた。同時に、空から氷の槍が少女に向かって降り注ぐ。彼女は脊髄反射のように後ろに何度も宙返りしながら、余裕でかわす。彼女は冷静だったが、周囲の人々は突然降る氷の槍にパニックになり、この二人から逃げ出した。先ほどまで混雑していた道路は、まもなく閑散としていた。

「魔法使い?! でも詠唱の素振りはなかったぞ。大体、どうやって俺の拘束から逃げたんだ?」

少女が周囲を見渡すと、それまで快晴だったグラナールが深い霧に包まれていた。一メートル先のものすら見えなくなるほど、視界が狭まっている。

しかし、聞こえてくる。重い鎧が歩く音、それも一つではない。

「衛兵? いや、衛兵はもっと軽い鎧を着ているはずだ。これは……」

歩く音が急に加速する。走っていた。どこへ? こんな深い霧の中で、どうやって自分の位置を特定した? 少女は不思議に思う。しかし、考える時間を与えるほど魔王は優しくない。

一振りの巨剣が重く、横から少女に斬りかかった。少女は軽くジャンプし、両手をその剣の剣身を支点にして使い、思い切り鎧の頭部に蹴りを入れた。その蹴りで鎧の兜は遠くへ飛んでいき、カンカンと音を立てた。

そして少女は、自分の目に映った光景に驚く。鎧の頭部には、頭がない。さらに、頭を失った鎧は何事もなかったかのように再び剣を振るう。辛うじてそれをかわした少女に、霧からさらなる追撃が襲いかかる。巨剣が各方向から斬りかかり、少女の要所を狙ってくる。

「3…5…8。予想は八体。アンデッドじゃない、錬金生成物だ。にしても、よく動くな。」

少女は一気に前に滑り込み、鎧の関節を狙ってもう一蹴りを入れた。一本の脚を失い、鎧はバランスを崩して地面に倒れ、手の中の剣も滑り落ちた。

その隙を少女は逃さなかった。音を立てず、小走りでその剣を回収する。

「重い! 俺はもっと軽い剣が好きかな。――この際、好き嫌いは言っていられないか。」

両手で巨剣を掴み、持ち上げるのも大変なのに、少女が構えを終えた途端、空気が変わった。

「月華一閃」

霧が動いた。地面を蹴る音も確かにあった。しかし、次に少女の姿を捉えた時には、一閃は既に放たれていた。三体の鎧が腰から真っ二つにされ、地面に倒れ込んだ。

「あと五つ。」

背後からもう一本の巨剣が斬りかかる。しかし少女は避けず、ゆっくりと別の方向へ歩き出す。すると、その鎧はひっくり返って跪いた。

「月下千華」

花が散るように、その鎧は細かく切り刻まれ、跡形もなく消えた。

「これで後半分。――と。」

見えない霧に向かって、そのまま巨剣を投げつけた。鈍い金属のぶつかる音が命中の合図。それは鎧にとって致命傷ではないが、その後ほぼ時間差なく、少女は刺さった剣を掴んでそのまま上に斬り上げた。

「月影裂き、からの」

剣の斬先を変え、舞うように剣を一回転させる。何も見えない霧の中から、鎧が重く地面に落ちる音が伝わってきた。それも二つ。

「霞月輪。――後はラスト一体。」

剣を構え、信じられない速度で走り出した。しかも音がない。彼女は完全に霧に溶け込み、霧を味方につけていた。

最後の一体が彼女を探している。目のない鎧はどうやってこの霧の中で彼女を特定したのか?

音? 違う。耳もない鎧に音は聞こえない。しかし無機物であるこいつらは生き物に敏感だ。そのために、魔王は最初から氷の槍で周囲の人間を排除し、彼女一人を特定しようとしていたのだ。

だが今、その鎧は何も感じていない。どういうことだ?

――感じた。接近している。前か、後ろか、右か、左か。

「上だよ、バーカ~」

空から少女が体重を乗せた一撃が、最後の鎧を丸ごと貫いた。

「煌月落とし。これであんたの駒は全部潰した。いい加減に出てきたらどうなんだ。」

「お見事。人間がここまでできるとは、正直予想外だった。」

拍手の音が聞こえ、深い霧の中から魔王が姿を現した。

「しかし、考えが甘かった。なぜ鎧たちがあそこまで音を立てていたと思う?」

「まさか!」

少女はようやく自分のミスに気づいた。しかしもう遅い。背後から鎧の手が彼女を押さえつける。彼女が魔王にしたように、今度は彼女が押さえられた。

「最初の八体は君を油断させるための囮。君に『鎧は音を立てるもの』と思わせ、本命の鎧が音を立てずに君を押さえる。――どうかな。」

「ぐっ…卑怯だぞ、この泥棒!」

「泥棒だから、卑怯なのは当然だろう? 泥棒ではないけどな。頭を冷やせ。なぜ私を泥棒だと思うんだ? その根拠は?」

「顔が悪者そうだから。」

「差別で訴えるぞ。……とにかく、泥棒は先に逃げた少年だ。私はただ巻き込まれただけだ。この財布も先の奴が拾い忘れたもの、盗品だろう。君から返してこい。そして泥棒の特徴を聞いてこい。私だったらここに戻ってまた捕まえに来ていいから。」

魔王は拘束を解き、丁寧に少女の手に財布を渡した。

「あんたが逃げたらどうするのよ…」

「逃げるなら、君を拘束しているうちに金を持って逃げている。……私に嘘をつくメリットはない。」

「わかった…もし違ってたら、ちゃんと謝りに戻るから。」

霧が晴れ、光が再びグラナールを照らした。遠くへ歩いていく少女の後ろ姿を見て、魔王は心の喜びを抑えきれず、口元が少し上がった。

「レン・アルセリオン。セリナの剣の指導者として、申し分のない合格だ。」


それは偶然か、必然か。


泥棒を追った先で出会ったのは、

王国最強と噂される剣士――

『銀色の閃光』。


その剣は、確かに本物だった。


だが、それ以上に――


彼女はまだ、自分の価値を知らない。


魔王は笑う。

この出会いが、何を意味するのかを理解しているからだ。


勇者は剣を持つ。

だが、その剣を振るう者は誰か。


答えは、もう目の前にある。

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