料理王子vs自然派ママ(10)
会長の店のお茶屋を出ると、美月達はコンテスト参加者である原田の家に向かった。
原田は元々秋人のファンという事もあり、全く怒ってはいなかった。秋人がサイン色紙を何枚か書いてやるととっても喜んでいた。
美月は、世の中にはこんなもので喜ぶのか不思議で仕方ないが、原口の上機嫌だったのでホッとした。
こうして原口の家から出ると、一同は白子の家に向かって足をすすめていた。
「それにしても、白子さんも可哀想でもあるのね」
美月は、秋人と抹茶と一緒に歩きながらポツりと呟いた。
会長から聞いた白子の事情を思い出す。
白子には小学生の息子がいたそうだ。ただ、身体が弱く、病気が悪化して何年か前に亡くなったらしい。
死因は別に食べ物ではなかったが、白子は自分を責めてしまったらしい。添加物の入った惣菜やお菓子などを息子に食べさせていた事を悔いてしまい、今のような自然派ママになったようだ。確かに秋人は、美味しさの素など添加物入りに調味料の使っている為、目の敵にしている理由もわかってしまった。単なる嫉妬というわけでは無いようだった。
「人には事情がありますね。何も知らないで一方的に白子さんを嫌ってうたのは、こっちだったかもしれません」
珍しく抹茶も、少し反省したような表情を見せていた。
「そうだな。聖書にも敵を愛せって書いてあるのに、俺はすっかり忘れていたよ」
秋人も素直に反省しているような表情を見せるから、美月も心の中で白子を一方的に嫌いすぎていたのかもしれないと気づく。
「でも、秋人さんだって悪気があって美味しさの素を使ったレシピを開発したわけじゃないよね?」
確かに秋人のレシピは、自然派ママからしたら、許容できない部分もあるだろうが、悪気があってやってるわけではない。
それに全ての人から好かれるなんて無理な話だ。料理初心者や忙しい主婦にとっては秋人のレシピは役に立つだろう。逆に手に込んだ無添加な食材を使ったレシピは難しい。
どっちが正しいとか悪いではなく、単に方向性が違うだけだ。秋人も白子もどっちも悪くは無いと思えてくる。
「まあ、人と人は合う合わないがあるね。でも、できるだけ仲良くしたいよ。僕だって白子さんだって料理好きっていう共通点はあるからね」
秋人は、深くため息をつきながら言った。まだ、夕方になっていないが、もう冬だ。風は暖かくはなかった。
「そうですね。考え方がちょっと違うだけですよ」
抹茶も結論じみた事を言ったところ、白子の家に着いた。
白子の家は、こじんまりとした一軒屋だったが、庭にはハーブなどが植わっていて、丁寧に手入れされているのが伝わってきた。
同時に何かいい匂いもした。玄関先に立っている美月の鼻にも甘い臭いが風にのって届いていた。
「なんかいい匂いするな。まあ、とりあえずチャイム鳴らすか」
秋人はそう言い、チャイムを鳴らした。




