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繰り返すもの(更新停止)  作者: ザルジス
一章 花道
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ヨク=ゾトース

「馬鹿騒ぎは終わりよ。全員集まったことだし本題に入るわ」


ムーサは円卓を見回し、全員が耳を傾けている事を確かめると続けた。


「アイモスから珍しい提案が来たの。彼の研究の集大成である魔術儀式に円卓派も同席してくれないか……ですって」


「先生が私達に? 」


ファジルが疑問の声をあげる。他の面々も顔や態度に疑問を表していた。


「皆が疑問に思うのも無理ないわね。アイモスが弟子に自分の研究を見せるなんて初めてだもの。それも研究の集大成と来たわ」


ムーサの言葉にメトロスが大きく頷く。


「先生は自身の研究を一切公表なさらない。弟子に教えるのは常に蔵書に載っていることのみ。故に先生は部外者から魔導師ではなく司書に過ぎないなどと揶揄されることもあった程だ。それが此度、我々に研究の成果を見せてくださるという。これ程名誉な事はない……して、その儀式とやらはいつ行われるのだ?」


喜色に満ちた声でメトロスは尋ねた。


「明日の夜中よ」


「明日か、急だな。まぁ、自身の研究の成果をいち早く実行したいのは魔導師の性か……」


「そうね、気持ちは分かるわ。それで、明日はアイモスが主催するパーティーがあるのはご存知の通りだけれど、儀式はその後。……皆、パーティーには参加するわよね?」


渋々、といったように小さく首を縦にふる魔導師達。とりわけ苦い顔をしているゴットラムが唸るように話す。


「欠席すると先生が拗ねるからな……行くには行くさ。だが正直、苦痛だ。一度先生に近づけば最後、すぐに肩を抱かれて次々に人を紹介される。私はただ魔術を探求したいだけだ。名誉に興味はない。人脈を広げたい弟子には良い機会なのだろうが、私はどうも好かん」


「真面目だねぇ。ゴットラムのその姿勢だけは俺にも真似できないな」


タランがからかうような調子で言った。ゴットラムはタランを一瞥するだけで何も返さない。タランは肩をすくめて続ける。


「俺は人を紹介されるのは大歓迎だよ。いつかまた芸人として身を立てる時に客の当ては多い方がいいからな……でも、パーティー自体は嫌いだ。何が嫌って、先生があの高らかな声で延々何かを話続けていることだよ。楽団の演奏も喰っちまうくらいには響くぜ。いっそ楽団呼ぶのなんてやめて先生が演説し続けるのを聴く会にするべきなんじゃないかね」


タランの冗談はうけなかった。誰もが冗談が実現した時の事を想像し、あまりのおぞましさに恐怖したためだった。ムーサもまた、明日のパーティーの退屈さを存分に思い出したことで顔を青くしている。


「私もパーティーは嫌いよ……ただ魔術が好きでここにいると言うのに、身分の話をしたがる連中ばかり……まぁ、そんな事はどうでも良いわ。問題はその後。パーティーの終了後に、私達円卓派は全員、アイモスの塔の頂上に集まれとのことよ」


「パーティーが終わった後ってことは真夜中だね。眠いから行きたくないな」


ファムムがいかにも気が乗らないように言った。


「眠いと言うのが理由ならあなたは永遠に行動できないでしょう? 来てもらうわよ。ハーロル、今回ばかりはファムムよりこちらを優先してもらうわ。いいわね?」


反論しようとするハーロルの気配を察したムーサは、ハーロルが口を開く前に先手を打つ。出鼻を挫かれたハーロルは出かかった言葉を唸りに変えた。


「むぅ……しかし、何をするのだ?」


未だに納得しかねる雰囲気を納めきれないハーロルは、自主的に話題を変更しようと疑問を呈する。答えたのはウマルだった。返答は、やたらに緊張を持った、改まった声色で行われた。


「何かを、呼び出すんじゃないかな」


円卓に視線を落としながら発せられたその言葉は、形こそ思いつきのようだったが、ファジルにはどこかウマルに確信があるのではないかと感じた。ウマルの言葉にメトロスが首をひねる。


「確かに異界の怪物や死した偉人の魂を呼び出すのは魔導師が知識を深める為の常套手段だ。しかし、その為に十二人もの弟子を呼び出すというのは聞いたことがないぞ?」


「ただ私達にも機会をくれようとしているだけじゃないの?」


とフィレーネ。


円卓の魔導師達は次々と意見を交わし、儀式とは何なのか、何故自分たちが呼ばれたのかを考察しようとする。その喧騒の中で、ポツリとファムムが呟いた言葉が妙にこの場に染み渡った。


「十三人もいなければ呼び出せないか、抑える事のできないなにかを呼ぶ、とか」


ファムムの呟きは、その場にいる者達に不思議な確信を抱かせた。確証は勿論無いにも関わらず、これが真実なのではないかと皆が感じ、そして戦慄した。もしそうであるのならば、呼び出す存在は恐らく、神と呼ばれるもの達に違いないからだ。


円卓が静まりかえる。その静寂に、ムーサが言葉を投じた。


「呼び出す存在がどんなものかはわからないけれど、招来の儀式であることは間違いなさそうよ」


ムーサは人数分の羊皮紙を取り出し、仲間達に向かって飛ばす。魔導師達は次々に羊皮紙を受け取っていく。ファジルもそれに続いて羊皮紙を手に取り、内容を確かめた。


「ヨク=ゾトース?」


羊皮紙の内容はハイパーボリアでよく使われるツァス=ヨ語ではなく、古代のアクロ語(著者が知識の無い者から内容を隠したい時によく用いられる言語)で書かれていた。難解な言い回しが多いためにすぐには解読できない部分も多いが、ヨク=ゾトースと呼ばれる存在を崇める祈祷文のようだった。「全てと共にあるもの」、「最極の虚空」、「広大なる権威」、使われている言葉達の仰々しさから、想像もつかないほど高位の存在なのだとファジルは感じる。――――やはり、神のような。


他の仲間もそれを感じ取ったのだろう、皆、顔を強ばらせ、先程のファムムの言葉はやはり真実であったのだと確信していた。


「ゴットラム、招来の儀式に関することはあなたの専門でしょう? このヨク=ゾトースという存在に聞き覚えは?」


ファジルがゴットラムに尋ねると、ゴットラムは顎に手を当て、記憶の中の本をめくるように視線を動かし始めた。しばらくして視線が一か所に留まる。どうやら心あたりを見つけたようだ。


「伝説の大魔導師プノムの紀行文で見た名だ。プノムはこの存在をとても恐れていたようだが……それが何で、どんな形で、何をするのか、全くわからない。このヨク=ゾトースについて私が記憶しているのはたった一文だけだ。『終わりなき永劫の中を常に在り続ける絶対の権利者、ヨク=ゾトースの怒りを目の当たりにした時の恐怖を思えば、全ての脅威は目に見えぬ塵の一粒よりも下等なものに成り下がる』……皆なら分かるだろう。私がこれしか知らぬことの意味が。通常の方法では知る由もないということだ。ましてや招来の方法など……一体どこで……」


ゴットラムはぶつぶつと羊皮紙の出所を考察し始めた。ファジルは、ゴットラムが知らないのであればきっと、アイモスが弟子達に公開している膨大な蔵書の中にさえ、否、世に存在する無数の書籍の中でさえ、ヨク=ゾトースに関する記述はほとんど無いのだろうと思った。アイモスの研究所を構成する十三の建造物の内の十を占領する蔵書を、ゴットラムが十年の歳月の中で全て読破し記憶していることは、円卓の仲間達の中では常識であったし、その手がアイモスの蔵書以外にも伸びて久しい事を知っていたのだ。


「なんにせよ、伝説の大魔導師すら畏怖するもの、ということですか」


この祈祷文を読めば当然だとファジルは思う。羊皮紙の文章が誇張に満ちたものでないのならば、否、例え誇張に満ちていたとしても、これ程の崇拝を向けられる存在が強大でない筈がない。


ムーサが扇を軽く打ち鳴らした。


「私はこの儀式はかなり危険が伴うのではないかと思うの。儀式への参加を辞退するのなら今の内よ。私は参加するつもりだけれど……皆の意見も聴かせて頂戴」


魔導師達はお互いの顔を見合う。本当にこんなものを呼び出すのか……? そんな怖じけが円卓を覆っている。それを剥がそうとしたのか、ウマルが口を開きかけた。しかし、それよりも早く、今の今まで黙っていたエウフォリオンがこの空気を切り裂く。


「面白いじゃねぇか」


円卓の注目がエウフォリオンに集まる。常に気怠げで自身の研究にしか興味のない彼が意見を発することは滅多にないことであった。エウフォリオンは心底楽しげに口角を吊り上げる。


「伝説の大魔導師様が恐れ戦く存在なんだろう? それに対面出来たのなら、俺達はあのプノムすら越える魔導師になれるってわけだ。なんの実績もなく他所の魔導師からの嘲笑の的だったアイモスが、アイモスの弟子達が、円卓派が、ハイパーボリアの天辺にのしあがる絶好の機会だ。湿気た面してんじゃねぇよ。これを逃す手は無い、そうだろう? あの秘密主義のアイモスが俺達に協力を頼んだ。それだけ逃すには惜しい機会ってことだ。お前らだって本当は好奇心を抑えられないんじゃ無いのか? なにより、俺達の師匠が頼んでる、それを手伝ってやるのは弟子の務めだろ」


円卓に先程とは別の性質の静寂が訪れる。長尺で熱のある演説に、これは本当にエウフォリオンなのか? と皆が思った。普段エウフォリオンと反りが合わないゴットラムに至っては、こいつは偽物に違いないと言わんばかりの眼圧でエウフォリオンを睨んでいた。


ファジルもまた呆けていたが、エウフォリオンに素直に賞賛を送る。


「こんなに意欲的なエウフォリオンは初めて見ました。意外と、向上心とか師への恩義とか他人の評価への関心その他諸々が存在したのですね」


「お前が俺をどう見ていたのかに関しては議論の余地が大いにあるな? めんどくせぇからしねぇけどよ。ま、俺を見直してくれたようで何よりだ。ウマルから乗り替えてくれてもいいんだぜ」


「丁重にお断りします」


エウフォリオンは冗談めいた舌打ちをした。


「振られたね、可哀想に。あたしにしとくかい?」


「お断りだ」


「なんだよエウフォリオン。ファジルちゃんに気があるなら言えよ。お嬢様周りの恋模様がますます面白くなるじゃねぇか」


「お前は後でムーサに締められろ」


ファジル、ライラ、ティマーズに続き、他の仲間達も次々にエウフォリオンを褒めたり野次ったりしていく。(ゴットラムは未だに疑い続けていた)もはや先程の怖じけなど遠い記憶の様だった。そんな円卓を見渡してムーサは言う。


「意見はまとまったようね」


円卓の全員がムーサを見て頷く。ムーサも受け止めるように頷き返した。

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