番外編短編・お正月
秋人の家のリビングは、人を3人もダメにしていた。
正確にはリビングではなく、リビングに置かれたこたつのせいだったが。
こたつに入った秋人、美月、浩は実に抜けた顔をしてテレビを見ていた。
正月特番のドラマで、地味で冴えない女子がイケメン人気ミステリ作家と恋愛関係になるような恋愛ものだった。どうやら少女漫画が原作らしく、無意味な壁ドンシーンがちょくちょく挟まっていた。
ツッコミどころも満載だが、抜け切った3人にとっては、どうでもいい事だった。むしろ先が読める展開で、ダメになった3人の脳には心地よいドラマである。
こたつのテーブルの上には、蜜柑と紅茶が置かれている。正月ぐらいは秋人も休みたいという事で、食事もデリバリーばかりだった。そのためか、余計に秋人の表情も腑抜けている。ニート感増し増しといったところだろう。イケメンキラキラ料理王子の面影は全く無い。
ちなみに抹茶は実家、桜は別荘に出かけているらしい。
「それにしても、桜の家は別荘があるなんて異次元の話よねぇ」
美月は蜜柑を食べながら、呟く。そに表情は、いつになく抜けきっていた。
「美月ちーも行ったらよかったじゃん」
「いやー、庶民の私は気後れするわ……」
確かに秋人が言う通り、桜からも別荘に遊びに来てもいいよーと軽く誘われていたが、気後れして断った。
「あれ、また壁ドンだよ。女の人ってこんなのにときめくの?」
浩は、呆れながらテレビを指差した。
「私はときめかないわね。いくらイケメンでも」
「本当ー? 美月ちーは、ドケチだからな」
それとドケチとどこが関係ある?
秋人に揶揄われたのが、妙にカチンとしてしまった。
「だったら俺が壁ドンやってやろうか?」
「えー? 妙に自信があるわね」
ドヤ顔を見せてくる秋人に、再びイライラとしてきた。
「教会の消えたクリスマスツリーの飾りだって、秋人さんが保管しておく場所をミスったから騒ぎになったんじゃないですか」
なぜかそんな事を思い出すと、秋人のドヤ顔が全く嫌味っぽい。つい先日教会でクリスマスツリーの飾りが消えた騒ぎがあったが、全部秋人の凡ミスのせいだった。逆に謎だとかミステリーとか騒いで、牧師を疲れさせていた。憎めない秋人であるが、迷惑な大人である。
「それを言われると痛いなぁー」
「そうですよ。こんな人の壁ドンなんてときめきません!」
美月がはっきりと言うと、秋人はちょっと傷ついた表情を見せていた。
「ちょ、美月ねぇちゃん。はっきり言い過ぎだよ」
「だって、本当に事じゃなーい」
こうして浩と美月がブーブー騒いだ時だった。
スーパーのCMが流れた。なんと午後から先着で干支の形の最中を配ると言うではないか。インターネットで詳しく調べると、この近所のスーパーでも配布されるらしい。
「ちょ、タダで貰えるなんて! 急がなきゃ! 行くわよ、皆んな!」
タダの情報につられ、こたつから抜け出た美月の表情がすっかり生き返っていた。
「美月ちーは相変わらずだねぇ」
「本当タダのものが好きなんだから」
秋人と浩は、ぼやきながら人をダメにするコタツを出て、甘ったるい恋愛ドラマを流すテレビを切った。




