第1話『マッサージしてくれるお嫁さん』
6月25日、日曜日。
今日は正午から午後6時まで、マスタードーナッツというドーナッツ屋さんで接客のバイトをした。
昨日は優奈と一緒にプールデートを楽しんだし、今日もバイトに行くときに優奈がキスしてくれたおかげもあって、6時間のバイトを難なくこなすことができた。
「……よし、これで終わりっと」
優奈が作ってくれた美味しい夕ご飯を食べた後、俺は後片付けをした。
バイトしたのもあってか、片付けが終わると少し疲れを感じて。なので、体を伸ばすと、
「いたたっ」
両肩に痛みを感じた。右手で左肩を触ってみると……凝りを感じる。おそらく、今の痛みは肩凝りによる痛みだと思われる。
今日はバイトがあったし、昨日はプールデートをした。デート中は優奈と水をかけ合ったり、25mプールで泳いだりして体を動かしたから、そういったことで肩に疲れが溜まっているのかもしれない。
優奈に肩のマッサージを頼もう。そう考えて、俺はリビングのソファーでスマホを見て、アイスコーヒーを飲みながらゆっくりしている優奈のところへ向かう。
「優奈。夕食の後片付け終わったよ」
「ありがとうございます。お疲れ様でした。食後のアイスコーヒーを淹れておきました」
「ありがとう。あと、優奈……一つお願いしたいことがあるんだけど」
「何でしょう?」
優奈はそう言い、スマホをローテーブルの上に置く。
「肩のマッサージをお願いしてもいいかな。肩が凝っちゃって」
「そうなんですか」
「ああ。今日のバイトと、昨日のプールデートで疲れが溜まったんだと思う。デートでも結構体を動かしたし」
「水をかけ合ったり、クロールを泳いだりしましたもんね。高校は水泳の授業がありませんし。……分かりました。私が和真君の肩をマッサージしますね!」
優奈はとても嬉しそうな笑顔で快諾してくれた。これからマッサージをするからなのか張り切っているようにも見える。
「ありがとう、優奈」
「いえいえ。では、マッサージしやすいように、和真君は食卓の椅子に座ってください」
「分かった」
優奈の指示に従って、俺は食卓の椅子に腰を下ろした。
優奈はソファーから立ち上がり、俺の背後までやってくる。そして、俺の両肩に優奈の手が置かれる。服越しに伝わってくる優奈の手の温もりが気持ちいい。
「では、始めますね」
「お願いします」
俺は優奈に肩をマッサージしてもらい始める。
両肩から痛さと気持ち良さが感じられる。優奈の揉み方や力加減が絶妙なのもあり、痛みはあるけど嫌な感じは全くしない。むしろ、マッサージが効いていると実感できていいくらいだ。
「揉み方や力加減はどうですか?」
「凄くいいよ。痛気持ちいいし。この揉み方でお願いします」
「分かりました!」
優奈は弾んだ声でそう言った。
「和真君の言う通り、肩が凝っていますね。このマッサージでほぐしましょうね」
「ああ」
「……和真君の肩のマッサージをすることができて嬉しいです。これが初めてですし。それに、いつも和真君に肩のマッサージをしてもらっていますから」
「そうか。……確かに、優奈にマッサージしてもらうのはこれが初めてか」
だから、さっき俺が肩のマッサージをお願いしたとき、とても嬉しそうで張り切った様子で快諾してくれたんだな。きっと、俺のすぐ後ろで優奈は嬉しそうな笑顔になっているのだろう。そう思い優奈の方を振り向くと……俺の想像通りの笑顔になっている。
優奈の気持ちを知ったのもあって、マッサージがより気持ち良く感じられるように。
「あぁ……凄く気持ちいいよ。優奈、マッサージ上手だな」
「ありがとうございます」
「実家に住んでいた頃に家族の肩をマッサージしていたのか? 前に、母親の彩さんは肩が凝りやすいって言っていたけど」
「お母さんにマッサージすることが多かったですね。お父さんやおじいちゃんにもすることがありました」
「そうだったのか。たくさんマッサージしてきたから、こんなに気持ち良くできるんだろうな」
「そうかもしれませんね」
ふふっ、と優奈は可愛らしい声で笑う。
きっと、彩さんや父親の英樹さん、おじいさんの総一郎さんは優奈のマッサージの気持ち良さに何度も癒やされたんだろうな。気持ち良さそうにしている3人の姿が頭に思い浮かぶ。
「揉まれる痛みがなくなってきたよ」
「良かったです。だいぶほぐれてきたので、それが痛みの取れた理由でしょう」
「だろうな」
それから程なくして、痛みは特に感じなくなった。揉まれる気持ち良さだけを感じているからとても心地いい。
「和真君。凝りが取れました。どうでしょうか?」
そう言い、優奈は俺の両肩から手を離した。
両肩をゆっくりと回すと……マッサージされる前に感じた痛みはなくなっていた。
「うん。痛みもないし、スッキリしたよ」
そう言い、俺は優奈の方に振り返り、
「優奈、マッサージしてくれてありがとう」
優奈の目を見てお礼を言った。
優奈にマッサージしてもらえて、肩の痛みや凝りが解消されて。本当に嬉しい。これまで、俺が優奈に肩のマッサージをしたとき、優奈はこういう気持ちになっていたのだろうか。
「いえいえ。和真君の肩凝りを解消できて嬉しいです! 初めて和真君にマッサージできて幸せでした」
優奈は幸せそうな笑顔でそう言ってくれた。そのことに、胸に抱いている嬉しい気持ちが膨らんでいく。
俺は椅子から立ち上がって、優奈にお礼のキスをした。アイスコーヒーを飲んでいたからか、優奈からコーヒーの香りが感じられた。
2、3秒ほどして俺から唇を離すと、さっきと変わらず優奈の顔には幸せそうな笑みが。
「お礼のキスだよ、優奈」
「ふふっ。素敵なお礼をいただきました。今後もマッサージしてほしいときにはいつでも言ってくださいね!」
「ああ。ありがとう」
そう言い、優奈の頭を優しく撫でる。それが気持ちいいのか、優奈の笑顔は柔らかいものに変わった。可愛い。
「優奈は肩は大丈夫か? 昨日は一緒にプールでいっぱい遊んだし」
「特に凝りや痛みは感じませんが……ちょっとマッサージしてほしい気分です」
「そうか。よし、マッサージしよう」
「はいっ、お願いします」
優奈はニコッと笑ってそう言うと、さっきまで俺が座っていた椅子に腰を下ろす。
俺は優奈の両肩に手を置いて、いつもの力加減でマッサージを始める。
「あぁ……今日も気持ちいいです」
「良かった。普段頼まれるときほどじゃないけど、ちょっと凝りがあるな」
「そうですか。きっと、プールで遊んだ影響でしょうね」
「だろうな。このマッサージで凝りをほぐそう」
「はいっ」
それからも優奈の肩をマッサージしていく。
マッサージが気持ちいいのか、優奈は時折「あぁ……」とか「んっ」といった可愛い声を漏らして。その声にちょっとドキドキする。
普段ほどの凝りではないので、すぐにほぐすことができた。
「優奈。ほぐれたよ」
そう言って、俺は優奈の両肩から手を離した。
優奈はゆっくりと肩を回す。そして、こちらに振り返り、
「いつもやってもらうときと同じで、肩が軽くなってます。ありがとうございます!」
ニッコリとした笑顔でお礼を言ってくれた。
優奈は椅子から立ち上がって、俺にお礼のキスをする。自分からするキスもいいけど、優奈からされるキスもいいな。
数秒ほどして優奈の方から唇を離す。優奈はニコッと笑いかけた。
「いえいえ。凝りをほぐせて良かった」
「ありがとうございます。……コーヒーを飲みながらアニメを観ましょうか」
「ああ」
その後、寄り添う形でソファーに座り、アイスコーヒーを飲みながら優奈も俺も好きな日常系アニメを観る。
優奈の淹れるアイスコーヒーはいつも美味しい。ただ、今日は優奈に初めて肩のマッサージをしてもらい、優奈にマッサージをした後だからか、いつも以上に美味しく感じられた。




