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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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料理王子vs自然派ママ(11)

 美月達は、白子の家のリビングにいた。ふかふかなソファに座らされたが、別にリラックスはできない。


 ソファのそばにある飾り棚には、小学生ぐらいの子供の写真が飾ってあった。子供は、数年前に流行った子供向けの妖怪系キャラクターのお面を頭につけていた。今はこのキャラクターにブームはすっかり終えてしまっていて、過去の遺物だ。この子供の写真はかなり前のものだと思わされた。


 てっきり白子は追い返すのだと思ったが、意外と美月達を受け入れてくれた。おそらく秋人一人で行ったら追い返されたと思うが、抹茶や美月もいるので、受け入れなくてはならないような雰囲気になってしまった。特に一見人が良さそうだが、腹黒そうな抹茶を追い返すのは、白子も難しいのだろうと思った。


 ただ、予想通り白子は間違いなく不機嫌そうだった。一応コーヒーを持ってきたが、目の前に座る秋人や美月を睨むように見ていた。


「ところであなた女子高生? 何で、ここにいるの?」


 美月にされた白子の説明は最もだった。美月は馬鹿正直に自己紹介しようとしたが、代わりに抹茶がぺらぺらと説明していた。ここでは美月は秋人の妹で、心配してついてきたという設定になった。確かにその方がいいかもしれない。というか、何となくついて来てしまったが、何で自分はここにいるのかよくわからなくなって来た。ただ、あんなに秋人に事を憎んでいる白子の事も気がかりだった。


「ふうん。女子高生はいいわね」


 白子に嫌味っぽい口調で言われたが、秋人は無視して淡々と今回のコンテストが台無しになった事を謝罪し、頭を下げた。抹茶もなぜか謝罪していたので、美月も謝ってしまった。


「ふぅん。別にいいけど、添加物入りの料理ばっかり作っているあんた達に謝ってもらってもねぇ……」


 白子は顎をツンとあげ、謝っている美月達に偉そうな態度だった。秋人や抹茶は苦笑するだけで、特に言い返さない。


 これが大人ってやつ?


 どうも二人が情けなく感じてしまった。


「何でそんなにお兄ちゃんの事を嫌っているんですか?」


 設定上仕方ないので、秋人の事はお兄ちゃんと呼ぶ事にした。なぜか秋人は、ニヤニヤと口元を緩ませていた。お兄ちゃんと呼ばれるのが嬉しいんだろうか。もしそうなら、本当に幻滅だ。


「だって美味しさの素とか健康に悪いじゃない。海外ではそういう論文出てるし」

「白子さん、その実験データは大量に摂取した結果ですよ。たまに食べるぐらいなら問題無いです」


 抹茶はやんわりとツッコミを入れたが、白子は逆にマニアックな論文データなどを持ち出し反論してきた。いわゆる「論破」という状況になり、白子の鼻はかなり天狗だった。


 そんな白子の爪や指をよく見ると、ガサガサと乾燥していた。爪の先はひび割れてもいる。以前抹茶が、健康マニアはかえって栄養失調になりと言っていた事も思い出し、なんとも言えない気持ちになってしまう。


「白子さんの子供さんも、添加物で原因で亡くなったんですか?」


 うっかりしていた。こんな事を言うつもりはなかったが、美月は口を滑らせていた。


 白子は明らかに目に怒りを滲ませていた。失言だった事を悟る。


 しかし、添加物が直接の原因で死ぬ事なんてあるのだろうか?


 一応ミステリを書いている母は、食品添加物で人を殺せないかというトリックを思いつき、色々と調べたこともあるらしい。結論から言うと食品添加物で人を殺すのは無理だという結果になった。よっぽど大量に摂取すれば可能だが、添加物モリモリのファストフードを連日食べても致死量までは至らない。


 毎日食事を共にする家族が、わざと添加物入りの食品を食べさせて体調を悪くさせる事は可能だが、殺すとなると30年ぐらいかけてじわじわとと首を絞める方法しかない。それでもターゲットの免疫力が高かった場合、殺すのは無理だろう。この方法もかなりの賭けで、確実では無い。という事で母は食品添加物で人を殺すコージーミステリはボツにしていた。


 美月はこの事をペラペラと話していた。白子は納得いかない感じだが、だんだんと泣きそうに目が赤くなっていた。


「そうだよ、白子さん。添加物で人を殺すのは無理だよ」


 そう言う秋人の声はとても優しかった。


「ええ。子供さんの事は残念ですけれど、白子さんせいじゃ無いですよ」


 腹黒そうな抹茶だったが、この時ばかりは、優しい声で白子を宥めていた。


「そうね。食品添加物で人を殺したミステリのトリックなんて聞いた事ないわ」


 目頭を抑えながら、白子は言った。


「そういえば甘い香りがしますねぇ。何か作ってたんですか?」


 この場が感動的なムードが流れていたが、ちょちょお腹が減ってきた。美月は、急にこの家に流れている甘ったるい香りが気になってきた。


「ええ。シフォンケーキ作ってたのよ。コンテストでは上手くできなくて、悔しくて」

「いい匂い! 食べたいな」


 再び美月は口を滑らせ、隣に座っている抹茶は慌てていたが、白子はキッチンの方に行きシフォンケーキを持ってきた。


 皿に乗せられたシフォンケーキは確かに色合いも茶色で地味だ。形も真ん中に空洞がある丸いだけのものだ。


 とってもフカフカに見える。ペンギンの雛鳥の茶色い毛を連想してしまう。


「このケーキは、米粉で作ったの。全部オーガニック素材よ」


 ドヤ顔で白子は語り、シフォンケーキを皿に取り分けてくれた。口に入れたシフォンケーキは、想像以上にフカフカだった。ペンギンに雛鳥の毛に中に埋もれていくような気分だ。ふかふかな食感に舌だけでなく、全身が幸福感に包まれてしまった。


「美味しい!」

「うまい!」


 美月だけでなく、秋人も声を上げていた。く抹茶はクールな表情で咀嚼していたが、まんざらでも無いようだった。


「白子さん、このケーキは見た目は地味だけど、マジで美味しいよ。料理コンテストは中止になったが、間違いなく優勝だよ」


 秋人は目を輝かせながら、頷いていた。


「本当、美味しかったよ!」


 美月も拍手を送りながら言う。二人に褒められてしまって白子は、かえって居心地が悪そうだった。


「白子さーん。このケーキのレシピ教えてくださいよー。本当、お願いします! 材料もどこの?」

「まあ、いいわ」


 懇願する秋人に白子は、レシピや材料を教えていた。というかシフォンケーキの事を話している二人はちょっと仲良くなり、話も盛り上がっているではないか。抹茶や美月はマニアックな話題についていけな。


 これは秋人と白子は和解したと見て良いだろう。


「やれやれ。二人とも料理好きですねぇ」


 すっかり話についていけない抹茶は、肩をすくめてボヤいた。


「でも、これで一件落着?」


 美月は和解した二人を見ながら言う。何はともあれ、二人は仲良くなったようだ。おそらく白子も秋人のSNSに文句を送ってくるような事は無いだろう。


「それにしても美味しいわ、このケーキ」


 美月はもう一口シフォンケーキを齧り、棚にある子供の写真を見てみた。子供の写真は、さっき見た時よりも幸せそうな笑顔に見えてしまった。

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