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第5話『プリン』

「お待たせしました。終わりました。入ってきていいですよ」


 西山と雑談していると、井上さんの部屋から優奈が出てきてそう言ってきた。西山と話すのが楽しかったから、優奈に呼ばれるまであっという間だったな。


「ああ。お疲れ、優奈」

「お疲れさん、有栖川」

「ありがとうございます」


 俺と西山は井上さんの部屋に戻る。

 ベッドには先ほどとは違って淡い桃色の寝間着姿の井上さんがいる。汗を拭いてもらって、着替えもしたからかスッキリとした様子だ。あと、優奈と佐伯さんの胸を堪能したからか、部屋を出る前と比べて肌のツヤが良くなっているような。

 また、井上さんの近くには、さっきまで井上さんが着ていた寝間着と少しふんわりと膨らんだバスタオルを持った佐伯さんがいる。


「佐伯さんもお疲れ」

「お疲れさん、佐伯」

「ありがとう。あたし、汗拭きで使ったタオルと、萌音がさっきまで着てた下着や寝間着を洗面所に持っていくよ」

「ありがとう、千尋。よろしくね」

「うん」


 佐伯さんは井上さんの部屋を後にした。

 佐伯さんが持っていたタオルが膨らんでいたけど、きっと着替える前まで着ていた下着を包んでいたんだろう。男である俺や西山に見られないために。


「井上さん、優奈と佐伯さんに汗拭きや着替えをしてもらったり、2人の胸を堪能したりして気分はどう? スッキリしているように見えるけど」

「見えるよな。部屋を出て行く前よりも顔色も良くなってるし」

「親友2人が汗拭きとお着替えをしてくれたからとってもスッキリしたわ。それに、素晴らしい胸を堪能させてもらえたから幸せだし、元気になったわ!」


 井上さんはニッコリとした可愛い笑顔でそう言ってくれる。西山と話していたのもあって、部屋の中の会話は全然分からないけど、「おっぱい最高だったわ!」っていう井上さんの声は聞こえてきたからな。井上さんがそう言うのも納得だ。

 あと、胸を堪能させてもらえたから元気になれるのは井上さんらしい。井上さんに一番効く薬は女性の胸なんじゃないだろうか。


「それは良かった」

「良かったぜ」

「とてもいい時間だったわ」

「ふふっ、良かったです」


 それから、佐伯さんが戻ってくるまでは4人で今日の学校のことで雑談した。

 2、3分ほどして佐伯さんが戻ってきた。


「ただいま。タオルと服を洗面所に運んだよ。あと、雛子さんと会ったから、萌音の熱が36度台まで下がったって伝えておいた。ほっとしてたよ」

「そうなのね。ありがとう、千尋」


 雛子さんと話していたのか。

 あと、今朝は井上さんの熱が38度近くあったそうだし、36度台まで下がったと分かったら雛子さんもほっとするよな。


「いえいえ。……他に何かしてほしいことはある?」

「……プリンを食べさせてもらおうかしら。汗拭きとお着替えは女子2人にやってもらったから、今度は男子2人してもらおうかなって思ってる。優奈、旦那の長瀬君にもお願いするけどいいかしら?」

「かまいませんよ。それに、萌音ちゃんは和真君のお見舞いのときにみかんゼリーを食べさせていましたからね」


 優奈はいつもの優しい笑顔で快諾した。


「ありがとう、優奈」

「じゃあ、俺達で食べさせようか。西山」

「そうだな」

「ありがとう、長瀬君、西山君」


 井上さんは可愛らしい笑顔でお礼を言った。


「2人でやるから半分ずつ食べさせるか」

「それがいいな」

「ああ。じゃあ、俺から食べさせるよ。井上さん、いいかな?」

「ええ、いいわよ。お願いするわ」


 ローテーブルに置いてあるレジ袋から、プリンとプラスチックのスプーンを取り出す。プリンの蓋を剥がして、スプーンを包装された袋から取り出した。

 プリンとスプーンを持って、ベッドの上で座っている井上さんの近くまで行き、膝立ちする。

 スプーンでプリンを一口分掬い、井上さんの口元までもっていく。


「はい、井上さん。あーん」

「あ~ん」


 井上さんにプリンを食べさせる。

 プリンが大好物だからだろうか。食べさせた瞬間、井上さんはとっても幸せそうな笑顔になる。「ん~っ」と可愛い声を漏らして。可愛いな。


「甘くてとっても美味しいわ!」


 井上さんは満面の笑顔でそう言ってくれる。美味しそうに食べてくれて凄く嬉しい。


「良かった」

「ええ。冷たいのもまたいいわ。まだ普段よりは熱があるし」

「熱が出たときは冷たいものを食べるといいよな。この前、俺が風邪を引いて、井上さんがみかんゼリーを食べさせてくれたときに思ったよ」

「確かに、あのとき『冷たいのもいい』って言っていたわね」


 井上さんは穏やかな笑顔で言う。


「長瀬君。あ~ん」


 プリンを食べたいからか、井上さんは口を開けて催促してくる。可愛いな。

 俺はスプーンでプリンを掬って、井上さんに食べさせる。

 井上さんは小柄で顔つきも幼い雰囲気だから可愛らしい女性だけど、こうして食べさせているからいつも以上に可愛く感じる。小動物のような可愛らしさもあって。


「美味しい」

「ふふっ。和真君に食べさせてもらったり、催促したりする萌音ちゃん可愛いですね」

「可愛いよね、優奈。美味しそうに食べている笑顔も」

「2人の言う通りだぜ」

「可愛いよな。俺の場合は食べさせているから、そのことで感じる可愛さもある」

「……みんなから可愛い可愛いって言われるとちょっと照れるわね」


 ほんのりと頬を赤くしてはにかむ井上さん。そんな井上さんもまた可愛らしい。

 それからも、プリンが半分ほどになるまでは俺が井上さんに食べさせていった。プリンを食べる井上さんの笑顔に癒やされながら。


「……残り半分になったな。じゃあ、残りは西山に任せる」

「おう」

「ありがとう、長瀬君。美味しく食べられたわ」

「いえいえ」


 俺は西山にプリンとスプーンを渡して、優奈のすぐ近くまで移動した。

 西山は先ほどの俺のように、ベッドの近くで膝立ちをする。プリンをスプーンで掬い、井上さんの口元まで持っていく。


「はい、井上」

「あ~ん」


 井上さんは西山にプリンを食べさせてもらう。俺のときから引き続き、プリンが口に入ると井上さんは可愛い笑顔を見せて。


「……美味しい」

「おう。……あと、さっき長瀬が言っていたことが分かったぞ。食べさせると、それでまた可愛く感じるな。美味そうに食うからかな」

「共感してもらえて嬉しいよ」


 俺がそう言うと、西山は「ははっ」と声に出して明るく笑った。


「西山君。食べさせて。あ~ん」

「はいよ」


 その後、西山が残りのプリンを全て井上さんに食べさせた。プリンが美味しいからか、井上さんは最後の一口も笑顔で食べていた。


「よし、これで完食だな」

「うん。ごちそうさまでした! 美味しかったわ。長瀬君、西山君、食べさせてくれてありがとう」

「いえいえ」

「美味そうに食ってくれて良かったぜ」

「そうだな。あと、完食できるほどに食欲があって良かったよ」


 風邪を引いて、特に熱が出ると食欲が落ちやすいし。

 そういえば、俺のお見舞いで井上さんがみかんゼリーを食べさせてくれたとき、井上さんは「完食できるほどに食欲が戻って良かった」って言っていたな。


「萌音、他に何かしてほしいことはある?」

「ううん、特にないわ」

「分かった。……じゃあ、あたし達はそろそろ帰るね。うちで試験勉強をする予定だし」

「そっか。みんな勉強頑張って。今日はお見舞いに来てくれてありがとう。みんなのおかげで元気出たわ。明日学校に行けるように、この後もゆっくりする」

「うん、分かった。じゃあ、またね、萌音。できればまた明日」

「またです、萌音ちゃん」

「井上さん、またな」

「またな、井上」

「ええ。またね」


 井上さんはニコッといつもの可愛い笑顔で挨拶してくれた。この様子なら、明日は学校で会えそうだ。そう思いたい。

 井上さんの部屋を後にし、リビングにいる雛子さんに挨拶して、井上さんの家を後にした。

 井上さんの家から10分近く歩いたところにある佐伯さんの家にお邪魔して、4人で試験対策の勉強会をするのであった。

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