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〈14〉愛する気持ち

 友雪も婚活クルーズを終え、竜司に迎えに来てもらった。

比都瑠村に戻る車中で竜司に質問攻めを受けたが友雪は嫌ではなかった。

それもこれも綾香という美しい女性とカップルになることが出来たからだ。

そして、シャングリラに着くと今度は奈美から「どうだった?」と同じ質問を受けた。

 友雪は竜司に答えたように「行ってよかった」と言った。

「じゃぁ、彼女出来たの?」

「彼女というか親しくしてくれる女性は出来た」

「良かったじゃない!」

「まぁ」友雪は照れた。

「美人?」

「めっちゃ美人」

「ほんとに」

「婚活クルーズできっと俺が一番良い想いしたんじゃないかな」友雪は微笑んだ。

「何それ! あんなに乗り気じゃなかったのに。上手くやったじゃん!」

「奈美さんのおかけです。行かないで後悔するより行って後悔するって」

「そうでしょう。そういうものなのよ。これはもしかして天啓かも」

「天啓?」

「そう。これを契機に新しい人生へ踏み出せっていうお告げ。どう、この際、シナリオライターを目指すのを辞めて新しい人生に踏み出したら」

友雪は奈美の一言を聞き、今まで綻んでいた笑顔が消えた。

「いや、辞めない」

奈美はいらぬことを言ったと悟った。

「俺、ドラマは墓場まで持っていくつもりだから。面白いドラマを書くのが俺の人生の全てだから。ドラマは辞めない」

友雪の婚活クルーズ成功の祝福ムードが一気に消えた。

しばし沈黙が過った。

竜司が場を和まそうと手を一叩きしてから切り出した。

「まぁ、これも吉兆だよ。シナリオだってこれを機に上手くいくようになるかもしれない」

「そうね」

「そうだよ。物事はいい方向に捉えなくちゃ。ポジティブシンキングっていうだろ。ネガティブに考えたって良いことなんて何もないんだから。何事もポジティブポジティブ。そうだよな、友雪」

「そうですね」

「次のシナリオコンクールは来年だろ。出すんだろ」

「はい」

「なら、その出会ったべっぴんさんとデートして、テンション上げて面白いドラマを書けばいいじゃないか。彼女がいるとモチベーションも上がるだろう?」

「上がると思います」

「なら良かったじゃないか。ほんと何もかもこれからだよ。これからバンバン気合入れて前のめりになってやっていけばいいんだよ。ドラマも恋愛も両手に花だ。攻めろ攻めろ」

「そうですね。今、これから積極的にいかなくちゃいけないんですね」

「そうだよ。物事って不思議なもので一つのことが上手くいくと、それが呼び水となって次から次へと上手く転がっていくもんなんだよ。とんとん拍子ってやつよ」

「なるほど。そうですね」

「そうだよ。でも、まずは彼女からだな。べっぴんなんだろ?」

「はい。めちゃくちゃべっぴんさんです。大番狂わせって言われましたから」

「なら彼女が先だ。ほっておいたら他の男にとられる。シナリオは来年だろ」

「はい」

「なら、彼女が先だ。押して押して押しまくれ!」

「わかりました」友雪は微笑みながら答えた。

友雪はドラマのことを考えるのを辞めた。

竜司の言う通りシナリオは来年。綾香との関係が上手くいけばドラマも自ずと良いものが書けると思えた。

友雪は午前中は純子の畑仕事を手伝い、午後は積極的に外に出た。それは綾香とラインをするために何かいいネタはないかと比都瑠村を散策していた。

しかし、その姿は友雪がシナリオコンクールに落選するととる行動と同じで純子は一刻、不安を抱いたが畑仕事を手伝ってくれる友雪の表情は明るかったので不安は消えていった。

純子は友雪が友達に会いにいくといって家を出て元気になって帰ってきたと思った。

純子にとっては友雪が元気になってくれさえすればなんでも良かった。


友雪は比都瑠村を散策するも過疎化が進む田舎の風景しかなかった。何かテンションが上がる景気の良い被写体はないかと探しているうちに野鳥や美しい蝶に目を向けるようになった。

落選ショックで放心状態で比都瑠村を歩き回っていたときには見えていなかった景色。それは友雪にとって新しい発見だった。

友雪は比都瑠村の廃れ行く姿ではなく自然の美しさに目を向けスマホで写真を撮っては綾香に送信した。時には田畑を荒らすイノシシやテンを撮り「自然動物園」と題してユーモアのつもりで送信した。

友雪は久しぶりに人を愛する気持ちが芽生えたような気がした。

ただ親しくしてくださいと言っただけなのに人は生きていくのに人を愛するっていう気持ちがどれほど人の心を温かくしてくれるか。心がときめき、心の息吹を感じた。

愛が心をリフレッシュしてくれる。

心を生き返らせてくれる。

「愛って凄いな」

友雪は綾香が自分を受け入れてくれたことに感謝した。

しかし、友雪が送ったラインは既読されるも返信は一度もなかった。友雪は段々それが寂しくなった。

「俺が送り過ぎなのかな?」

友雪は自分があまり面倒くさい奴と思われるのは嫌だったので週二回の送信にし、それも気に入った写真が手に入ったときだけ送信することにした。

 そんな日々が一か月続いた。


〈白ヤギさんからお手紙着いた。黒ヤギさんたら読まずに食べた〉


 さすがに友雪も綾香から何か一言、欲しくて写真とともに自分の心境と来年の応募作に向けてのドラマの方向性や企画も二言三言、書いて送った。

しかし、綾香からの返答は一向になかった。

 友雪は結構、我慢したと思っていたが、やはり返信がないのは寂しい。

返信がないと綾香との関係を前に進みたくても進むことが出来ない。

綾香との未来への妄想は膨らむも現実は一歩も前に進んでない。

友雪は綾香からの返答がどうしても欲しかった。

 友雪はあえて尋ねる形で送信した。

「仕事は忙しいですか?」

それでも既読はされるも返信は来なかった。

 友雪は焦った。

 この文言で返信が来ないとどうにも送信することが出来なくなる、と。

 すると数日たってから「ごめん。今、仕事に忙殺されてます」と返ってきた。

 仕事が忙しくて既読しかできない。

友雪は納得がいった。

「そっか。そうだよな。仕事をしていない俺とは違うんだ。俺は母の畑仕事の手伝いだけで、あとは自由なんだから」

 友雪は、どこか安堵した。これでまた綾香さんに写真が送れる、このスマホで繋がりが持てると。

「せめて、都会で仕事に忙殺されている早乙女さんの癒しになるような写真を撮ろう。今は彼女との関係を良好にすることが大切なんだ。そうすればきっと全てが上手く行く。そして俺が賞をとったら彼女を女優として呼び戻す。勿論、彼女が主演女優だ。そしたら今までの納得いかない負けも精算出来る。俺の人生が初めて好転するんだ」

 友雪は俄然やる気が出てきた。

「でも、焦りは禁物。彼女の邪魔にならないように。急いては事を仕損じる。ゆっくりでいい。ゆっくり育んでいけばいい」

 友雪は日に日に綾香へ思いが強くなった。

綾香からのメッセージは友雪の心にときめきを与え、気持ちを奮い立たせた。

友雪は仕事に忙殺されている綾香への癒しになるような被写体を探した。

比都瑠村の大自然や満天の星が輝く夜空。天の川。

いつもそこにある景色を改めて眺めると思わず感動してしまう景色が身近にあることに気づいた。

「近すぎるとかえって気にも留めないのかもしれない。早乙女さんもきっと癒されるんじゃないかな」

その想いが伝わったのか綾香の方から友雪にメッセージが送信された。

「今、少し落ち着いたので、よかったら会いませんか?」

たった一文だったが、その一文で友雪の心は舞い上がった。

会えないわけがない。

会えない時間も会えない理由も何もない。

会えるときを心底待っていた。

「こちらはいつでも大丈夫です」と一文添えて送信した。

書きたいことは沢山あった。

しかし、書きたいことは会って話せばいいと舞い上がる気持ちを抑え、あえて一文にした。

友雪と綾香は週末の土曜日に会うことになった。



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