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まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ
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第九十四話:悪魔が引く糸、貴族が踊る

カズキ王が提案した“議会制”改革――それは王国を大きく変える可能性を秘めていました。

しかし、それを良しとしない者もいたのです。

かつて王と共に戦った貴族、クセリオス・ヴェスカリア。

彼が今、全知の悪魔と手を組み、王国最大のクーデターを決行します。

これは、理想を掲げた王と、それを否定する現実主義者の激突。

新章・「王都動乱編」クライマックスへ向けて、大きく物語が動き出します――!

クセリオスのクーデターは迅速だった。

わずか半日で王都は制圧された。

それはヴェスカリア家が、何百年の歴史の中で築き上げてきた“力”の結晶だった。

「な、なにをする! 俺たちはこの学校の生徒だぞ!」

――だが、公爵の命令により、その学校は廃校に。

いずれは貴族の別荘に改装される予定となった。

さらには、奴隷の売買までが復活を告げた。

「カズキ王は、そんなことを許すはずがない!」

学生たちは怒りと抗議の声を上げた。

「もう“カズキ王の時代”は終わった。……これからは、“クセリオス王の時代”だ」

衛兵たちは、冷たく言い放った。

王国の至る場所に、マサキ王子とレン姫の【懸賞令】が貼り出された。

カズキ王と王妃も、処刑の予定は一週間後と告げられている。

彼が何十年もかけて築き上げてきた改革は――

ここですべて、無に帰してしまうのだろうか?

「すべて、あなたの言った通りに上手く運んだ……パイモン」

王宮の地下室。

このクーデターの勝利者――クセリオス公爵は、ひとり呟いた。

そして彼の“影”から、もうひとつの影がゆっくりと形を成し、やがて姿を現す。

「ええ。私は全知の悪魔――こうなることを、最初から知っていました」

モリアである。

だが今日の彼女は、いつものゴスロリドレスではなく、執事風のテールコートを纏い、長い髪もショートカットに変えていた。

口調も女性的なものは消え、落ち着いた中性的な調子に変わっている。

――だが、その可愛らしい顔だけは、変わっていない。

なぜ彼女が、こんな場所にいるのか?

「異世界人の王が“議会制”を持ち出す。……それを事前に知っていれば、工作などいくらでもできる。

衛兵たちも所詮、目先の利益に釣られる“使いやすい駒”。

“改革による不確定な未来の利益”より、“明日の昇給”の方が重要なのさ。

それすら理解できなかった異世界人は、王の器ではなかった……

それにしても、剣聖と賢者の子女が、ちょうど王都に戻っていたとは――ふふ、運命は私の味方をしてくれる」

クセリオスは勝利の余韻を噛み締めるように、グラスにワインを注ぐ。

「よろしいのですか?

今まで“王座”には興味がないと語っていたあなたが、今さら“クーデター”などと」

「……今、叩かねば間に合わなくなる。

議会制が導入されてしまえば、民は“政治の味”を覚えてしまう。

一度知ったものは、もう元には戻らん。

貴族の権力は徐々に削られ、やがて歴史から消えていく。

異世界人が“半数の議席を貴族に譲る”などと語ったのは、ただの便宜に過ぎん。

ゆでガエルのように、ぬるま湯で我々を殺すつもりだ。……全知でなくとも、私には分かる」

クセリオスはワインを飲み干し、満足げに口元を拭った。

「それが、あなたの破滅を招くとしても……ですか?」

「……私の結末も知っているのか、悪魔め。

だが、知っているのなら、こうも分かるはずだ。

――私は、何もしなければ“ヴェスカリア家”が衰退する運命にある。

ならば賭けるしかあるまい。“悪魔の力”も利用する。それだけだ」

「ならば、私から言うことはありません。

あなたがどんな結末を迎えるか――見届けさせていただきます」

モリアはその言葉を最後に、ふっと姿をかき消した。

クセリオスが悪魔の召喚を行ったのは、何十年も前――

カズキ王が改革に乗り出した、その頃からである。

当時のクセリオスには、せいぜい低級な悪魔しか応じてくれなかった。

だが、そのとき――モリアは現れた。

彼女と契約を交わしたことで、クセリオスは“あのときの若さ”を保ち続けている。

さらに、モリアの全知の力を借りることで、カズキ王の行動を常に一手先、二手先まで読み切ることができた。

では、なぜ彼女はそんなことをしたのか?

それは、彼女が“見抜いた”からだ――この男は“利用できる”と。

クセリオスが“悪魔を使っている”つもりでいるように、彼女もまた――クセリオスを“使っている”。

魔王すら、いまだに彼女が裏で糸を引いていることを知らない。

「この姿……やっぱり好きになれませんわ。だって、可愛くないんですもの。

“仕事”のときは“パイモン”として、こういう格好をしなきゃいけないだなんて――乙女の心を持つ私にとっては、あまりに酷ですわ。

これだから、ビジネスってやつは苦手ですの……」

王宮のどこかの一室で、彼女はいつものゴスロリ風ドレスに着替え、髪型も戻していた。

「……これから忙しくなりますわね。魔王様にも、しばらく会えなくなるのが寂しいですわ。

でも――“正妻”って、ただ愛を求めるだけじゃダメ。

彼にも“幸せ”になってほしいんですの。

クセリオスという男は、魔王様の計画に大いに役立つでしょう……生贄としてね」

悪魔は、契約者の願いを叶える代償として“魂”を求める――

だが――“全知の悪魔”にとって、それだけでは足りないのらしい。


ご覧いただきありがとうございました!

今回はクセリオスによる王都制圧、そしてついに全知の悪魔パイモリア(パイモン)が表舞台へ。

見た目は可愛いゴスロリ、でも中身は冷徹な知略家。

「この男は使える」と判断した悪魔が、いま王国を覆すゲームを始めます。


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