第9話『七夕祭り②-お祭りデート・前編-』
その後も焼きそばや綿菓子、ラムネなど屋台の定番の食べ物や飲み物を楽しんでいく。どれも美味しいし、食べ物については優奈と一口ずつ食べさせ合っているのでとても満足できている。優奈に食べさせてもらうのは特に美味しいから。
人気のあるお祭りなので、会場を廻っていると高校はもちろん、中学まで一緒だった友達と会うことも。試験勉強や受験勉強の気分転換や部活帰りに来たのだそうだ。個人的に、こういう場所で友達と会えるのっていいなって思う。
また、中学まで一緒だった友達に優奈と結婚したことを伝えると、驚く奴もいたけど、みんな「おめでとう!」と言ってくれて。優奈や陽葵ちゃんなどの友達からも言ってもらえることがあって。それがとても嬉しかった。優奈も嬉しそうにしていたし。
屋台を数軒ほど廻ったとき、
「そろそろ、優奈と長瀬はデートタイムにする?」
と、佐伯さんが俺達にそう言ってくれた。
「みなさんといくつか屋台を廻りましたし、このあたりでデートタイムにするのに賛成です。和真君はどうですか?」
「俺も賛成だ」
「そうですかっ」
優奈はニコッと笑う。
優奈と俺が賛成したのもあり、井上さんや真央姉さん達も俺達がデートで一旦抜けることに賛成した。
「じゃあ、優奈と長瀬はデートタイムね。今は午後7時10分だから……午後8時に短冊コーナーの近くで待ち合わせをするのはどう?」
「賛成です」
「俺もそれで賛成だ」
元々1時間くらいデートをする話になっていたので、デートの時間が50分なのは問題ない。
優奈と俺が賛成なら、と井上さんや真央姉さんも賛成してくれた。
「じゃあ、午後8時に待ち合わせってことで。2人とも楽しんでね!」
「デート楽しんできなさいね」
「楽しんでこいよ!」
「お姉ちゃん、和真さん、デート楽しんでください!」
「カズ君、優奈ちゃん、デート楽しんできてね!」
佐伯さん達は笑顔でそう言ってくれた。本当に優しい人達だ。優奈と俺がお祭り中にデートできることになったのは、井上さんの発案をきっかけに5人で話し合ったからだし。デートの時間を作ってくれた5人のためにもデートを楽しみたい。
「みんなありがとう。優奈とのお祭りデートを楽しむよ」
「ありがとうございます。和真君とのデートを楽しんできますね」
佐伯さん達にそう言い、優奈と俺は2人きりになる。こうしてお祭りデートの時間が始まった。
「デート始まりましたね! 楽しみましょう!」
「ああ、楽しもうな!」
「はいっ。……和真君はどこか行きたい屋台はありますか?」
「そうだな……かき氷はどうだろう? かき氷は好きだし、お祭りだと食べることが多いから。冷たいものを食べたい気分なのもある」
「かき氷いいですね! 私も好きですし、食べることが多いです」
優奈はニコッとした笑顔でそう言ってくれる。それがとても嬉しい。
「そうか。じゃあ、かき氷の屋台に行こうか」
「はいっ。……腕を組んでいいですか? みんなと一緒にいたときは手を繋いでいましたから、腕を組んだらデート気分になれるかなと思いまして。和真君とくっつきたいのもありますが……」
くっつきたいことまで言ったからか、優奈の笑顔は頬を中心にほんのりと赤くなる。腕を組みたいとお願いしたのもあってとても可愛く思える。
「もちろんいいぞ」
「ありがとう!」
優奈はとても嬉しそうにお礼を言うと、俺の左腕を組んできた。そのことで浴衣越しに優奈の温もりや柔らかさを感じられて。一部分は特に。きっと胸だろうな。
かき氷の屋台を探しながら、俺達は会場の中を歩いていく。
会場に来たときにも思ったけど、小さい頃から毎年来ているこの七夕祭りに大好きなお嫁さんと一緒に来る日が来るとは。しかも、デートもして。去年、このお祭りに来たときには想像もしなかった。あのときの俺に、今の状況を伝えても信じてもらえなさそうだ。
「まさか、和真君という旦那さんと一緒に七夕祭りに来て、こうしてデートする日が来るなんて。去年来たときには想像もしませんでした。きっと、あのときの教えても信じてもらえないと思います」
「俺も同じことを思ったよ。去年のお祭りの時点で優奈のことはもちろん知っていたから……友達とか、せいぜい恋人なら信じてもらえそうだけど。お嫁さんだからな……」
「ふふっ、ですね。……ただ、結婚のきっかけがおじいちゃんだと言えば信じるかもしれません」
「……それは言えてるかもしれない。当時から優奈が有栖川グループ会長の孫なのは知っているから。これから何かが起こるのかなって考えそう」
「私もそうなりそうですね」
ふふっ、と優奈は上品な雰囲気で笑った。そんな優奈につられて、俺も「ははっ」と声に出して笑う。
「あと、お祭りデートはこれが初めてです。和真君はどうですか?」
「俺もお祭りデートは初めてだよ」
「そうですかっ。こういうことでも和真君の初めてになれて嬉しいです」
「俺も嬉しいよ。お互いにとって初めてのお祭りデートを楽しもう」
「はいっ」
優奈はニッコリと笑って返事してくれた。
その後はさっきまでみんなと一緒に廻ったときのことを中心に話しながら、かき氷の屋台を探していく。そして、
「おっ、あった。あそこだ」
そう言い、俺は近くにあるかき氷の屋台を指さす。
かき氷の屋台には長めの列ができていて。お祭りの屋台の定番だし、冷たいものだから食べたい人が多いのだろう。
「ありましたね。さっそく並びましょうか」
「ああ」
俺達はかき氷の屋台の列に並ぶ。1列なので、優奈、俺の順番で。
屋台を見ると、いちご、メロン、レモン、ブルーハワイ、抹茶、コーラなど様々な種類のメニューが屋台に貼られている。ちなみに、1つ400円だ。あと、『氷』と赤い筆文字で書かれた吊り下げ旗が吊るされていて。個人的にはあの吊り下げ旗を見ると夏って感じがする。
「どのかき氷にしましょう。好きな味が多いので迷います……」
「そうか。優奈らしいな。可愛い」
優奈は好きなものがいくつもあると、何を選ぶか迷うことが多い。俺がバイトしているドーナッツ屋さんでは何のドーナッツを買うか迷うことが何回もあるし、以前のデートではアイス屋さんで何のアイスを買うか迷うことがあった。そういったときの優奈はとても可愛いのだ。
可愛いと言われたからか、優奈はちょっと照れくさそうに笑う。
「和真君は何にするか決めましたか?」
「俺は……メロンにしようかな。あのメニューの中だと、メロンが一番好きだし」
「メロンですか。いいですよね。私も好きです。……では、私は……いちごにしましょう。いちごが一番好きなので」
「いちごもいいよな。俺も好きだ」
「そうですか! もしよければ、後で一口交換しませんか?」
「ああ、もちろんいいよ」
「ありがとうございますっ」
優奈は結構嬉しそうにお礼を言った。好きなかき氷を2種類食べられるからかな。
それから数分ほどで俺達の順番になり、優奈はいちご、俺はメロンのかき氷を購入した。
かき氷の屋台の近くに大きめの休憩スペースがある。そこにはベンチがいくつか設けられており、空いているベンチがあったのでそこに座った。
「初めてのお祭りデートですし、かき氷を買えましたから、写真撮りませんか?」
「おっ、いいな。撮ろう」
「ありがとうございます!」
優奈のスマホでかき氷と一緒にツーショット写真を撮る。優奈との距離が近いし、かき氷も写っているのでお祭りデートらしい写真と言えよう。この写真はLIMEで俺のスマホに送ってもらった。
「では、食べましょうか」
「そうだな。いただきます」
「いただきますっ」
俺達はかき氷を食べ始める。
スプーンでメロン味のかき氷を掬い、口の中に入れる。
口に入れた瞬間、かき氷の冷たさが口の中に広がっていく。この冷たさがたまらない。その後にメロンシロップの甘味と風味が感じられる。
「冷たくて美味いなぁ」
「いちご味のかき氷甘くて美味しいです! とても冷たいのもいいですよね」
「そうだな。さっそく、かき氷の屋台に行きたいって言ってみて良かったって思ってるよ」
「そうですか。和真君、言ってくださってありがとうございます」
「いえいえ」
その後も優奈と一緒にかき氷を食べていく。
甘くて美味しいからスプーンがどんどん進む。……しかし。
「あっ!」
急に頭がキーンときた! かき氷をパクパク食べたからだろうな。個人的に、この頭の痛みを感じると、かき氷食ってるなって感じがする。
「頭がキーンときた」
「かき氷のあるあるですね。……あっ、私もきました」
優奈は顔をしかめる。んんっ、と声を漏らしていて。それもあって、今の優奈も可愛く見える。
俺はかき氷の容器を額に当てる。そのことで、キーンとなっている痛みが和らいできた。容器の冷たさが刺激になったり、頭の血管が冷やされたりして痛みが抑えられるのだ。
優奈の方を見ると……優奈も額に容器を当てている。優奈もこの対処法を知っているのかな。痛みが和らいできたのか、優奈の表情が柔らかくなる。
それから少しして、痛みが治まったので容器を額から話した。
「あぁ……痛みが治まりました」
優奈はそう言い、容器を額から離した。
「俺も治まった。優奈も額に容器を当てて痛みを和らげるっていう対処法を知っているのか?」
「はい。小学校の高学年のときに友達から教えてもらいました」
「そうだったんだ。俺は小学校の2、3年生くらいのときに、真央姉さんと一緒にネットで調べてこの対処法を知ったよ。それからは頭がキーンってなったら毎回実践してる。……あと、初めてこの対処法を実践したときは、姉さんと一緒に凄く感動したのを覚えてるよ」
「痛みが和らぎますもんね。私も初めて実践したときは『凄い方法だ』って嬉しい気持ちになりました」
そう言う優奈の顔にはいつもの可愛らしい笑みが浮かんでいた。さっきはしかめっ面になっていたから、優奈の笑顔を見られて安心する。
「話は変わりますが、和真君。舌の色が緑に変わっているのでは? 何口も食べていますし」
「変わってそうだ。……ろうら?」
優奈に向けて舌を出しながら、「どうだ?」と問いかける。舌を出しているので上手く言えなかったけど。それが面白いのか、優奈は「ふふっ」と笑う。
「しっかりと緑色になってますね。舌を出しているのが可愛いですし、スマホで撮ってもいいですか?」
優奈のお願いに、俺は首を縦に振った。
ありがとうございます、とお礼を言って優奈は舌を出している俺をスマホで撮影した。
「撮りました。ありがとうございます」
「いえいえ。……優奈の舌を見たいな。色がどうなっているか興味ある」
「分かりました」
優奈は舌を出して、
「ひた、ろうなっへまふか?」
と言う。おそらく、「舌、どうなってますか?」と訊いているのだろう。
優奈の舌は……一部分が綺麗に赤くなっている。いちご味のシロップによるものだろう。舌はピンクだから、あまり変化がないかもって思っていたけど、こうして見てみるとはっきりと赤くなっているのが分かる。
あと……舌を出す優奈が可愛くて、艶っぽさも感じられるのでちょっとドキッとする。
「赤くなってるよ」
「ろうれすか」
「うん。俺も舌を出している優奈を撮らせてくれ」
そうお願いすると、優奈は目を細めて頷いてくれた。
ありがとう、とお礼を言い、俺は舌を出している優奈をスマホで撮影した。
「いい写真が撮れた。ありがとう。……せっかくだし、舌を出してツーショット写真を撮るか? 2人とも舌の色が変わっているから。もちろん送るよ」
俺がそんな提案をすると、優奈は2回頷いた。
俺も舌を出して、優奈と一緒にツーショット写真を撮る。舌を出す優奈が可愛いのもあっていい写真を撮れたなと思う。ツーショット写真はLIMEで優奈に送った。
「ありがとう、優奈」
「いえいえ。送ってくれてありがとうございます。……そろそろ一口交換しますか?」
「ああ、そうしよう」
「ありがとうございますっ。では、私からしますね」
優奈はスプーンでいちご味のかき氷を掬い、俺の口元まで持ってくる。
「はい、和真君。あ~ん」
「あーん」
優奈にいちご味のかき氷を食べさせてもらう。
いちご味も甘くて美味しいな。まあ、フルーツ系やブルーハワイのシロップは同じ味で、香りや色で違う味だと脳を錯覚させているそうだけど。それを知っていても、優奈がくれたいちご味はメロン味とは違うと感じるし、どっちもいいなって思える。
「いちご味も美味しいな」
「美味しいですよねっ」
「ああ。ありがとう。……じゃあ、今度は俺のメロン味を優奈に」
俺はスプーンでメロン味のかき氷を掬い、優奈の口元まで運ぶ。
「はい、優奈。あーん」
「あ~ん」
優奈にメロン味のかき氷を食べさせる。
食べさせた瞬間、優奈は「ん~っ」と可愛らしい声を漏らす。ニコニコとした笑顔なのもあって凄く可愛い。
「メロン味も美味しいですね! ありがとうございます!」
優奈はニコッと笑ってお礼を言った。
「いえいえ。メロン味も美味しいよな」
自分が買ったものを美味しく食べてもらえて嬉しいよ。
それからは、今日の七夕祭りや去年までに行った七夕祭りの話をしながら、優奈と一緒にかき氷を楽しんだ。