悠々自適のニート生活~チャモ改
――Not in Employment,Education or Training.
僕はソレをしている。N・E・E・T、つまり僕はニートである。
自分で言うのも何だけど、僕はこれといった挫折をしたことがない。順風満帆とは言わないけれど、飢えたことはないし、誰かに差別されたこともない。不幸という言葉とは無縁の人生を歩んできた。
そんな僕が何故、ニートなのか。
答えは簡単、働きたくないからだ。
好きなときに起き、好きなものを食べ、好きなようにし、好きなときに眠る。心よ常に安らかであれ。いつまでも、いつまでも。
寧ろ働いたら負けってやつですよね、うん。
僕はずっと、ずっとずっとず~~~~っと、ニートでいれたらいいなと思う。
ニートの栄光を僕に。
そんなことを聖地であるベッドで考えていると、ドアがとてつもない勢いで開いた。
驚いて顔をあげると、
「お兄ちゃん!」
我が妹である。そして後ろに母である。
「何事?」
首を傾げていると、妹が涙目になりながら、声をあげた。
「そろそろ働かないと駄目だよ!」
凛と響く声にたじろぐ。いったいぜんたい、突然なんなのだろう。
「ほら。そろそろちゃんと仕事をなさい。でないと、あなたの妹が家を継がなくてはならなくなるのよ」
嘆息する声。なるほど、母娘でそんな話をしていたわけか。
「……それは、良い話じゃないか」
心から祝おうと手を叩こうとして、妹が僕に体当たりしてきた。
そればかりか、腹部にまさかの重いパンチ。
「絶対いや、最悪! 私はカッコイイ人と結婚して可愛い子どもを育てて穏やかな夫婦生活を過ごすのよ。お兄ちゃんのバカバカバカあんぽんたんっ、大嫌いッ――!」
妹は続けざまに良い蹴りを僕にかますと、そのまま部屋を飛び出していった。母はというと、冷たい視線を僕に注ぎ鼻で笑い、立ち去る。
生まれて初めて妹に罵声を浴びせられ、呆然とする僕を置いて。
ショックのあまり久しぶりに友人に連絡を入れると、嬉しいことに友人はすぐに来てくれた。
椅子に腰掛け、溜め息をつきながら事のあらましを伝えると、彼は僕よりも深い溜め息をついた。
「いつかこうなるとは思っていたよ、みな君を心配してるんだ」
「心配も何も、ただ働きたくないだけなんだけど」
そう僕が答えると、彼はすっくと立ち上がった。その目には真剣な光が宿っている。
拳を握りしめながら、
「私はここで君を見ていることしかできない」
そして僕の腕をつかむと、ぐいと引っ張った。思わず立ち上がった僕に、
「だが君には、君にしかできないことがあるはずだ!」
なんて情熱的な言葉だろう、素晴らしすぎて哀しみが湧く。
「君も僕に働いてほしいの?」
「当たり前だ。じゃなきゃ来るものか。これから毎日来てあげよう。妹君の幸せのため……じゃなかった、君がやる気を取り戻すまで!」
そして、白い歯をキラリと輝かせる。
あぁ、大事なことを忘れていた。そう言えば彼は、妹のことが好きなのだっけ。
完全なる四面楚歌確定に、僕は仕方なく腹をくくった。
次の日、鶏の声と共に僕は目覚めた。
なんでこんなに早く起きねばならないのか、嫌だ嫌だ嫌だ。
涙を飲みながら陰鬱な気分で朝の支度を終えると、私室を出る。僕が廊下に出た途端、人々はにこやかな笑みを溢した。
その頭を垂れて。
「陛下の、おなぁり~~!!」
地獄の釜の開く音、ファンファーレ。
あぁ、甘美なる怠惰な日々よ、ニートという甘い楽園よ、サヨウナラ……。
僕は重たい王冠をより重たく感じながら、しぶしぶと歩を進めた。
――後日、書斎にて。
「なぁなぁ友よ、画期的な政治体制を考えたんだけど」
「ようやくやる気を出してくれたか! どんなものだ、それは」
「民から政治をやりたい者を集う。そして皆で投票をして、その中から王を決める。民が国の代表ということで民主主義と名付け」「却下だ」
――悠々自適なニートの生活は、遠い。
これは逆さまの蝶さまの200文字の同名作品を1000文字以上にアレンジしたものです。
作品を読んで、キャラ主体のテンポのよい作品だと思いました。地の文を単純に継ぎ足すのではなく、元々あるキャラ造形を彫らなければテンポが悪くなると思い、キャラに主眼を置いて書きました。
少しでもキャラが生き生きしていればよいですが。
落ちについては短いからこそブラックユーモアというか、シュールな雰囲気が出るものでした。
ですから、1000文字にしてしまうとその魅力が半減するように思いました。
そのため、原作にはない落ちを簡単に加えさせていただきました。ラストが簡単なのは、濃く書くと原作の落ちの魅力を薄めてしまうためです。
このラストがついたためにニートという言葉があるのに民主主義という概念がないという矛盾が生じていますが、その方が面白いかなと……センス悪いので改悪になっていたらすみません。
この作品を書いて、200文字を1000文字にするという試みは難しいなと改めて感じました。
素晴らしい勉強の機会をくださった逆さまの蝶さんに心から感謝します。




