エピローグ
年が明けた。
今年は母が仕事で忙しく、日本に帰って来れないようだったが、新しい企画が通ったようで、ひとまずホッとしたところだった。
美月は、鈴蘭商店街のお茶屋や倉橋のケーキ屋の福袋を買い込んでいた。特に倉橋のケーキ屋の福袋は、ケーキ交換チケットと焼き菓子入りで実質半額みたいなものだった。
この福袋は、抹茶の入れ知恵の企画らしいが、倉橋のケーキ屋は行列が出来るぐらい賑わっていた。
行列には藤部や丸山もいた。正月早々、妖怪系女子を見てしまったのは、ちょっと背筋がゾクゾクしてきたが、倉橋の店が繁盛しているようで何よりだった。
「美月ねぇちゃん!」
お目当ての福袋を買い込み、ニヤニヤとした顔を隠せなかった美月に、浩と会った。浩だけでなく、秋人や抹茶もいた。3人ともマフラーやコートを着こみ、防寒もバッチリだった。特に浩はモコモコの耳当てをしていて、この姿は子供らしくてちょっと可愛い。
「3人ともどこ行くんですか? 初詣?」
「馬鹿言っちゃいけないよ、美月ちー。これから俺たちは日曜礼拝の為に教会に行くんだよ」
秋人はちょっとドヤ顔で言う。そういえば秋人たちはクリスチャンだった。浩はなぜ一緒にいるかは不明だが、「暇だからついていくー」などと子供らしく笑っていた。
「美月さんは初詣いかないの?」
抹茶に聞かれた。
「行きませんよ。混んでるし、お賽銭箱が怖い!」
相変わらずドケチの美月の様子に、なぜか秋人は大笑いしていた。
あれ?
いつもの通りニートバージョンの秋人だが、この笑顔はなぜか悪くないと思った。
何となく美月も彼らと一緒にいたくなり、教会まで歩く事にした。
「今日は新年はじめの礼拝だから、クッキーをタダで配ってるね」
もっとも秋人にそんな事を言われたのが、一番大きな原因なのだが。美月は、つくづく自分のケチさが嘆かわしいと思った。
「ところで、教会でなぜかクリスマスツリーの飾りが消えたそうだよ。全く誰が盗んだんでしょうね」
皆んなで歩きながら、抹茶からそんな話を聞いた。
思わず秋人と美月は顔を見合わせた。同時に秋人の口元はちょっとニヤけていた。
「これは謎だな! よし、調査をしよう!」
「ちょっと秋人さん、正月早々謎解きですかー?」
美月の呆れ声など無視し、秋人は我慢できない様子で教会へ向かっていた。
「秋人さん、待ってよー」
「そうですよ、浩の言う通りですよ!」
「まあまあ、美月さん。好きにやらせてあげましょう」
それぞれ文句を言いつつ、早歩きで進む秋人の背中を追った。
まだまだ日常に小さな謎が潜んでいるようだ。
別に1円の得にもならないけれど、秋人のそばで謎を解いてみたい。
そう思う美月の表情は、いつになく晴れやかだった。




