表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ
108/122

第九十八話:俺の魔王には名前がない

今回はバトルなし! むしろ全編もふもふ!


船酔いで瀕死のレン君と、もふもふモードの魔王が、

小さな船の中でいろんな話をします。


――姫の覚悟、魔王の正体、名前の意味。

そして、ちょっとずつ近づいていく二人の距離。


静かだけど、きっと忘れられない夜のお話です。

頭を落ち着けて、俺はようやく冷静さを取り戻した。

父様と母様が処刑されると聞いたとき、心のどこかで、諦めて一緒に死ねたらとすら思った。止めに来たセリナにも、酷いことをしてしまった。


「ごめんなさい!」


帰り際、俺はセリナに土下座で謝った。師匠として、絶対にしてはならないことをしてしまったのだ。自分のわがままで彼女を傷つけた。


「いいですよ。私も武闘会の時、レン君に酷いことをしましたから。おあいこです」


彼女はいつものように優しく俺を許してくれた。そのやさしさが、今の俺にはむしろつらい。


そして、俺はもう一度、あいつの前で泣いた。


父様にすら泣き顔を見せたことがないのに、あいつの前ではもう三度も大泣きしている。……泣き虫だと思われるかな。


けれど、あいつは今回も冷静に状況を分析して、解決策を見いだしてくれた。


「私とシーサイレン一家が海賊をしていた時、彼らから聞いたことがある。満月の時、潮が引き、普段海底にある“隠れ暗流の洞窟”が現れる。その道を使えば、三日で王都へ着く。そして次の満月は―――明日の夜だ」


シーサイレン一家は快く、洞窟の案内と王都までの航行を引き受けてくれた。


「兄ちゃんは人魚たちの恩人。そして我らシーサイレン一家の隠れた一味。これしきのこと、任せてくださいよ」


船に乗るのは正直すごく嫌だけど、父様と母様のためなら、死ぬ気で我慢する。


夜になり、満月が空に映る。その光はまるで魔力を秘めているように、海水を引かせていく。


海岸の目立たない隅に、その洞窟はあった。そんなに大きな洞窟ではなく、小さい船しか入れない。シーサイレン一家の海賊船があの時のままだったのは、本当に助かった。


人魚たちは先行して暗礁を探索し、俺たちは慎重に前進した。


朝までに洞窟を抜けなければ、再び海水が戻ってきて――シーサイレン一家以外、全員溺れてしまう……。


――そして、俺はやっぱり船に弱いらしい……。


激しい嘔吐と眩暈が俺をベッドから降りられなくさせた。


でも、そのおかげで……あいつがずっとそばにいてくれた。ちょっと、得した気分だった。


あいつは俺の前では、武闘会の時の毛玉の姿でいた。こっちの方が話しやすい。


まったく、あの時は俺があんなに慌てていたのに、こいつは何事もなく楽しんでいた。本当バカ。


「魔王って……なんなんだよ」


あの時の最後の言葉が気になっていた。失礼かもしれないが、今このもふもふした大きなぬいぐるみのような毛玉を、魔王と結びつけるのは難しい。


最初に会った時は、変な名前だと思った。でも色々あって、追及しなかった。“マオウ”……そのままじゃないか。


「私は七十二柱の悪魔と、その悪魔の大軍を統べる“魔王”だ。どうだ、怖いだろ」


猫耳をぴくぴくさせて得意気に語る毛玉に、怖さよりも可愛さの方が勝っていた。


俺はそっと、彼を抱きしめた。……すごく柔らかい。毛もすべすべしてるし、なにより、猫耳がまるで別の意識があるかのように動いている。


女の子が好きそうなものは苦手な俺だけど、これだけは別だった。


「じゃあ、なんで俺に教えたの?」


「私は君を“家族”だと思っている。だから、知ってほしかった」


なにそれ、プロポーズ? 毛玉の分際で生意気な。お仕置きでもっともふもふしてやる。


天使と悪魔はとっくに知っているらしい。……ちょっと嬉しかったのに、二人だけの秘密だと思ってたから。


でも――


「セリナはどうなるの? あの娘、まだ知らないんだろう。まさか……」


セリナはいずれ、“勇者”として“魔王”と戦う運命にある。ならば――


「私がなんとかする。私は彼女を殺さない。……いや、“殺せない”が正しいかな」


「お優しい魔王様で。……なんで“勇者”なんて育ててるんだよ。あんた、魔王だろ」


「人間に、二度と“勇者”が“魔王”に勝てると思わせないためさ。


私は、暗殺される恐怖に怯えて生きるのはもう、こりごりだ」


こいつらしい、せこい理由。……むしろ安心すらした。


もしセリナが“聖剣”を抜いていなかったら――俺が抜いていたかも。


その時は、こいつと戦うのは俺だった。……抜かなくてよかったかも。


昨日、こいつと戦って、よく分かった。それに……セリナには悪いが、彼女が知らない“魔王の秘密”を俺が知っている――ちょっと優越感。


「なぁ……あんたの本当の名前は? “マオウ”って、偽名だろ」


もっとこいつのことを知りたくなった。たぶん、俺は自分でも怖いくらい、こいつのことを――愛してる。


こいつが人間じゃなくても、魔王でも――関係ない。


「ないぞ。私は名前など持っていない。


天地から生まれた“精霊”だからな。君たち人間は、“ウンディーネ”や“サラマンダー”に名前をつけるか? それと同じことだ」


「不便だろ、それ。……俺がつけてやろうか?」


自分の印をつけたい。これは俺のものだという証。


「いや、いい。名前は危険だ。


“呪い”をかける条件のひとつにも使われる。……持たない方が便利なんだ」


「バカ」


断られたことに、ちょっとむかついた。お返しにこいつの肉球をぷにぷにしてやった。……柔らかい。爪もない。完全にもふるためにある。


「こんなに触っても怒らないんだな」


「私は言ったろ? 君は“甘える”ことを知るべきだと。


その行為を拒否する理由なんて、どこにもない。


それに、今の君は船酔いで苦しんでいる。これで少しでも楽になるなら、どうぞご遠慮なく」


「バカ……」


船に乗るのは嫌いだけど――これなら、好きになれるかも。


今度、父様と母様を救い出せたら。


……二人で、また船に乗ろう。


そう考えながら、俺は魔王を抱いて眠りについた。


お読みいただきありがとうございました!


死ぬ気の決戦回(前話)から一転、今回は癒しと秘密とちょっぴり恋心(?)のお話でした。


魔王の正体。

名前を持たない理由。

レンが“名前をつけてやろうか”と思うほど、誰かを想う気持ち。


それを「ぷにぷに」で表現する作者の謎センス。


次回は、いよいよ王都突入かも?

でもその前に、二人で見る満月と、明かされた秘密の時間を、

どうか読者の皆さんも胸に刻んでやってください。


次もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ