第2話『萌音がいない学校』
週が明けて、再び学校生活が始まる。
また、火曜日は期末試験の1日目の1週間前になる。そのため、校則によりこの日から部活動が禁止になった。それによって、俺達の通う私立常盤学院大学付属高等学校は試験ムードに。
中間試験のときのように、部活動禁止になったこの日から、俺と優奈は井上さん、佐伯さん、西山と一緒に試験対策の勉強をしていく。
俺は優奈と一緒に、井上さんと佐伯さんと西山の分からないところを教えるのが主な役目だ。誰かに教えるのは勉強の理解が深まっていい。
また、俺が分からないところを優奈に訊くことも。そのときは優奈はとても嬉しそうに教えてくれて。可愛いお嫁さんだ。優奈の教え方はとても分かりやすいので、分からないところはしっかりと解決できている。
中間試験では3年生の文系クラスで7位になった。期末でもこの順位をキープしたいと思っている。少なくとも、成績上位者一覧に載れる15位までにはなりたい。目標を達成できるように、優奈達と一緒に勉強を頑張ろう。
あと、七夕祭りに行くと決まってから、開催日である7月1日の天気を毎日確認している。確認し始めた頃から、1日の天気は曇り予報が続いている。
笠ヶ谷の七夕祭りの会場はアーケードのある大きな商店街だ。なので、雨天でも開催される予定だ。ただ、雨が降らないに越したことはない。当日は雨が降らないことを祈ろう。
6月28日、木曜日。
今日は朝食作りとお弁当作りの当番ではないので、少しゆっくりと起きた。
優奈と一緒に平日のいつもの朝の時間を過ごした。優奈が作ってくれた洋風の朝ご飯はとても美味しかったので、今日も学校を頑張れそうだ。
朝ご飯を食べ終わり、キッチンで後片付けをしているときだった。
「和真君」
スマホを持った優奈がキッチンにやってきた。朝ご飯のときはたくさん見せていた笑みが顔から消えており、心配そうな様子になっている。何かあったのだろうか。一旦、片付けを止める。
「どうした、優奈」
「萌音ちゃんから、風邪を引いたので学校を休むとメッセージが来まして」
そう言い、優奈はスマホの画面を見せてくる。
画面には俺、優奈、井上さん、佐伯さん、西山の5人がメンバーであるグループトークのトーク画面が表示されており、
『風邪を引いたわ。だから、今日は学校を休むわ』
という井上さんのメッセージが表示されていた。
「井上さん、風邪で学校を休むのか。昨日は元気そうだったのにな」
「ですよね……」
と、優奈は心配そうに言う。親友の井上さんが学校を休むほどに体調を崩したのだから、心配になるのは仕方ない。
昨日、井上さんは学校に来ていたし、放課後も一緒に試験対策の勉強会をした。学校はもちろん、勉強会のときも元気そうにしていた。昨日の井上さんを思い返していると、
『分かったよ。お大事に。ゆっくり休んでね。じゃあ、今日は一人で学校に行くね。あと、放課後になったらお見舞いに行くよ』
という佐伯さんのメッセージが表示された。
「佐伯さんからメッセージが来たよ。放課後はお見舞いに行くってさ」
「……そうですね。私達も行きませんか? 萌音ちゃんが欠席するのを伝えるのはもちろんですが、お見舞いについて相談したくてここに来たんです」
「そうだったのか。放課後はバイトもないし、俺達も行こう」
「はいっ。では、萌音ちゃんにその旨のメッセージを送っておきますね」
優奈は微笑みながらそう言い、キッチンを後にした。
井上さんは、今月に俺が体調を崩したときにお見舞いに来てくれて、俺にみかんゼリーを食べさせてくれたっけ。俺もお見舞いに行ったら、井上さんに何かしたいな。
途中だった朝ご飯の後片付けを終わらせて、俺は自分の部屋に戻る。
俺からもメッセージを送っておくか。そう思い、スマホを手に取り、LIMEの5人のグループトークを開くと、先ほどの井上さんと佐伯さんのメッセージの後に、
『分かりました。ゆっくり休んでください。お大事に、萌音ちゃん。和真君と私も放課後にお見舞いに行きますね』
という優奈のメッセージと、
『お大事に、井上。ゆっくり休めよ。俺も放課後に長瀬達と一緒にお見舞いに行くよ』
という西山のメッセージが表示されていた。西山もお見舞いに行くのか。じゃあ、今日の放課後は4人で井上さんのお見舞いだな。
『優奈から聞いたよ。井上さん、お大事に。ゆっくり休んで。優奈達と一緒にお見舞いに行くよ』
と、メッセージを送った。
俺がメッセージを送ってから程なくして、
『みんなありがとう。ゆっくり休むわ。放課後に会えるのを楽しみにしてる』
と、井上さんからメッセージが送られた。放課後に会うときは、少しでも元気になっているといいな。
その後、学校に行く準備を済ませて、優奈と一緒に登校する。
優奈は出発する直前はそこまで元気そうではなかったけど、いってきますのキスをして、雨が降っているから相合い傘をしたのもあってか、学校に到着したときは普段と同じような元気さになっていた。
第1教室棟に入り、3年2組の教室に行くと……教室後方の窓の近くで、佐伯さんと西山は談笑していた。いつもは井上さんとも一緒に3人で談笑していたり、井上さんが佐伯さんの胸を堪能していたりするので、今日は井上さんが欠席しているのだと実感させられる。
「おっ、長瀬と有栖川が来たな。おはよう」
「2人ともおはよう!」
西山は爽やかな笑顔で、佐伯さんは元気な笑顔で朝の挨拶をしてくれる。
「おはよう、西山、佐伯さん」
「おはようございます、千尋ちゃん、西山君」
俺と優奈は西山と佐伯さんに朝の挨拶をして、自分の席に荷物を置きに行く。ちなみに、俺の席は窓側の最後尾で、優奈の席は俺の右隣だ。
俺と優奈は自分の席に荷物を置いて、西山と佐伯さんのところへ。
「ここに井上がいないのは変な感じがするな」
「いつもいるもんな。それに、井上さんが欠席するのは初めてだし」
「3年生になってからは初めて休みますからね。お二人がそう言うのも分かります。萌音ちゃんがいないのは寂しいですね」
「あたしも寂しいよぉ」
そう言うと、佐伯さんはちょっと寂しそうな様子で優奈のことを横から抱きしめる。抱きしめられるのがいいのか、優奈は佐伯さんに優しく微笑みかけている。
今の会話だけでも、井上さんが俺達4人にとって大きな存在なのだと実感する。
「萌音の風邪、あまり酷くないといいな。萌音、あたし達と一緒に明後日の七夕祭りに行くのを楽しみにしてるし」
「そうですね」
今日は木曜日だ。風邪の症状次第では、井上さんは明後日の七夕祭りに行けなくなる可能性もある。佐伯さんの言う通り、あまり酷くなければいいな。
「みんなメッセージで書いていたけど、放課後になったら4人で萌音のお見舞いに行こうね! 途中で萌音が大好きなプリンを買ってさ。萌音にお腹は悪くなっていないかって訊いたら『大丈夫』って言ってたから」
「そうですか。では、プリンを買いましょう! 萌音ちゃん、これまでもお見舞いでプリンを持っていくと喜んでいたんです。食べさせるともっと喜んで。あとは果実系のゼリーも好きですよね」
「好きだね」
井上さんはプリンや果実系のゼリーが好物か。スイーツ研究部の副部長だけのことはあるな。
「体調を崩したとき、好きなものを食えると嬉しいし元気になれるよな」
「西山の言うこと分かるなぁ。俺もこの前風邪を引いたとき、優奈と井上さんが買ってきてくれたみかんゼリーを食べられて嬉しかったし」
「私もです。先月、体調を崩したとき、和真君と萌音ちゃんが買ってきてくれた桃のゼリーやりんごのゼリーを食べて嬉しかったです。美味しいので元気になれましたね」
そのときのことを思い出しているのか、優奈は嬉しそうな笑顔になった。
優奈が風邪を引いたとき、井上さんが「優奈は果実系のゼリーだと特に喜ぶ」と教えてくれたおかげで、帰る途中で桃のゼリーとりんごのゼリーを買ったんだよな。桃のゼリーを優奈に食べさせたとき、優奈が美味しそうに食べていたのを覚えている。
プリンや果実系のゼリー買っていって、井上さんの喜ぶ姿を見られたら何よりだ。
それからも、この場にいない井上さんのことを中心に話しながら、朝の時間を過ごしていった。
やがて、朝礼の時間を知らせるチャイムが鳴り、それと同時に担任の渡辺夏実先生が来たので、俺達はそれぞれ自分の席に着く。
朝礼のときに、渡辺先生から井上さんが体調不良で欠席することが伝えられた。
朝礼が終わって、今日も学校生活が始まる。
井上さんの席は優奈の右斜め前だ。なので、俺の席からでも、板書をノートに写すときに空席になっている井上さんの席が視界に入ることが何度もあって。今日はいつもと違う時間を過ごしているのだと実感させられた。