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まずはお嫁さんからお願いします。  作者: 桜庭かなめ
特別編3

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第11話『水をかけ合って』

 結婚指輪をしまうために、俺は一旦更衣室に戻る。

 荷物の入っているバッグから、結婚指輪を入れるためのケースを取り出し、そこに左手の薬指から外した結婚指輪をしまう。家の外で外すのはバイトの制服に着替えるときくらいなので、何だかちょっと不思議な感じがした。

 指輪を入れたケースをバッグにしまい、ロッカーの扉を閉めた。鍵のベルトを左腕に付けて更衣室を出ると、ほぼ同じタイミングで優奈が女性用の更衣室から出てきた。


「今度は同じタイミングでしたね」

「そうだな。まあ、指輪と、優奈はスマホも戻すだけだもんな」

「ですね。では、行きましょうか」

「ああ」


 俺達は手を繋いで、屋内プールに入る。

 屋内プールに入ってまず視界に入るのは、正面にある青いウォータースライダーのコース。大きいので結構な存在感を放っている。そう思いながらコースを見ると、ゴール地点から浮き輪に乗った男女が姿を現し、プールに落ちたのが見えた。

 また、屋内プールはとても広く、流れるプールを中心に、レジャープール、学校にもあるような25mプール、小さな子供でも入れる浅いプールといった様々な種類のプールがある。流れるプールとレジャープールという大きなプールを中心に、多くの人がプールを楽しんでおり、賑わいを見せている。

 屋内プールの端の方にはサマーベッドがたくさん並べられており、サマーベッドでくつろぐ人が何人もいる。


「3年ぶりに来たけど、変わらず立派なプールだ。賑わっているのを含めて懐かしい光景だな。……って、今日は懐かしいって何度も言ってるな」

「ふふっ、そうですね。懐かしんでいる和真君、いい表情をしてますよ」

「そうか。きっと、そうなっているのは……これまでにスイムブルーで遊んだのが楽しかったからだろうな」

「なるほどです。和真君にとってスイムブルーは楽しい思い出の場所なんですね」

「ああ」


 これまでに一緒に来た家族や友達の笑顔をたくさん思い出すよ。だから、気付けば胸が温かくなっていた。


「今日は私と一緒に楽しんで、スイムブルーでの思い出を一緒に増やしましょうね!」

「そうだな!」


 俺がそう言うと、優奈はニコッと可愛らしい笑顔を見せてくれる。その笑顔を見ると、今日のプールデートでスイムブルーでの楽しい思い出がたくさんできると確信した。


「じゃあ、まずは軽く準備運動をするか。遊ぶといっても、プールで体を動かすんだし」

「怪我とかをしてしまったら、楽しめるものも楽しめなくなってしまいますもんね。準備運動は大切ですよね。プールや海で遊ぶ前は必ずしています」

「そうなんだ。俺もしてるよ。……端の方でするか」

「はいっ」


 他のお客さん達の迷惑にならないよう、屋内プールの端の方に行って、俺達は各自で準備運動を始める。

 俺の準備運動のメニューは体育の授業の前に行なっている準備運動だ。それを優奈に伝えると、優奈も同じとのこと。

 優奈と向かい合って準備運動をしているので、優奈の方を何度も見てしまう。お風呂を出た後にストレッチをする優奈を見るけど、そのときは寝間着姿。今は露出度が高いビキニ姿だから新鮮で。体は綺麗だし、ピンクのビキニに包まれたGカップのたわわな胸が揺れることがしばしばあるのでドキッとする。


「あの端の方でストレッチしてるピンクのビキニの子、凄く可愛いな」

「おさげの女子のことだよな。滅茶苦茶可愛いし、スタイル抜群だな。彼氏っぽいあの茶髪男がいなければ声かけてたわー」


「あのピンクのビキニの女、今日一番だな……」

「だな。でも、青い水着の男が彼氏なんだろうな。いや、若そうだけど旦那だったりして」

「どっちでもいいわ。仲が良さそうなのは変わらんし」


「いいなぁ、あそこにいるピンクのビキニの子。あんなにかっこいい男子と一緒で」

「羨ましいよねぇ。でも、ピンクの子は美人さんで可愛い雰囲気もあるし。しかもスタイルいいし。美男美女カップルだよ」

「そうだよねぇ。お似合いだよねぇ」


 男性中心にそんな話し声が聞こえてくる。水着や髪の特徴からして俺達のことを言っているのだろう。ピンクのビキニの子……優奈のことを言う人が多い。まあ、優奈はとても可愛くて美人だし、スタイルが抜群だし、ピンクのビキニがよく似合っているもんな。自然と注目が集まるのだろう。中間試験明けにカラオケへ行ったときに優奈はナンパされていたから、今日も優奈のことを守らないとな。

 あと、大多数の人は俺達のことを夫婦ではなくカップルだと思っているようだ。結婚指輪も外しているし、俺達の容姿ではカップルと思うのが普通なのかな。高校生だしな。

 夫婦とかカップルとか思われるのが嬉しいのだろうか。優奈はニコニコしながら準備運動していた。


「……よし、これで終わり」

「お疲れ様です。私も終わりました」

「お疲れ様。あと……優奈。俺達のことをカップルだと思う人が多いけど、優奈は魅力的な容姿をしているし、ビキニも似合っているからナンパされるかもしれない。この前、カラオケに行ったときもナンパされていたし。何かあったらすぐに助けるから。デートだから、ずっと一緒にいるけど」


 目の前にいる優奈のことを見ながらそう言った。

 今は露出度のあるビキニ姿だし、優奈はカラオケで一人でいるところをナンパされた経験がある。俺が一緒にいるけど、ナンパされる可能性はゼロではない。だから、優奈に言っておきたかった。


「分かりました。もし、ナンパされてしまったら、カラオケのときみたいに助けてくださいね。頼りにしています」


 優奈はニッコリとした笑顔でそう言い、俺の右腕を抱きしめてきた。笑顔が可愛いし、優奈の胸が当たっているからドキッとする。あと、準備運動をした後だからか、優奈の体から強めの温もりを感じる。


「こうして腕を組めば、カップルでも夫婦でも、仲のいい男性と一緒に遊びに来ているのをアピールできるかと思いまして。助けるって言ってくれた嬉しさもありますが」

「ははっ、そっか」


 優奈の笑顔を守れるように、夫としてしっかりしないとな。


「それに、こうすれば、和真君が私という女性と一緒に来ていることもアピールできると思いまして。和真君、かっこよくて水着姿が素敵ですから、ナンパする方がいるかもしれませんし。準備運動をしているとき、和真君をかっこいいと言う方もいましたし」

「そんな声もあったな。優奈ほどじゃないけど」

「和真君に何かあったときには私が助けますからね」


 優奈は持ち前の優しい笑顔でそう言ってくれる。心強いな。そう思えるのは、今の言葉はもちろん、優奈に腕を抱きしめられ、優奈の温もりや柔らかさを感じているからかもしれない。


「ありがとう、優奈。……じゃあ、準備運動も終わったから遊ぶか! 優奈は何かしたいこととか、このプールに入りたいとかある?」

「そうですね……まずはレジャープールに入って水をかけ合いたいですね。プールや海で遊ぶとき、最初の方に水をかけ合って遊ぶことが多くて」

「そうなんだ。水をかけ合うのも楽しいよな。レジャープールに行くか」

「はいっ」


 俺達はメインのプールの一つであるレジャープールに向かう。もちろん、優奈に腕を抱きしめられたままで。それもあってか、こちらを見ている人はいるけど、話しかけてくる人はいない。

 レジャープールの前まで辿り着いたところで、優奈が俺の腕を離した。

 俺達はレジャープールにゆっくりと入る。

 プールの深さは俺のへそあたり、優奈にとっては胸の下のあたりだ。

 プールの水はちょっと冷たさを感じる。外は蒸し暑かったし、さっき準備運動をして体が温まっていたのでとても気持ちがいい。


「プール、冷たくて気持ちいいですね!」

「気持ちいいよな。癒やされる」

「ですねぇ」


 優奈はまったりとした表情になる。そんな優奈を見ていると俺もまったりとした気分になっていく。さっそく、優奈と一緒にプールデートに来て良かったと思える。


「では、さっそく水をかけましょうか」

「そうだな」


 周りに気をつけながら、俺達は3,4mほど離れていく。こうしてプールの中を歩くだけでも冷たさを感じられて気持ちがいい。


「じゃあ、行きますよー。それっ」


 可愛い掛け声を言うと、優奈は両手でプールの水を掬い上げ、俺に向かってかけてくる。その水は俺の顔にヒット!


「うおっ、冷たっ!」

「ふふっ、当たりましたね」

「顔に当たって気持ちいいぜ。じゃあ、俺からもいくぞ、それっ!」


 俺は優奈に向かってプールの水をかける。

 両手で掬い上げた水は、優奈の顔から上半身にかけてかかった! その瞬間、優奈は「きゃっ」と可愛らしい声を漏らした。


「冷たくて気持ちいいですっ!」


 優奈は濡れた顔に爽やかな笑みを浮かべながらそう言った。本当に可愛いな。プールの水で濡れているのもあり、いつもの笑顔よりも艶っぽく見えて。そのことにドキッとさせられる。


「顔にかかると結構冷たく感じますね」

「そうだな。よし、もっとかけてくぞ」

「私もかけちゃいますよっ」


 俺達はお互いにプールの水をかけ合う。

 水をかけ合うのは家族とも友達ともたくさんやってきたことだ。ただ、今回が一番楽しい。そう思えるのは、相手が大好きなお嫁さんの優奈だからだろう。

 優奈も楽しそうにしており、特に俺に水をかけられたときは楽しそうにしていた。笑顔はもちろん、かけられたときに「きゃっ」とか「冷たいっ」と言うのも可愛くて。


「水をかけ合うってシンプルですけど、凄く楽しいですね! 水も気持ちいいですし」


 何回かかけ合ったとき、優奈は弾んだ声でそう言ってきた。今の言葉が心からのものだと証明するように、優奈は楽しげな笑みを浮かべていて。


「そうだな。優奈が相手だからとても楽しいよ」

「嬉しいですっ。水をかけたいと言ってみて良かったです」

「言ってくれてありがとな」

「いえいえ。まだまだやりましょう」

「ああ」


 それからも、優奈と俺はプールの水をかけ合った。

 優奈に水をかけるのは楽しくて。楽しそうにしている優奈は可愛くて。優奈にかけられる水は冷たいから気持ち良くて。さっそく幸せな気持ちになれた。

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