料理王子vs自然派ママ(8)
美月は明日香と一緒に病院のカフェテリアにいた。秋人の見舞いでバタバタと昼食を食べるタイミングを失っていたので、ここで食べる事にした。
秋人と抹茶は電話中だった。料理コンテストの主催者の商店街会長にこんな事になってしまったとずっと電話越しに謝っていた。
電話でも何故か頭を下げながら謝る秋人を見ていると、本当に大人が情けなく見えてしまった。秋人を好きだと思ったのも勘違いだろう。身体はすっかり治ったようだが、心配して損した感じだ。
カフェテリアの中は、クリスマスらしくデコレーションされていた。クリスマスツリーはもちろん、赤や緑のリボンが可愛らしく飾られている。病院は壁も何もかも白い世界に見えてしまうので、このカフェテリアだけは余計に華やかに見えてしまった。見舞客で賑わっていて、少し混んでいたが、美月達は窓際の日当たりの良い席を確保できた。
「私、お腹ぺこぺこよぉー」
そう笑う明日香は、第一印象で感じたように可愛らしい雰囲気だ。やっぱり勇人と二人でいると妖怪系に進化してしまうらしかった。
美月と明日香はメニューを見ながら、サンドイッチとスープ、それにコーヒーを注文した。
ドケチな美月は、誰が金を出すか気になってしまう。そういえば、母以外の大人の女性と食事をするのは始めただ。
「お金? 本当、美月ちゃんってしっかりしてるわね。さっき秋人さんから一万円もらったから大丈夫よ」
「いつのまに!」
そんな所は見た記憶は無いので、こっそりと明日香と秋人でやりとりしたのだろう。
「ケーキ頼んじゃなよ。遠慮しなくていいから」
「でも、そう言われると」
「子供が遠慮するんじゃありませんよ」
美月は、メニューと睨めっこし、結局チョコケーキを頼んだ。いつもは、ドケチな美月だが、明日香にこう言われてしまったし、カフェテリアのクリスマスらしいデコレーションで、気が抜けていたのだろう。
注文したサンドイッチも美味しく、あっという間にたいらげてしまった。サクサクの海老カツとタルタルソースのサンドイッチで、空腹を覚えた今ではいくらでも食べられそうだった。
食べながら明日香は勇人の愚痴をこぼしていたが、あのお茶会の時と違って惚気も混じっていた。今回の料理コンテストに参加したのも勇人に勧められたかららしい。
「勇人に料理の腕前を褒められたから、ちょっと調子に乗っていたのね。別に商品の秋人さんのサイン色紙とかいらんし」
「それは同意です!」
「ねー、あんなの誰が欲しがるのかしら。ファン?」
秋人がいない事をいい事に、秋人の悪口で盛り上がってしまった。まあ、悪口というよりは、下げてつつ愛でるみたいな感じではあったが。
「しれにしても、あの自然派ママはなんなのかしら。倒れた秋人さんにザマァとか言ってた。本当に何でそんなに恨んでいるか謎ね」
明日香はそう言ってコーヒーを啜った。
「何か明日香さんは、理由の心当たりは無いですか?」
「そうねぇ」
そんな事を話しているうちに食後のチョコケーキが届いた。艶々の表面のチョコケーキだったが、クリスマスらしくリースのピックが載っている。店の人の細やかなサービスにちょっと感動しそうだ。
「私、あの白子さんの近所に住んでるけど、評判は最悪ね。いつも家でセミナーみたいのも開いているから、騒音問題になったり」
「うわー、近所にいたら嫌ですね」
ケーキは美味しく食べていたが、白子の悪評を聞くと、美月の顔は苦くなっていた。
「まあ、子供もいないし、旦那さんも忙しいみたいで寂しいんでしょ。でも自己顕示欲はあるし、目立ちたい。目の前に秋人さんみたいな人気者がいたら、嫉妬しちゃうんじゃない?」
「そうですか?」
明日香の意見には、ちょっと違和感がある。
「自然派ママだし、単純に秋人さんの作る手抜きレシピとかが気に入らないって感じじゃ無いんですかね?」
「それもあると思うけど、多分嫉妬よ。ああいう自然派の人達ってやたらとカウンターカルチャーやってるから、王道で人気あるようなタイプを憎む傾向があるらしい」
そう言われてみると納得だった。
「陰謀論とかも学歴とか、何かコンプレックスある人がハマりやすいらしいって聞くわね。マイナーとか少数派になるだけで、ちょっと自分は特別っていう認証欲求満たされるじゃない? お手軽の自尊心が満たせるツールなのよ」
「なんか、明日香さん詳しいですね」
「まあ、これは勇人が言っていた事でもあるんだけどね」
明日香はちょっと舌を出して、子供っぽく笑っていた。
同時に秋人や抹茶もカフェテリアにやってきて、明日香は帰って行った。
「君たち、何話していたの?」
ニコニコと笑った秋人の聞かれた。まさか秋人の悪口で盛り上がっていたとは言えない美月だった。
代わりに明日香から聞いた白子の評判を話す。
「そっか。なるほど。嫉妬でそんな事してる可能性もあるのか」
秋人は、腕を組みしばらく考え込んでいた。




