前編『私の胸を堪能しますか?』
特別編5
7月8日、土曜日。
今日、俺・長瀬和真は午前10時から午後6時まで、マスタードーナッツという全国チェーンのドーナッツ屋さんでバイトをする。
ちなみに、明日も同じ時間でバイトのシフトに入っている。昨日まで1学期の期末試験があり、1週間以上バイトのシフトに入らなかったからだ。バイトを始めた1年生の頃から、試験が明けた直後の週末は2日連続で長時間のシフトに入るのを恒例にしている。
カウンターでの接客を中心に仕事をしていく。
梅雨の時期らしく今日も朝からずっと雨が降り続いているけど、晴れや曇りの日と変わらずお客様の数は多い。土曜日だし、マスタードーナッツは人気のあるお店だからかな。あとは、雨が降っていて蒸し暑いから、涼しい店内でゆっくりしたい目的のお客様もいるかも。たくさんのお客様に接客しているのもあり、時間の進みが早く感じられる。
接客以外にも、店内の掃除をしたり、ゴミ箱が満杯近くになったので外のゴミステーションに出したり、休憩に入るためにカウンターを離れたら、そのタイミングで仕入れた材料が届いたのでキッチンや倉庫に運ぶのを手伝ったりもして。ゴミ出しや材料を運ぶのは毎回のバイトでやるわけではないので、今日はいつも以上に盛りだくさんな仕事内容だ。
今日は夕ご飯に、妻の優奈が、俺のリクエストしたハンバーグを作ってくれることになっている。それを楽しみに8時間のバイトを頑張ろう。
「お先に失礼します。お疲れ様でした」
午後6時過ぎ。
シフト通りにバイトが終わって、俺は従業員用の出入口からお店を出た。
夏至を過ぎて陽の出ている時間は短くなり始めたけど、この時期だと今の時刻でも空はまだ明るい。
今も雨がシトシトと降っており、ジメッとした蒸し暑さだ。まさに梅雨らしい気候だと思いつつ、傘を差して帰路に就く。
「今日は結構疲れたな……」
いつもよりもバイトの疲れを感じている。
何回か休憩を挟んだとはいえ、8時間という長時間のシフト。仕入れた材料を運ぶ力仕事。あとは昨日まで期末試験があったのも影響しているかも。明日も今日と同じ時間でシフトに入る予定だから、今日はゆっくりとした時間を過ごそう。
歩き始めて数分ほどで、優奈との自宅があるマンションのエントランスに辿り着いた。疲れもあるし、ジメッと蒸し暑くて雨も降っているから、バイト先が近くて良かったなって思う。
エレベーターで10階まで上がり、自宅である1001号室の玄関を開ける。
「ただいま」
そう言って、土間で靴を脱いで家に上がったタイミングで、優奈の部屋の扉が開いた。部屋の中からはロングスカートにノースリーブのブラウス姿の優奈が出てきて、
「おかえりなさい、和真君!」
優奈はニッコリとした笑顔でそう言ってくれた。そのことでバイトの疲れがちょっと取れた気がする。あと、笑顔の優奈は本当に可愛いな。
「ただいま、優奈」
「今日は長時間のバイトお疲れ様でした」
優奈はそう言いながら、俺の方に向かって歩いてくる。長時間だったし疲れがあるので、いつも以上に優奈からの労いの言葉が響く。
「ありがとう」
お礼を言って、優奈が俺の目の前まで来たところで、俺は優奈にキスをした。バイトから帰ってきたとき、こうしておかえりのキスをするのが恒例になっている。
優奈の唇は柔らかくて、ほんのりと冷たさを感じる。優奈の甘い匂いと一緒に紅茶の香りがするから、アイスティーを飲んでいたのかな。蒸し暑い中帰ってきたので、優奈の唇の冷たさが心地良く感じられる。キスできる嬉しさも相まって、バイトの疲れが少し和らいだ気がする。
数秒ほどして俺から唇を離す。すると、目の前には、ニコッとした優奈の可愛い笑顔があった。
「優奈とキスすると、家に帰ってきたって実感するし安心できるよ」
「ふふっ、そうですか」
そう言い、優奈は俺のことをじっと見つめてくる。
「どうした、優奈」
「……何だか、今日の和真君はいつもよりも疲れているように見えまして」
「そういうことか」
疲れが顔にはっきりと出ていたのだろうか。何にせよ、いつもよりも疲れているのを言い当てるとは。優奈は凄いな。
「今日はいつもよりも疲れを感じているよ。8時間のバイトだったし、あとは仕入れた材料を運ぶ力仕事もしたし」
「そうだったんですね」
「ああ。帰ってきて、優奈とキスしたらちょっと疲れが取れたけどな」
「そうですか。嬉しいです」
ふふっ、と声に出して笑う優奈。優奈の嬉しそうな笑顔にも癒やされるよ。
「あの、和真君」
「うん、なんだ?」
「私の胸を堪能しますか?」
優奈は持ち前の柔らかい笑顔でそんなことを言ってきた。
「胸……ですか」
予想もしないことを言われたので、思わず敬語になってしまった。そんな俺の反応が面白かったのか、優奈は「うふふっ」と楽しそうに笑う。
「そうです。胸です」
「……なぜに胸なのですか」
「和真君は私の胸が好きですからね。それに、私とキスをしたら疲れが少し取れたと言っていました。なので、顔を埋めたり、触ったりするなどして胸を堪能したら疲れが取れるのではないかと思ったんです」
「なるほど、そういうことか。優奈の胸は大好きだし、柔らかくて気持ちがいいもんな。確かに疲れが取れそうだ」
とても素晴らしいアイデアだと思う。
あと、胸の話が出たので、優奈の胸に視線が動く。……ブラウスを着ているけど、Gカップの大きな胸が存在感を放っている。
「どうでしょう? 私の胸を堪能しますか?」
「堪能させてください」
即答した。それもあってか、優奈は「ふふっ」と声に出して笑った。
「了解です。服越しがいいですか? それとも、直接がいいですか?」
「そうだな……直接がいいな」
「分かりました。……私の部屋に行きましょうか。エアコンをかけていて涼しいですから」
「ああ、分かった」
俺は優奈と一緒に優奈の部屋へ向かう。
エアコンがかかっているので、部屋の中は結構涼しい。蒸し暑い中歩いて帰ってきたのもあって、とても快適だ。それに優奈の甘い匂いもほんのりと感じられるし。
ローテーブルにはアイスティーが入っているマグカップと少女漫画が置かれている。今まで、アイスティーを飲みながらあの漫画を読んでいたのかな。
優奈はブラウスを脱いで、ブラジャーを外す。服を脱ぐ姿も、そのことで上半身裸になった姿もとても魅力的でそそられる。
「これでOKですね」
「ああ。……胸を堪能しやすいように、優奈はベッドに座ってくれないか」
「はいっ」
優奈は俺の指示通り、ベッドに腰を下ろした。
俺は優奈のすぐ近くで、優奈と向かい合う形で膝立ちをする。そのことで俺の目の前に優奈の胸が。大きくて形もとても良くて本当に素敵だ。思わず生唾を飲んでしまう。
「じゃあ……失礼します」
「はいっ、どうぞ」
そう言うと、優奈は笑顔で両手を広げてくれる。
俺は優奈のことをそっと抱きしめて、吸い込まれるような形で優奈の胸に顔を埋めた。そのことで、額から鼻の近くまで優奈の胸の感触が。
あぁ……柔らかくて、温かくてとても気持ちがいい。呼吸をする度に優奈の甘い匂いがはっきりと感じられて。凄く心地良くて、まるで天国のようだ。バイトの疲れが取れていくのが分かる。あと、優奈の胸が大好きだなって改めて思うよ。
「どうですか? 私の胸は」
「……凄くいいよ。柔らかくて、温かくて、いい匂いがして。疲れが取れていくよ」
「ふふっ、良かったです。提案してみて正解でした」
「提案してくれてありがとう。あと、優奈の胸が大好きだって改めて分かった」
「嬉しいです」
優奈がそう言うと、頭と背中に何かが触れる感覚が。きっと、俺のことを抱きしめて頭を撫でてくれているのだろう。
「改めて……今日のバイトお疲れ様でした」
「……ありがとう、優奈。……俺は幸せ者だよ。ありがとう」
家に帰ってきたら大好きなお嫁さんの優奈が出迎えてくれて、おかえりのキスができて、大好きな胸に顔を埋めることができるんだから。
それからも顔を埋めたり、触ったりするなどして、優奈の胸を堪能した。優奈の大きくて柔らかい胸がとてもいいし、たまに優奈が「あっ」とか「んっ」といった可愛い反応をしてくれたのもあり、バイトの疲れがだいぶ取れた。
「優奈。胸を堪能させてくれてありがとう。凄く良かったよ。おかげでバイトの疲れもだいぶ取れた」
「いえいえ! 元気になって良かったです!」
優奈はニコニコとした笑顔でそう言ってくれた。
「あと、私も和真君に胸を堪能してもらうの……凄く良かったです。気持ち良かったですから」
「ははっ、そっか。まあ、優奈は何度も可愛い声を漏らしていたもんな」
「ふふっ」
「これからも、結構疲れたときは優奈の胸を堪能しようかな」
「もちろんいいですよ! 堪能したくなったら遠慮なく言ってくださいね」
「ああ。ありがとう、優奈」
俺は優奈にお礼のキスをした。さっき、玄関の前でおかえりのキスをしたときとは違って、優奈の唇はほんのりと温かくなっていた。
少しして俺から唇を離すと、目の前には優奈の優しい笑顔があった。
「では、そろそろ夕ご飯のハンバーグを作りましょうかね。タネはもうできていて、あとは焼くだけです」
「おぉ、楽しみだなぁ」
ハンバーグは大好物だからな。それに、これまでに優奈の作ったハンバーグを食べたことがあるけど、とても美味しいし。
それから15分ほどして夕ご飯が完成し、優奈と一緒に夕ご飯を食べる。
今日も優奈のお手製ハンバーグはとても美味しい。ハンバーグをリクエストして良かった。もちろん完食した。ごちそうさまでした。
新しい特別編がスタートしました! 既に完成しており、全4話でお送りします。
1日1話ずつ公開していく予定です。よろしくお願いします。