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〈20〉夢狩り

友雪は、廃校を舞台にした青春ミステリー小説を書こうと村にある廃校の教室にいた。

落選で受けた傷は落選作よりも面白いドラマを作ることでしか癒せない。

 一次審査も通らない自分に劣等感はあるが、ドラマへの想いは色褪せることはなかった。

 友雪が教室で一人、構想を練っているとカメラを片手にもった山下が教室に入ってきた。

「珍しいところで会いましたね」声をかけてきたのは山下だった。

友雪は会釈した。

あのシャングリラの夜のこともあって友雪はどこか山下を苦手にしていた。

「ここにはよく来るんですか?」

「いえ、今度のドラマの舞台に廃校を使おうと思って」

「取材ですか」

「ええまぁ」

「自分も取材です。この村で何が出来るか? 今の時代にこの村をフィットさせるにはどうしたらいいか。そういうことを考えるには会議室で考えるより、現地にいって考えた方が具体的なアイデアも出てくるんじゃないかと思って」

山下は廃校の教室に残っている椅子に座った。

「それに、こういう終わったところ。案外好きなんですよね。昔は賑わっていたところを自分の手で復活させる。なんかファイトが沸くっていうか、やりがいを感じるんですよね。俺が再興させてやるって」

「……」友雪は恐れを知らない若者を見た気がした。

自分にもそんなときがあったと……。

「今井さんならこの廃校をドラマスタジオとして誘致しようとするんでしょうね」

「どうかなぁ」

「俺、こないだ今井さんに何か失礼なこと言いませんでした?」

「いや、別に」

「いえ、おそらく、失礼なこと言ったと思います。でもそれは別に今井さんが嫌いとかではないんです。夢というものが自分は嫌いなんです。叶えられもしない夢を叶えられると信じて疑わない人が俺は嫌いなんです」

「……」

「俺はそういう人をよく知っているんです。そいつのせいで生活は貧しく、そいつに振り回される生活。家族は苦労していましたよ。だから俺は叶いもしない夢を追う人間に対して異常なまでの拒絶反応が出るんです」

「……」

「俺の名前。山下夢二っていうんです。なんか有名な画家の名前に似てません? 親父が画家でしてね。もっとも絵なんて全く売れませんが。そんな親父が竹久夢二が好きで俺に夢二ってつけたんですよ。なんか笑っちゃうでしょ」

「……」

「親父は酔うと決まって画家で食ってる仲間の文句を言うんですよ。どうしてあいつの絵が評価されて俺の絵が評価されないんだってね。もう立ち悪いっすよ。そんなこといっても売れないんだから。結果、誰の目にも止まらないだけなのにその事実を決して認めない。自分の才能を信じて疑わない。ただの現実逃避ですよ。酔って管巻く始末。ほんと立ちが悪い」

「……」友雪は身につまされる思いがした。

「だから、俺、十代、二十代ならともかく、物事の分別が付く大人が自分の夢が叶うと信じて追っている人を見ると、なんかムカつくんですよね。夢見る前に現実見ろって。現実も見えず自己分析も出来ない奴に何が叶うっていうのか。誰にも迷惑をかけず一人でやってるなら兎も角、家族や周囲に迷惑かけてる奴をみるとほんと腹が立つ。人に迷惑をかけてることさえも見えてない奴に何が見えるか、何が叶うか!」

「……」友雪は自分が言われているように思えた。

「まぁ、夢ってほとんどの人間が叶わない。それは俺も分かっています。でも夢を否定すると決まって夢を追う人は夢を持たない人間をしょうもないとか、つまらない人間扱いしてくるでしょう。そして、さも夢があることを賛美し、夢を熱く語る。どうせ、叶いもしないくせに。そういう夢を熱く語る奴を見ると俺は無性にムカついてくるんですよね。ただ自分の好き勝手生きてるだけなくせに。社会人として半人前以下なくせにね」

「……」友雪は黙って聞くことしか出来なかった。

自分はその山下が嫌う側の人間……。

「でもそれが分かっているから、俺は熱くはならないんですけど。言いたい奴には言わせとけって。関わるつもりは全くない。けど、どうも酒が入るとタガが外れて夢を追う人を罵りたくなる。あの晩は飲まされてしまって記憶が全くないんです。今井さんに絡んだりしてなければいいんですけど」

「絡んでないよ。だから、気にしないで」

「そうですか。ならいいんですけど」

「……」

「それじゃぁ、シナリオ頑張ってください」」

山下は教室から出ていった。

友雪は山下を気遣い嘘をついた。

あの晩、山下はシナリオライターになるため実家に帰ってきていると聞いていた友雪に悪態付いた。

それに対して友雪は何も言わなかったが、奈美が山下にぶちぎれた。

「友ちゃんを悪く言う人。私、好かんわ!」

友雪は奈美に守られた。

「あの人、夢二なんていう名前なのに随分夢のないこと言うのね」

奈美が友雪の帰りを見送るときに呟いた。

友雪は廃墟の教室で改めて客観的視点で自分をみた。


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