料理王子vs自然派ママ(7)
昼過ぎの病室は、しんと静かだった。
大部屋だったが、運の良いことに他の患者はいないらしい。ゆっくりと秋人と会話ができそうである。
動揺していた自分が馬鹿みたいだと思うほど、秋人はピンピンと元気そうだった。思わず気が抜ける美月だったが、とりあえず元気そうで安堵した。意外と抹茶も美月と似たようなため息をこぼしていた。
病室には救急車に付き添った明日香や勇人も来ていてた。二人とも秋人の様子に呆れていた。
秋人は毒でこうなったわけではなく、単なる過労で倒れただけだった。昨日徹夜で仕事をしていて、こうなったらしい。医者も呆れ顔で、気分が良くなったらこのまま帰って良いとの事だった。
よくみると秋人の顔色は、さほど悪いようには見えない。今回の事が周りが騒ぎすぎた結果という事で、美月も含めて一同呆れ顔だった。さっきまで心配していた気持ちを返して欲しいと思うぐらいだった。
「でも、最近働きすぎたわ。しばらく年末年始まで休む事にするよ」
ベッドの上で上半身だけ起こした秋人は、バツが悪そうに頭をかいていた。一応今はキラキライケメン料理王子バージョンのはずだが、だんだんとニートバージョンに方に溶けているように見えた。全く残念なイケメンである。さっき美月は、秋人を好きだと自覚したが、どうも勘違いだったようだ。今は隣に明日香がいるが、何も感じない。
「でも、あの自然派ママの白子さん。嫌な感じだったわぁ」
明日香は、あのコンテスト会場の様子を思う出してぷるっと震えていた。
「だよなぁ。倒れた秋人さんに『ザマァ!』とか鬼の形相で言ってたぜ。あれは、相当に恨みフがあるね」
勇人も明日香に同意し、下唇を噛んで顔を顰めていた。
「うん、あの白子さんは怖かった。俺は、なんかしたかねぇ?」
秋人もその心あたりが、全く無いようで首を傾げていた。かなり顔色は良くなっていた。たぶん、もう体調は元に戻っているように見えた。
「単なるアンチでしょう。ほっとけ」
そう言った勇人の胸ポケットに入った携帯が鳴っていた。急な仕事が入ったとバタバタと病室から出て行ってしまった。
残された美月は、首を傾げていた。
「でも、何で秋人さんはそんな恨まれてるの? 秋人さん何かした?」
勇人が言う通り、単なるアンチかとも思ったが、そこまで言うのも行き過ぎだと思った。
「何だったら、もう訴えましょう。ネットでの誹謗中傷は犯罪ですから」
ニヤリと悪い顔を見せる抹茶に、秋人は慌てて止めた。
「ちょ、抹茶さん。それはやめよう。俺のファンでもアンチにも犯罪者が生まれるのは勘弁して欲しいよ」
意外と秋人は、アンチにも優しいらしい。まあ、秋人が誰かを憎んだり恨んだりするタイプには全く見えないが。
「白子さんを調べてみる? 何でこんな事しているか気にならない?」
美月は、気づくとそんな言葉を口にしていた。確かにこんなに秋人を嫌っている白子は謎だが、コンテストで作っていたシフォンケーキは不味そうではなかった。見た目は悪いが、食感は悪くなさそうだった。それに白子が毒を持ったとか疑ってもしまっていた事もあり、美月は白子がなぜ秋人を嫌っているか知りたくなってしまった。
「確かに気になるな。コンテストも台無しになってしまったし、白子さんの事を調べてみよう!」
そう言う秋人の頬は少し赤くなっていた。すっかり元気になっているように見え、一同苦笑していた。




