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第35話『新居からの初登校』

 5月8日、月曜日。

 ゴールデンウィークが明けて、今日から学校生活が再開する。

 個人的にゴールデンウィークのような長い連休や長期休暇が明けると、新しい生活が始まる感覚がある。ただ、今日はこの新居に引っ越してから初めて登校するので、いつもよりもその感覚がかなり強い。

 今日は朝からよく晴れており、天気が崩れる心配はないという。新居から学校に通ういいスタートが切れそうな気がした。


「よし、これでOKっと」


 勉強机に置いてある鏡で、髪のはねや服装の乱れがないことを確認した。

 荷物の忘れ物がないことも確認し、俺はスクールバッグを持って自分の部屋を出る。

 リビングに行き、キッチンに置いてある自分の弁当包みと水筒をバッグに入れる。これで、今日のお昼ご飯も大丈夫だな。


「和真君」


 扉の方から優奈の声が聞こえたので、そちらを向くと……そこにはスクールバッグを持った制服姿の優奈がいた。俺と目が合うと、優奈はニコッと笑う。


「和真君は準備できましたか?」

「ああ。弁当と水筒を入れたから準備完了だ」

「そうですか。私もあとはお弁当と水筒をバッグに入れるだけです」


 そう言うと、優奈はキッチンに来て、自分のスクールバッグに弁当包みと水筒を入れた。その様子を見ると、これまでお昼がお弁当だった日の朝はこうしていたのかなと思わせてくれる。


「これでOKですね」

「優奈も準備完了だな」

「はい。……和真君と住み始めて数日経ちますが、この家の中で和真君の制服姿を見るのは初めてですね。ですから、和真君と一緒に住んでいるのだと実感します」

「その気持ち……分かるな。それに、今は登校前だし。弁当や水筒をバッグに入れる姿も、一緒に住んでいるからこそ見られるんだよな」

「そうですねっ」


 優奈は楽しそうに言う。

 今でこそ新鮮に感じるけど、昼休みにお弁当を食べる日の朝はこういう光景を見るのが日常になるのだろう。


「さあ、行きましょうか」

「そうだな」


 俺達は玄関に行き、ローファーを履く。


「いってきます」

「いってきます。こうして同じタイミングで『いってきます』って言うのも、一緒に住んでいるからこそですね」

「そうだな。……せっかくだから、声を揃えて言ってみるか」

「いいですね! では、言いますよ。せーの」

『いってきます』


 優奈が合図してくれたおかげで、見事に声が重なった。そのことが何だか嬉しい。俺と同じ気持ちなのか、優奈は可愛い笑みを浮かべていた。もしかしたら、これから学校に行くときは声を揃えて『いってきます』と言うのが恒例になるかもしれない。

 俺達は自宅を出て、学校に向かって出発する。もちろん、手を繋いで。

 マンションを出ると、高野駅北口周辺の光景が見える。

 今は午前8時過ぎなので、通勤通学をする人達の姿が多く見受けられる。その中には、駅から出てくるうちの高校の制服姿の人が何人もいて。


「これまでも駅の北口の風景を見て登校してきましたが、新居から和真君と一緒に登校していますので、とても新鮮に感じます」

「そうか。俺も凄く新鮮に感じるよ」


 俺の場合は、これまで登校するときに駅前に行くことが全然なかったのもあるけど。


「ただ、優奈がこれまで登校したときに見てきたって思うと、凄くいいなって思えるよ」

「ふふっ、そうですか。嬉しいです」


 そう言うと、優奈は言葉通りの嬉しそうな笑顔を向けてくる。また、それと同時に俺の手を握る力が強くなった気がした。

 駅前を通り過ぎ、高校へと向かう道を歩く。


「高校最後のゴールデンウィークはとても楽しかったです」

「楽しかったな。引っ越して、優奈と一緒に住み始めて、2人で18歳の誕生日を祝って、琴宿にデートしに行って。あと、俺はバイトにも行ったか」

「盛りだくさんでしたよね。日用品を買いに行ったり、萌音ちゃんや千尋ちゃん達が遊びに来てくれたり」

「振り返ると、本当に盛りだくさんだったゴールデンウィークだったな」


 他にも、下着姿の優奈のお願いでゴキブリを退治したり、雷が怖い優奈と一緒に寝たりもしたし。それを含めても、盛りだくさんで思い出深いゴールデンウィークになった。

 もし、優奈と結婚していなかったら、バイトしたり、家で友達や姉さんと一緒にアニメを観るのを楽しんだりするくらいだったと思う。それでもきっと楽しかっただろうけど、実際に過ごしたゴールデンウィークよりは楽しくなかっただろう。


「あと、おじいちゃんの言う通り、連休初日に引っ越しをして良かったですね。作業した後は疲れがありましたし。あと、5日過ごして、新居での生活にも慣れてきましたから」

「そうだな。初日に引っ越したのもあって、疲れもなく連休明けを迎えられたし」


 もし、引っ越したのが一昨日や昨日だったら、疲れが残っていて、学校に行くのが億劫になっていたかもしれない。


「今日からまた、学校生活を一緒に送りましょうね」

「ああ。優奈もいるから、五月病にならずに済みそうだ。今まで罹ったことないけど」

「ふふっ。和真君がいますから、私も罹らずに済みそうです。私も経験ありませんが」


 そう言うと、優奈はニコッと笑いかけてくれる。そのことにキュンとなった。教室に優奈がいるから、五月病にかかることはおろか、むしろ楽しく過ごせそうだ。

 あと、水曜日は優奈と井上さんが所属するスイーツ研究部の活動にお邪魔するし、今週末あたりには結婚指輪が完成する予定だ。そういえば、指輪を買ったときにも、この時期に指輪が完成するから五月病には罹らずに済みそうだと思ったっけ。

 優奈と話していたから、気付けば高校の校門が見えるところまで来ていた。それもあり、周りにはうちの高校の生徒がたくさん歩いている。俺達のようにジャケットまで着ている生徒もいれば、ワイシャツやブラウス姿、学校指定の黒いベストやカーティガン姿の生徒もいる。ジャケットを着ずに過ごしてもOKな5月らしい風景だ。

 また、優奈と結婚してから3回目の登校であり、5連休を挟んだのもあってか、連休前に比べるとこちらを見てくる生徒は少ない。

 校門を入り、俺達は3年2組の教室がある第1教室棟に入る。2人で一緒にいるからか、俺達に話しかけてくる生徒はいなかった。

 昇降口でローファーから上履きに履き替え、階段で教室がある6階まで上がる。新年度になった直後は疲れたけど、1ヶ月経つと慣れてきて疲れはあまり感じなかった。

 6階に到着し、俺達は後方の扉から教室に入る。


「おっ、長瀬と有栖川が来たな。おはよう」


 と、西山がいつもの爽やかな笑顔で最初に俺達に挨拶してくれた。それに続いて、


「優奈に長瀬君。おはよう」

「おはよう! 一緒に登校していい感じだね!」


 井上さんと佐伯さんも笑顔で挨拶してくれた。一緒に登校していい感じだと佐伯さんが言ってくれて嬉しい。

 俺達と特に仲のいい友人達が挨拶したのもあり、友達中心にクラスメイトの何人かが俺達に「おはよう!」と挨拶してくれた。俺達も彼らに対して朝の挨拶をした。

 荷物を自分の席に置くのもあり、手を離して優奈と別れた。俺は一人で自分の席に向かった。


「おはよう、西山」

「おはよう、長瀬。有栖川と一緒に新居での夫婦生活は慣れてきたか?」

「ああ。連休初日に引っ越したから、段々慣れてきたよ。優奈と一緒に楽しく過ごせてる」

「そうか。それなら良かった」


 西山は明るい笑顔でそう言ってくれる。


「西山は連休中は部活の合宿だったんだよな。昨日は友達と遊んでいたそうだけど」

「ああ。学校と合宿所でサッカー三昧だった。友達とも遊べたし、楽しい5連休になったぜ!」


 白い歯を見せながら、西山は楽しそうに笑う。部活や合宿がとても楽しかったことが窺える。きっと、そのときは今のような笑顔に何度もなったんだろうな。


「それは良かった」

「おう!」

「昨日は井上さんと佐伯さん達がうちに遊びに来ていたんだ。だから、西山にも連絡したんだ」

「そうか。昨日は誘ってくれてありがとな」

「いえいえ。西山もうちに来ていいからな」


 優奈との家だけど、西山なら歓迎だ。


「ありがとう。ただ、有栖川の家でもあるから、いわば聖域だ。今はまだ行く勇気が出ねえ……」


 西山は緊張しい様子になる。

 まあ、俺の自宅は2年以上ファンである優奈の住まいでもある。優奈のプライベートな空間を聖域と称し、行く勇気がまだ出ない西山の気持ちも分かるかな。今行ったら、西山は緊張しっぱなしでゆっくりできないかもしれない。


「まあ、行く勇気が出たら俺に声を掛けてくれ。何かの機会に誘うことがあるかもしれないけど」

「分かった。ただ、いずれは行かせてもらうよ」

「ああ」


 西山がうちに来たらどういった反応をするのか楽しみだな。そのときを楽しみにしておこう。

 その後、優奈と井上さん、佐伯さんが俺達のところに来て、ゴールデンウィーク中のことや俺達の新居のことについて楽しく語り合った。

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