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中編『しゃっくり出ちゃいました。』

 優奈の作ってくれた美味しい夕ご飯を食べ終わり、俺は夕ご飯の後片付けをする。夏の今の時期だと水が気持ちいいので、後片付けも楽しく思える。

 ちなみに、優奈はソファーに座って、アイスコーヒーを飲みながらテレビを観ている。動物バラエティ番組の猫特集を観ており、優奈はたまに「可愛い……」と呟いている。そんな優奈が俺は可愛いなって思う。

 優奈に癒やされながら、俺は後片付けをしていった。


「夕ご飯の後片付け終わったよ」


 そう言い、俺はソファーに座る優奈の隣に腰を下ろす。


「ありがとうございます。お疲れ様でした、和真君。アイスコーヒーを淹れておきました」

「ありがとう、優奈。……いただきます」


 俺は目の前にある自分のマグカップを手に取り、アイスコーヒーを飲む。夕ご飯の後片付けとはいえ、体が少し熱くなっているのでゴクゴクと。


「……うん、美味しい」

「良かったですっ」


 優奈は笑顔でそう言うと、自分のアイスコーヒーを飲む。結構ゴクゴクと飲んでいるな。美味しそうに飲んでいて可愛いなぁと思いながら見ていると――。


「けほっ! けほっ!」


 コーヒーを飲んでいる優奈が急にむせたのだ。


「大丈夫か、優奈」


 そう言い、今もむせている優奈の背中を優しくさする。これで少しでも落ち着くといいけれど。

 さすってから少しして、優奈がむせることはなくなった。ただ、むせたのもあって、優奈の息が荒くなっている。ちょっと苦しそうで。なので、引き続きさすることに。


「はあっ……はあっ……和真君が背中をさすってくれるおかげでちょっと落ち着いてきました」

「それは良かった」

「……和真君がゴクゴクと美味しそうにコーヒーを飲んでいましたから……私もコーヒーをゴクゴクと飲みたくなりまして。それで、いざ飲んだら気管の方にコーヒーが行きまして。それでむせちゃいました」

「なるほど、そういうことだったのか。飲み物を飲むと、気管の方に行くことってあるよな」


 そういったとき、俺も今の優奈のように結構むせってしまうことがある。むせるのが収まっても息苦しいときもあって。だから、優奈が苦しそうにしているのも分かる。

 その後も優奈の背中をさすり続ける。


「和真君。だいぶ落ち着きました。なので、背中をさするのを終わりにしても……ひっ」


 優奈が甲高い声を出したと同時に、優奈の体がピクリと震える。いったいどうしたんだろうか。そう思っていると、


「ひっ」


 と、優奈の甲高い声が聞こえ、もう一度体が震えた。


「しゃっくり出ちゃいました。きっと、むせたことが原因でしょうね」


 優奈は苦笑しながらそう言った。そして、「ひっ」としゃっくりが。優奈には悪いけど、「ひっ」っていう声が可愛いし、ピクッと体が震える姿も可愛い。

 さっき、優奈は結構むせていたし、それが原因で横隔膜が痙攣したんだろうな。


「結構むせていたもんな。……しゃっくりが出たとき、俺は少しの間息を止めるよ。だいたい15秒くらいかな。そうすると、しゃっくりが止まることが多いんだ。優奈はどうだ?」

「私も何度も……ひっ、その方法で止めたことあります。定番の方法ですね。さっそくやってみます」

「ああ」


 優奈は俺のことを見ながら真顔になる。体も微動だにしない。息を止めている最中なのだろう。定番であるこの方法で止まるといいんだけど――。

 ――ピクッ。

 優奈の体が小刻みに震えた。口を閉じているので声は出なかったけど、おそらくしゃっくりだろう。

 体が震えた直後、優奈は口を開いて「ぷはあっ」と息を吐いた。


「しゃっくり出ちゃいました……」


 か細い声でそう言い、優奈は「はあっ」と小さくため息をついた。やはり、さっきの震えはしゃっくりだったか。何度も止めたことがある方法を実践しても止められなかったのだから、ため息をつきたくなるよな。


「そうか。出ちゃったか。……優奈は他にどんな方法でしゃっくりを止めたことがある?」

「そうですね……ひっ。誰かと一緒にいるときにしゃっくりが出たときは、くすぐられてたくさん笑って、ひっ、止めたことがありますね」

「くすぐりか。……俺も実家にいた頃、真央姉さんの前でしゃっくりが出ると、姉さんにくすぐられて止めたことがあったな」


 楽しそうに俺のことをくすぐっていた真央姉さんを思い出すよ。


「ふふっ、そうだったんですね。じゃあ……ひっ、私のことをくすぐってほしいです。しゃっくりを止めてほしいのはもちろんですが、和真君にくすぐられたい気持ちもあります」


 そう言ってはにかむ優奈。

 俺にくすぐられたい……か。くすぐるのもスキンシップではあるし、俺にくすぐられたい気持ちがあるのかも。


「分かった。くすぐるよ」

「ありがとうございます」

「くすぐるなら……弱い部分をくすぐった方が効果が出やすそうだけど、どうだ?」

「それがいい、ひっ、ですね。腋や首筋が弱いのでそのあたりをお願いします」

「分かった」


 腋や首筋が弱いのか。まあ、夜の営みをしているときにそのあたりに触れると、優奈は可愛い声を漏らしたり、体を震わせたりするので、弱いポイントかなとは思っていた。

 今、優奈はノースリーブのブラウスを着ている。なので、両腕を上げて俺に腋を見せてくる。今日も優奈の腋は綺麗だ。

 俺は優奈の腋に手を触れて、くすぐり始める。その瞬間に体がピクッと震わせて、


「うふふっ!」


 と、優奈は大きな声で笑い始めた。


「く、くすぐったい……ひっ、です! あははっ!」

「滅茶苦茶笑ってるな! これなら効果ありそうだな!」

「はいっ! ひっ! あと、何だか気持ちいいですっ……!」


 優奈は頬をほんのりと赤く染めながらそう言ってくる。優奈の腋に触れているのもあって、今の優奈を見ているとドキッとして。

 それからも、優奈の腋をくすぐっていく。

 優奈は大きな声で笑い続けて。最初こそは笑いながらしゃっくりが出ていたけど、段々としゃっくりをする頻度が減っていく。

 また、首筋も弱いと言っていたので、片手で腋をくすぐりながら、もう片方の手で首筋をくすぐることも。不意打ちなのもあってか、優奈は体を激しく震わせて「ひゃあっ!」と甲高い声を漏らして。それが凄く可愛くて。

 優奈のしゃっくりが出なくなったところで、俺はくすぐるのを止めた。


「しゃっくり、止まったよ」

「はあっ……はあっ……そうですか。大きな声でたくさん笑いました……」


 息を荒くしながらそう言うと、優奈は俺に向かって倒れ込んできて、俺の顔に顔を当ててきた。たくさん笑ったから疲れたのだろう。

 俺は優奈の背中に両手を回して、右手で優奈の背中をポンポンと優しく叩く。


「しゃっくり……止めてくれてありがとうございました」


 優奈はお礼を言うと、顔を上げて俺に笑いかけてくれた。


「いえいえ。しゃっくりを止められて良かったよ」

「あと……和真君に腋と首筋をくすぐられるの……くすぐったかったですけど、気持ち良かったです」

「気持ちいいって言っていたもんな。良かったよ。あと、くすぐられて大きな声で笑う優奈が可愛かった。首筋をくすぐったときの反応は特に」

「突然触られたのでビックリしちゃって。でも、可愛いと思ってもらえて良かったです。……今後も、今のようにお家で和真君と一緒にいるときにしゃっくりが出たら和真君にくすぐってもらいましょう」

「そのときは喜んでくすぐるよ」

「はいっ。あと、お家で和真君がしゃっくりが出たら私がくすぐって止めますね。真央さんにくすぐられて止まったことがあるとのことですし」

「そのときが来たらお願いするよ」

「はいっ!」


 優奈はニッコリとした笑顔で、元気良く返事した。


「和真君。しゃっくりを止めたお礼にキスしていいですか?」

「もちろんさ」

「ありがとうございますっ」


 優奈は嬉しそうな様子で俺にキスしてきた。

 優奈はさっきコーヒーを飲んでいたので、優奈からコーヒーの香りがしてきて。こういうことはこれまでに何度もあるけど、優奈のしゃっくりを止めたお礼のキスなのでいつも以上にいいなって思えた。

 数秒ほどして優奈から唇を離すと、目の前にはキスする前と変わらず優奈の嬉しそうな笑顔があった。

 その後は現在も放送している動物バラエティ番組の猫特集や、昨日の深夜に放送されたものを録画した優奈も俺も好きなアニメを観てゆっくりと過ごすのであった。

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